第49回日本理学療法学術大会

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発表演題 口述 » 内部障害理学療法 口述

その他2

2014年6月1日(日) 12:15 〜 13:05 第4会場 (3F 302)

座長:八並光信(杏林大学保健学部理学療法学科)

内部障害 口述

[1560] 頭頸部癌患者の郭清範囲別における頸部郭清術前後での肩関節機能変化

野中拓馬1, 孫田岳史1, 南谷晶1, 児玉三彦2, 花山耕三3, 正門由久2, 酒井昭博4 (1.東海大学医学部付属病院リハビリテーション技術科, 2.東海大学医学部専門診療学系リハビリテーション科学, 3.川崎医科大学医学部リハビリテーション医学, 4.東海大学医学部付属病院耳鼻咽喉科・頭頸部腫瘍センター)

キーワード:頸部郭清, リハビリテーション, 肩関節

【はじめに】
頭頸部癌のリンパ節転移に対する頸部郭清術は,従来は根治的頸部郭清術が広く行われきたが,現在は筋肉,血管や神経を温存する保存的頸部郭清術が主流となっている。しかし,たとえ副神経を温存したとしても,神経の牽引,拳上,電気メス刺激により副神経が傷害されshoulder syndromeが発生し,術後患者のADL・QOL低下を引き起こす原因となっている。しかも,術後患者を郭清範囲別に分けて肩関節機能を詳細に評価した報告は少ない。そこで今回,当院で頸部郭清術を施行した患者を郭清範囲別に分け,術前,術後における肩関節機能を比較検討し,術後のリハビリテーション(以下,リハビリ)介入時の肩関節へのアプローチについて検討したので報告する。
【方法】
2011年9月1日から2013年9月30日までに当院で頸部郭清術を施行し術前から理学療法の介入が可能であった患者19名29肩(男性16名:年齢69.7±21.3歳,女性3名:年齢50.7±19.3歳)に対し,安静座位にて肩関節自動屈曲可動域,肩関節自動外転可動域,肩甲帯挙上角度,肩甲骨内転移動距離変化を評価した。肩甲骨内転移動距離は個体間や体型の差の違いによる偏位を考慮したDiVetaらの方法(第3胸椎棘突起から肩峰の後角までの距離を安静時から肩甲骨最大内転時に測定し,それぞれ肩甲棘内縁から肩峰後角までの距離で除した値の差)を使用した。これらから術前と術後リハビリ開始時の差を変化量として算出した。郭清範囲の頚部リンパ節のレベルは,LevelI~VIに分類され,LevelIIは副神経より前方をIIA,副神経より頭側をIIBに分けられる。対象患者は耳鼻咽喉科手術記録より郭清範囲別に,IIA~IV(IIB温存):11肩,II~IV:10肩,II~V:8肩の3群に分けられた。統計処理はSPSS(ver.21)の一元配置分散分析,多重比較(Tukey)を実施,有意水準を5%未満とした。
【倫理的配慮】
本研究はヘルシンキ宣言に基づき,本学臨床研究審査委員会の承認を得て当院における臨床研究に関する倫理指針に沿って行った。
【結果】
術後リハビリ開始日は10.9±9.1日であった。副神経の切除はII~V群の2肩のみであり,その他は全て副神経を温存していた。変化量は肩関節自動屈曲可動域,肩関節自動外転可動域で各群間に有意差は認められなかった。肩甲帯挙上はIIA~IV群で3.8°±3.8°,II~IV群で8.5°±6.7°,II~V群で11.9°±8.0°であり,IIA~IV群とII~V群間に有意差を認めた(p=0.03)。IIA~IV群とII~IV群では前者のほうが変化が少ない傾向であった(p=0.21)。肩甲骨内転移動距離はIIA~IV群で0.06±0.11,II~IV群で0.15±0.08,II~V群で0.19±0.09であり,IIA~IV群とII~V群間に有意差を認めた(p=0.02)。IIA~IV群とII~IV群では前者のほうが変化が少ない傾向であった(P=0.13)。
【考察】
頭頸部癌患者に対する頸部郭清術は術後の肩関節機能を維持するためにIIB範囲を温存するようになってきている。副神経が支配である僧帽筋は肩関節屈曲や外転運動時の肩甲上腕リズムに関与するが,今回の研究では郭清範囲別での肩関節屈曲や外転運動の術前後の変化量に有意差は認められなかった。これは肩関節屈曲には三角筋前部線維や大胸筋鎖骨部が優位に働き,肩関節外転には三角筋中部線維や棘上筋が優位に働くことにより僧帽筋の関与が少ないことが影響していたと考えられた。一方,肩甲帯挙上には僧帽筋上部線維が主動筋として働き,肩甲骨内転には僧帽筋中部線維が主動筋として働くために手術の侵襲が少ないとされるIIA~IV群と侵襲が多いとされるII~V群に有意差が生じたと考える。またIIA~IV群とII~IV群間における肩甲骨運動の変化が少ない傾向であったことも副神経を温存したことによる僧帽筋の機能が維持されたためと考えられる。以上のことより,頭頸部癌患者に対する頸部郭清術で,IIB範囲を温存することは術後の肩甲骨運動に大変重要であり,II~Vまで広く郭清した患者には肩甲帯を含めたアプローチが必要であることが示唆された。また今後の課題としては,肩甲帯挙上と肩甲骨内転運動においてはII~IV群よりIIA~IV群のほうが変化が少ない傾向にあったため,今後は対象患者数を増やし検討を重ねていきたい。さらには術後の肩関節機能維持の確認も重要であり,郭清範囲別に回復過程に差が認められるのかを検証していく必要がある。
【理学療法学研究としての意義】
頭頸部癌患者に対する頸部郭清術では,IIB範囲を温存することで肩甲帯挙上と肩甲骨内転運動の機能は術直後も維持できることが示唆された。つまり,術後のリハビリ介入にはIIB範囲を温存した症例には肩関節の運動改善を主体とした介入を行い,II~Vまで郭清した症例には肩関節に加え肩甲帯の両方に介入していくことが必要であろう。