第49回日本理学療法学術大会

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発表演題 口述 » 内部障害理学療法 口述

その他2

Sun. Jun 1, 2014 12:15 PM - 1:05 PM 第4会場 (3F 302)

座長:八並光信(杏林大学保健学部理学療法学科)

内部障害 口述

[1559] 同種造血幹細胞移植施行前の下肢筋力と移植成績の検討

木口大輔1, 名和由一郎2, 中瀬浩一2, 門田詩織1, 青木卓也1, 板楠今日子2, 竹内一人2, 田内秀樹1, 鴻上繁1 (1.愛媛県立中央病院リハビリテーション部, 2.愛媛県立中央病院がん治療センター血液腫瘍内科)

Keywords:造血幹細胞移植, 下肢筋力, 移植成績

【目的】造血器腫瘍の予後因子として全身状態の指標であるPerformance Statusが因子の一つであることが報告されている。今回我々は,全身状態と関係があると考えられる筋力と同種造血幹細胞移植の治療成績について検討したので報告する。
【方法】対象は同種造血幹細胞移植施行前に下肢筋力評価を実施した77例とした。下肢筋力評価は移植前10日に三菱電機エンジニアリング社製Strength Ergo240(アイソキネティックモード,ペダル回転速度50r/min,測定回数5回)を使用し最大脚伸展トルク値を測定した。統計解析は,筋力の性差による影響を考慮し,性別毎に中央値を用いて低筋力群と高筋力群に分類し,各群の全生存率(overall survival:OS)をKaplan-Meier法にて推定し,群間比較にはlog-rank検定にて検討した。また,低筋力群と高筋力群の群間比較として,同種造血幹細胞移植の予後予測に使用されるEBMT(European Group for Blood and Marrow Transplantation)リスクスコアの5項目のリスク因子(年齢,病期,発症から移植までの期間,ドナーの種類,ドナーと患者の性別の組合せ)についてMann-Whitney U検定を行った。統計ソフトはSPSS Statistics 17.0を使用し,有意水準は5%未満とした。
【倫理的配慮】本研究はヘルシンキ宣言および臨床研究に関する倫理指針に従って実施した。データは個人情報保護に十分に注意し,診療録より後方視的に調査した。
【結果】対象の移植時年齢中央値は50歳(24~66歳),性別は男性44例,女性33例,移植細胞源は血縁者16例,非血縁者61例,移植前処置はフル移植34例,ミニ移植43例,移植後観察期間中央値は345日(3~1980日)であった。下肢筋力は低筋力群1.2±0.4Nm/kg,高筋力群2.1±0.6Nm/kgに分類された。2年OSは,低筋力群は高筋力群比べ有意に予後不良であった(27.9% vs. 63.5%,p<0.01,log-rank test)。下肢筋力とEBMTリスクスコアのリスク因子の単変量解析では,年齢,ドナーの種類,ドナーと患者の性別の組合せでは有意差は認めなかったが,低筋力群は高筋力群と比べて病期は進行し(p<0.01),発症から移植までの期間が長期間であった(p=0.04)。
【考察】本研究は同種造血幹細胞移植の移植成績と筋力について検討した結果,低筋力群は高筋力群に比較し2年OSの有意な低下を認め,移植施行前の下肢筋力低下はEBMTリスクスコアのリスク因子である病期,移植までの期間が影響を及ぼしている可能性が推測された。すなわち,病勢が進行し,診断から移植までの期間が長期のハイリスク患者は,移植施行前には既に筋力低下・体力の低下が生じていることを本研究は示唆している。移植施行前の筋力低下が同種造血幹細胞移植の移植成績に及ぼす影響については,さらなる検討が必要ではあるが,今後,移植施行前の筋力低下に対する治療がOSへ与える影響についても検討する必要があると考える。
【理学療法学研究としての意義】今後,造血器腫瘍患者に対する同種造血幹細胞移植の適応は拡大し患者数も増加してくると予測される。したがって患者の運動機能を低下させることなくquality of Lifeの維持・改善するためにも理学療法は必要であり,本研究は造血幹細胞移植領域における理学療法学研究として重要である。