[1566] 院内横断的協働と教育のための天理骨メタプロジェクトにおける理学療法士としての関わり
キーワード:骨転移, リハビリテーション, 多職種連携
【はじめに,目的】
近年,抗癌治療の進歩に伴い進行癌患者の生命予後は延長し,骨転移をもつ患者も増加傾向にある。当院緩和ケアチーム(以下,PCT)に相談される骨転移患者も増加傾向にあり,その対応として症例検討会や院内研修会で共有してきた。一方,原疾患の治療に比べ骨転移に対する治療やそこから引き起こされる障害への対処は十分とはいえず,また主に医師が系統的に学ぶ機会も少ない。また,骨転移は専門科のない横断的分野であり,多種の科・部門にわたる連携・協働が必要である。そこで,骨転移の診断・治療から社会復帰まで理解と知識を深め,連携・協働が可能となる土台作りを目標として天理骨メタプロジェクトを立案・始動した。今回は①天理骨メタプロジェクトにおける理学療法士(以下,PT)の関わり②活動内容紹介③骨メタプロジェクトの振り返りを目的とした。
【方法】
①活動はH23年9月より開始。横断的診療に関わるPCT代表の医師・看護師に加え,放射線科医,整形外科医,PCT所属のPTでワーキングクループ(以下WG)を発足した。月1回会議を開催し骨転移診療における問題点を出し合い共有・分析した。対策として,まず医療者への教育・啓発を目的に「天理骨メタ劇場」という名でワンポイントレクチャーを取り入れた症例追体験シナリオを作成,研修医をはじめ多職種に院内ロケの参加を依頼し撮影を行い,上映した。②PTの関わりとして,ワンポイントレクチャー内に骨転移に対するリハビリテーションについて紹介を行った。また事前調査として当院PTに対し理学療法を進めていく上での問題点についてアンケートを実施し,劇場内で問題提起を行った。③上映当日,参加者に対し骨転移に対する意識の変化を調査する為,上映前後でアンケートを実施した。今回は医師のアンケート内容について集計を行った。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究にあたり,事前に趣旨と無記名であることを説明し,同意を得られた場合のみ記入するよう十分な配慮を行い調査した。
【結果】
≪PTに対する事前アンケート≫
医師の方針が不明確/医師・看護師間の方針の違い/荷重等の具体的指示がなく,患者に対し骨折等のリスク説明がされていない/骨折等の理解に対する温度差/自宅退院の場合はコーディネーターが不明確等の意見があった。一方,PT自身も運動負荷設定/治療との関連/画像や検査の理解が曖昧である状況に問題を感じていた。
≪骨メタ劇場 医師参加者アンケート≫
参加数:182名の職員が参加し,医師が58名であった。有効回答率は89.6%。医師の参加数は過去の緩和関連研修会では最多であった。
<上映前>
①骨転移で苦労した内容:「治療の緊急性・対象」「安静度」「薬剤調整」について苦労を感じている医師が多く,「精神的サポート」「療養の場」に関する苦労は少なかった。
②骨転移診療にあたり意識していること:「骨転移部位」「麻痺や骨折のリスクの有無」については約6割が意識をしている一方,「安静や固定の必要性」31%,「荷重骨かどうか」38%と低い傾向にあった。また「患者・家族への説明」「療養の場」についても低値であった。
<上映後>
③はじめて知ったこと:多くの医師がリハビリの目的や内容について挙げていた。また,放射線治療後のリスクや集学的アプローチの大切さについての回答もみられた。
④もっと知りたいこと:「薬物選択・使用方法」が最も多かったが,「骨折リスク評価・安静度設定」(52%)「装具・補助具」(46%)「リハビリ」(44%)への関心も高い傾向にあった。一方,「患者説明・コミュニケーション」に関しては15%と低値であった。
【考察】
「骨メタ劇場」開催を通して,制作段階から多職種が参加し,事前宣伝効果と共に内容理解を広める機会となり,医師の参加数向上に成功した。
アンケート結果から,上映後は「麻痺や骨折リスクの有無」だけでなく,その予防としての「安静度」「装具・補助具等の固定」や「リハビリ」への関心も高まり,プロジェクト第一歩としての教育・啓発に劇場形式のイベントは有効であったと思われる。一方,PTと医師間で骨転移診療の意識に解離がみられたのは「骨折・麻痺のリスク説明」「療養の場などの方向性」であった。急性期病院では治療優先となる現状から医師の関心が低くなっていると考えられ,今後の課題となった。安全に理学療法を進めることが出来,そして多職種がリスク管理や目標設定等の共通理解をもち骨転移患者さんの生活を支援していけるよう,今後は情報共有できる場として多職種カンファレンス等の開催も検討していきたい。
【理学療法学研究としての意義】
本研究を通して骨転移診療の現状と課題が明確になり,今後,より安全で効果的な理学療法を提供する為の体制作りの一助となった。
近年,抗癌治療の進歩に伴い進行癌患者の生命予後は延長し,骨転移をもつ患者も増加傾向にある。当院緩和ケアチーム(以下,PCT)に相談される骨転移患者も増加傾向にあり,その対応として症例検討会や院内研修会で共有してきた。一方,原疾患の治療に比べ骨転移に対する治療やそこから引き起こされる障害への対処は十分とはいえず,また主に医師が系統的に学ぶ機会も少ない。また,骨転移は専門科のない横断的分野であり,多種の科・部門にわたる連携・協働が必要である。そこで,骨転移の診断・治療から社会復帰まで理解と知識を深め,連携・協働が可能となる土台作りを目標として天理骨メタプロジェクトを立案・始動した。今回は①天理骨メタプロジェクトにおける理学療法士(以下,PT)の関わり②活動内容紹介③骨メタプロジェクトの振り返りを目的とした。
【方法】
①活動はH23年9月より開始。横断的診療に関わるPCT代表の医師・看護師に加え,放射線科医,整形外科医,PCT所属のPTでワーキングクループ(以下WG)を発足した。月1回会議を開催し骨転移診療における問題点を出し合い共有・分析した。対策として,まず医療者への教育・啓発を目的に「天理骨メタ劇場」という名でワンポイントレクチャーを取り入れた症例追体験シナリオを作成,研修医をはじめ多職種に院内ロケの参加を依頼し撮影を行い,上映した。②PTの関わりとして,ワンポイントレクチャー内に骨転移に対するリハビリテーションについて紹介を行った。また事前調査として当院PTに対し理学療法を進めていく上での問題点についてアンケートを実施し,劇場内で問題提起を行った。③上映当日,参加者に対し骨転移に対する意識の変化を調査する為,上映前後でアンケートを実施した。今回は医師のアンケート内容について集計を行った。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究にあたり,事前に趣旨と無記名であることを説明し,同意を得られた場合のみ記入するよう十分な配慮を行い調査した。
【結果】
≪PTに対する事前アンケート≫
医師の方針が不明確/医師・看護師間の方針の違い/荷重等の具体的指示がなく,患者に対し骨折等のリスク説明がされていない/骨折等の理解に対する温度差/自宅退院の場合はコーディネーターが不明確等の意見があった。一方,PT自身も運動負荷設定/治療との関連/画像や検査の理解が曖昧である状況に問題を感じていた。
≪骨メタ劇場 医師参加者アンケート≫
参加数:182名の職員が参加し,医師が58名であった。有効回答率は89.6%。医師の参加数は過去の緩和関連研修会では最多であった。
<上映前>
①骨転移で苦労した内容:「治療の緊急性・対象」「安静度」「薬剤調整」について苦労を感じている医師が多く,「精神的サポート」「療養の場」に関する苦労は少なかった。
②骨転移診療にあたり意識していること:「骨転移部位」「麻痺や骨折のリスクの有無」については約6割が意識をしている一方,「安静や固定の必要性」31%,「荷重骨かどうか」38%と低い傾向にあった。また「患者・家族への説明」「療養の場」についても低値であった。
<上映後>
③はじめて知ったこと:多くの医師がリハビリの目的や内容について挙げていた。また,放射線治療後のリスクや集学的アプローチの大切さについての回答もみられた。
④もっと知りたいこと:「薬物選択・使用方法」が最も多かったが,「骨折リスク評価・安静度設定」(52%)「装具・補助具」(46%)「リハビリ」(44%)への関心も高い傾向にあった。一方,「患者説明・コミュニケーション」に関しては15%と低値であった。
【考察】
「骨メタ劇場」開催を通して,制作段階から多職種が参加し,事前宣伝効果と共に内容理解を広める機会となり,医師の参加数向上に成功した。
アンケート結果から,上映後は「麻痺や骨折リスクの有無」だけでなく,その予防としての「安静度」「装具・補助具等の固定」や「リハビリ」への関心も高まり,プロジェクト第一歩としての教育・啓発に劇場形式のイベントは有効であったと思われる。一方,PTと医師間で骨転移診療の意識に解離がみられたのは「骨折・麻痺のリスク説明」「療養の場などの方向性」であった。急性期病院では治療優先となる現状から医師の関心が低くなっていると考えられ,今後の課題となった。安全に理学療法を進めることが出来,そして多職種がリスク管理や目標設定等の共通理解をもち骨転移患者さんの生活を支援していけるよう,今後は情報共有できる場として多職種カンファレンス等の開催も検討していきたい。
【理学療法学研究としての意義】
本研究を通して骨転移診療の現状と課題が明確になり,今後,より安全で効果的な理学療法を提供する為の体制作りの一助となった。