第49回日本理学療法学術大会

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発表演題 口述 » 生活環境支援理学療法 口述

福祉用具・地域在宅4

Sun. Jun 1, 2014 12:15 PM - 1:05 PM 第6会場 (3F 304)

座長:萩原利昌(川崎市健康福祉局障害保健福祉部)

生活環境支援 口述

[1564] 姫路市における災害避難所のバリアフリーの現状と課題

中島有紀1, 山野薫2, 石井禎基3 (1.大阪暁明館病院リハビリテーション科, 2.宝塚医療大学保健医療学部理学療法学科, 3.姫路獨協大学医療保健学部理学療法学科)

Keywords:社会的弱者, 災害避難所, バリアフリー

【はじめに,目的】日本では急速な高齢社会へ突入し,社会的弱者となる高齢者が増加しているが,災害避難所の多くはバリアフリー化がなされておらず,安全に避難所生活を送るには不十分だといえる。本研究では,災害避難所となる小学校の体育館のバリアの現状を調査し,避難所生活の問題点とその対策について検討したので報告する。
【方法】調査対象は,兵庫県姫路市内の全小学校69校から地域分割を行い,各地域より無作為に12校(S1~4,C1~5,M1~3)を抽出した。方法は,兵庫県福祉のまちづくり条例と楢崎の基準値を参考にして作成した調査票を用いて,バリアの状況を点数化した。調査項目はスロープ,段差,トイレ,AEDの有無,耐震工事の有無の5項目とした。それぞれの項目は0~3点で評価し,合計得点が低いほどバリアが多いとした。
【倫理的配慮,説明と同意】本研究は,事前に姫路市防災センターと同市教育委員会にて趣旨説明を行い,許可を得た。その上で,各小学校の校長に対して書面による研究の趣旨と,収集したデータの保管の責任所在を説明し,同意を得た上で調査を行った。
【結果】各小学校の合計得点はS1:16点,S2:6点,S3:5点,S4:30点,C1:10点,C2:13点,C3:13点,C4:15点,C5:27点,M1:21点,M2:13点,M3:15点であった。体育館の入り口において,基準値に準拠したスロープを設置している小学校は2校(16.7%)であった。トイレでは,「段差がある」,「洋式便器がない」,「個室トイレの狭小」等の問題があり,各体育館のトイレの設置場所や設備にばらつきがあった。多目的トイレの設置場所も体育館内,校舎内,もしくは設置されてない等,様々であった。多目的トイレが校舎内に設置されている場合では,体育館からの距離が最短50m,最長136mであった。また,耐震工事施工済みは2校(16.7%)であった。
【考察】まず,スロープの勾配は1/12(4.76°)を理想とするが,約6割の体育館で勾配が大きく,高齢者が自力駆動により車椅子で傾斜を昇るのは困難であり,昇降には介助者が必要となる。さらに介助者が高齢者となれば,急勾配スロープの押し上げが困難となり,避難所への入出自体ができない場合が想定される。次に,トイレの設置場所や設備の問題は,生活の尊厳に関わる事項であり,今後は,「高齢者,身体障害者等が円滑に利用できる特定建築物の建築の促進に関する法律(ハートビル法)」に基づいた体育館内の多目的トイレの設置を義務付ける必要がある。一方,多目的トイレが校舎内に設置されている場合では,移動距離の長距離化により移動時間を要する。そのため,高齢者では気がね等から排泄を我慢することも考えられ,膀胱炎等の泌尿器疾患や失禁を恐れるあまり水分摂取を控えることによる,脱水症状や熱中症等の二次障害が考えられる。このように,小学校の体育館にはバリアが多く,社会的弱者が安全に避難所生活を送るには不十分であることが分かった。被災後は,家族や健常な避難所生活者は生活の再建に追われ,社会的弱者の介助が十分にできないことが想定される。そのため,介助を要求できず社会的弱者の気がねや我慢等の心理的要因により,避難所に避難しないことも考えられる。そのため,基準値に準拠した各設備の改修工事が必要である。または,立ち上がり補助具,段差解消機器,福祉用具の事前設置も効果的である。
また,本研究によってバリアの改善と耐震工事がバランスよく行われていないことも判明した。このことは縦割行政の併害と考えられる。小学校の体育館は,耐震工事とバリアフリー化を並行して実施することで,教育施設としても災害避難所としても安全性が高められ価値が向上する。今後,福祉用具の事前設置を含めた各自治体の防災部門と教育委員会の調整が必要と考えられた。
一方,福祉避難所は内閣府のガイドラインではその設置・活用が提言されているが,取り組みは進んでおらず,認知度も低い。そのため,地域を中心に福祉避難所の認知度を高める取り組みを行う必要がある。また,福祉避難所の未設置や遠距離も想定されるため,小学校校区単位を範囲とした福祉避難所の設置が理想である。そのためには,本研究で指摘したような小学校の体育館のバリアを一定の基準で改修し,現状の災害避難所を福祉避難所として指定するような取り組みを行えば,避難する地域住民の安全性が増すと考えられる。
【理学療法学研究としての意義】本研究のように災害避難所のバリアフリー化について,理学療法士が介入することで社会的弱者目線での調査を実施できた。今後,行政側へ研究結果や建築的意見を的確に伝えることができれば,有機的活用ができる災害避難所の整備に発展させることができる。