[1562] 背もたれ回転軸位置の違いによる背もたれ傾斜時の臀部ずれ力の変動機序の解明
キーワード:リクライニング式車いす, シーティング, 褥瘡
【はじめに,目的】リクライニング式車いすの背もたれ回転軸位置を股関節に近接させることで,褥瘡発生因子である臀部ずれ力は,従来の位置と比較して背もたれを後傾させる際に35%増加し,元の位置へ起こしていく際に40%減少する(演者ら,2013)。本研究では,背もたれ及び体幹の傾斜軌跡を検討することで,上述の臀部ずれ力の増減の機序を解明しその対策を考案することを目的とした。
【方法】健常男性14人(年齢:22.1±2.6歳,身長:172.4±5.0cm,体重:66.8±9.2kg)を対象とした。電動リクライニング式実験用椅子(背もたれ高:97-110cm,座面奥行き:40cm,座面角度:0度,傾斜角速度:秒速3度)の座面上に床反力計を置き,その上で背もたれに身体背面が接するように座る安楽座位を測定肢位とした。この椅子は,背もたれと座枠の接合部にL字型の部品を差し込み調節することで,背もたれと座枠の位置関係を変えることなく,背もたれ回転軸位置を調節できるものである。実験条件である背もたれ回転軸位置は,若年成人男性の座位時の大転子位置の平均値(河内ら,2000)を参考に,座枠後端から13cm前方の位置(前方条件)と前方条件から7.5cm上方で大転子位置に近接している位置(大転子条件),及び座枠後端と背もたれとの交点(後方条件)の3条件とした。臀部ずれ力の測定には,40cm×40cmの床反力計(共和電業)を使用し,周波数100 Hzでデータサンプリングを行った。さらに,デジタルビデオカメラにて側方から動画を撮影し,高度映像処理プログラム(ダートフィッシュ)を用いて背もたれと体幹の傾斜の軌跡を解析して観察による知見を加えた。また,Aissaouiら(2001)の方法に準拠して,傾斜によって発生する背もたれに対する体幹のずれ幅を動画を基に算出した。背もたれの傾斜は,鉛直軸より後傾10度(Initial Upright Phase:IUP)から開始し,続いて,40度まで後傾させた(Full Reclining Phase:FRP)。その後,背もたれを起こしていき,後傾10度(Returned Upright Phase:RUP)まで戻るように操作した。測定時間は,各期保持時間(IUP5秒,FRP10秒,FRP5秒)に,移行期を含めた40秒間とした。なお,各条件の測定順序は無作為とした。統計学的解析には,臀部ずれ力に関しては,形体学的な影響を考慮して各対象者の体重で除して正規化した値(% Body Weight:%BW)を採用した。ずれ幅については,基準とするIUPと他の2期における測定値との差を採用した(下方:正)。各期における3条件の値を一元配置分散分析とBonferroniの多重比較を用いて比較し,危険率5%未満をもって有意とした。
【倫理的配慮,説明と同意】本研究は,演者所属施設の倫理委員会の承認を得た後に実施した(承認番号:415)。各対象者には本研究の概要を文書にて説明した上で協力を求め,同意書に署名捺印を得た。
【結果】()内に大転子,前方,後方条件の順に測定値を示す。臀部ずれ力[%BW]は,IUP(10.0±1.1,10.0±1.5,10.6±2.0),FRP(15.4±1.6,11.7±1.0,9.3±1.0),RUP(10.8±1.7,14.1±1.2,18.7±3.8)であり,大転子条件が他の2条件と比較してFRPにおいて有意に高値を示し,RUPにおいて有意に低値を示した。ずれ幅[mm]は,FRP(-1.4±7.4,15.3±6.2,71.3±10.7),RUP(2.1±5.3,8.9±5.7,15.0±9.2)であり,大転子条件が他の2条件と比較して2期ともに有意に低値を示した。傾斜軌跡について,大転子及び前方条件では,背もたれと体幹がほぼ平行の位置を保持したまま傾斜し,後傾によって背もたれは下方へ移動して座面と背もたれ上端間距離は短くなった。後方条件では平行な傾斜軌跡を示さなかった。
【考察】ずれ幅の結果より,大転子条件では背もたれと体幹の間にずれが生じていないことから,背もたれと体幹が平行に傾斜することで,体幹に生じる背もたれに対する平行力が背もたれと体幹との間の最大静止摩擦力以下に抑えられていることが示唆される。つまりこのことは,ずれが生じている他の条件よりも強い平行力に抗し得ることを示し,その結果,大転子条件では体幹が背もたれ上を滑ることによってなされる背もたれからの力の解除が困難となる。したがって大転子条件での臀部ずれ力は,FRPでは傾斜に伴って座面と背もたれ上端間距離が短くなるにつれて骨盤が前方へ押されて高値を示し,RUPではその距離が長くなるにつれて骨盤が後方へ引かれて低値を示したと考える。本研究結果から,背もたれの摩擦力を考慮する必要性が示唆された。
【理学療法学研究としての意義】背もたれ傾斜によって生じる臀部ずれ力の変動を軽減するためには,背もたれ回転軸位置を股関節に近接させることに加えて,背もたれの摩擦力を考慮する必要性が示されたことは褥瘡予防の観点から意義がある。
【方法】健常男性14人(年齢:22.1±2.6歳,身長:172.4±5.0cm,体重:66.8±9.2kg)を対象とした。電動リクライニング式実験用椅子(背もたれ高:97-110cm,座面奥行き:40cm,座面角度:0度,傾斜角速度:秒速3度)の座面上に床反力計を置き,その上で背もたれに身体背面が接するように座る安楽座位を測定肢位とした。この椅子は,背もたれと座枠の接合部にL字型の部品を差し込み調節することで,背もたれと座枠の位置関係を変えることなく,背もたれ回転軸位置を調節できるものである。実験条件である背もたれ回転軸位置は,若年成人男性の座位時の大転子位置の平均値(河内ら,2000)を参考に,座枠後端から13cm前方の位置(前方条件)と前方条件から7.5cm上方で大転子位置に近接している位置(大転子条件),及び座枠後端と背もたれとの交点(後方条件)の3条件とした。臀部ずれ力の測定には,40cm×40cmの床反力計(共和電業)を使用し,周波数100 Hzでデータサンプリングを行った。さらに,デジタルビデオカメラにて側方から動画を撮影し,高度映像処理プログラム(ダートフィッシュ)を用いて背もたれと体幹の傾斜の軌跡を解析して観察による知見を加えた。また,Aissaouiら(2001)の方法に準拠して,傾斜によって発生する背もたれに対する体幹のずれ幅を動画を基に算出した。背もたれの傾斜は,鉛直軸より後傾10度(Initial Upright Phase:IUP)から開始し,続いて,40度まで後傾させた(Full Reclining Phase:FRP)。その後,背もたれを起こしていき,後傾10度(Returned Upright Phase:RUP)まで戻るように操作した。測定時間は,各期保持時間(IUP5秒,FRP10秒,FRP5秒)に,移行期を含めた40秒間とした。なお,各条件の測定順序は無作為とした。統計学的解析には,臀部ずれ力に関しては,形体学的な影響を考慮して各対象者の体重で除して正規化した値(% Body Weight:%BW)を採用した。ずれ幅については,基準とするIUPと他の2期における測定値との差を採用した(下方:正)。各期における3条件の値を一元配置分散分析とBonferroniの多重比較を用いて比較し,危険率5%未満をもって有意とした。
【倫理的配慮,説明と同意】本研究は,演者所属施設の倫理委員会の承認を得た後に実施した(承認番号:415)。各対象者には本研究の概要を文書にて説明した上で協力を求め,同意書に署名捺印を得た。
【結果】()内に大転子,前方,後方条件の順に測定値を示す。臀部ずれ力[%BW]は,IUP(10.0±1.1,10.0±1.5,10.6±2.0),FRP(15.4±1.6,11.7±1.0,9.3±1.0),RUP(10.8±1.7,14.1±1.2,18.7±3.8)であり,大転子条件が他の2条件と比較してFRPにおいて有意に高値を示し,RUPにおいて有意に低値を示した。ずれ幅[mm]は,FRP(-1.4±7.4,15.3±6.2,71.3±10.7),RUP(2.1±5.3,8.9±5.7,15.0±9.2)であり,大転子条件が他の2条件と比較して2期ともに有意に低値を示した。傾斜軌跡について,大転子及び前方条件では,背もたれと体幹がほぼ平行の位置を保持したまま傾斜し,後傾によって背もたれは下方へ移動して座面と背もたれ上端間距離は短くなった。後方条件では平行な傾斜軌跡を示さなかった。
【考察】ずれ幅の結果より,大転子条件では背もたれと体幹の間にずれが生じていないことから,背もたれと体幹が平行に傾斜することで,体幹に生じる背もたれに対する平行力が背もたれと体幹との間の最大静止摩擦力以下に抑えられていることが示唆される。つまりこのことは,ずれが生じている他の条件よりも強い平行力に抗し得ることを示し,その結果,大転子条件では体幹が背もたれ上を滑ることによってなされる背もたれからの力の解除が困難となる。したがって大転子条件での臀部ずれ力は,FRPでは傾斜に伴って座面と背もたれ上端間距離が短くなるにつれて骨盤が前方へ押されて高値を示し,RUPではその距離が長くなるにつれて骨盤が後方へ引かれて低値を示したと考える。本研究結果から,背もたれの摩擦力を考慮する必要性が示唆された。
【理学療法学研究としての意義】背もたれ傾斜によって生じる臀部ずれ力の変動を軽減するためには,背もたれ回転軸位置を股関節に近接させることに加えて,背もたれの摩擦力を考慮する必要性が示されたことは褥瘡予防の観点から意義がある。