[1573] Ely test・Ober test・Thomas test変法の信頼性
Keywords:大腿直筋, 大腿筋膜張筋, 評価
【はじめに,目的】
臨床検査と測定は決して特定の疾患や機能障害の存在を100%肯定したり否定したりできない。当院は下肢の筋長検査において,大腿直筋(RF)はEly test,大腿筋膜張筋(TFL)はOber testを使用している。Thomas test変法(RF,TFLの鑑別)も併用して理学診断精度を上げるように努めている。臨床実習学生や新人理学療法士にも同様に指導している。信頼性と測定誤差はあらゆる評価の必須の性質であり有用かつ意味がある。測定誤差は測定自体が適切で妥当であるかを示す。先行研究において各疾患における筋長検査の信頼性の報告は散見するが,無症候性の者を対象にした報告は少ない。また,同名筋に対し異なる筋長検査を実施し,信頼性を比較した介入や臨床経験の差による信頼性の報告も少ない。臨床検査を行う際は,疾患が不確定で検査前確立が50%のことも多く,代償動作にも注意を払う。そのため,これらの要素がどのように信頼性に係るかを知ることは臨床上,実習生,新人理学療法士の指導を行ううえで重要な情報となる。本研究目的は,下肢の筋長検査は臨床経験の差により信頼性が変化するか否かを調べること,同名筋に異なる筋長検査を実施して信頼性を比較検討することである。
【方法】
対象はボランティア30例。平均年齢53.6±19.3歳。男性11名,女性19名。筋長評価はEly test,Ober test,KendallのThomas test変法(単関節筋・二関節筋鑑別検査,大腿直筋(T-RF)大腿筋膜張筋(T-TFL))である。Ely testは腹臥位にて検者が他動的に膝を屈曲させ殿部まで接地できれば陰性とした。Ober testはKendallの変法に従い,大腿を前額面で回旋中間位,膝関節伸展として,下肢が水平面より10°下となるまで落下すれば陰性とした。Thomas test変法はKendallの方法に従い,開始肢位は腰椎と仙椎を治療台に平坦に設定し,一側は股関節屈曲120°膝関節屈曲80°に固定した。対側は大腿後面を治療台に下垂させ,膝関節屈曲80°以上でRFとTFLの筋長は正常とした。鑑別は下垂側の膝屈曲80°以下,股関節屈曲位,膝関節伸展した場合,検者が他動的に膝関節伸展0°にして股関節伸展可動域が増加すれば,RFかTFLの短縮と判断した。TFLの鑑別は下垂側の股関節外転,大腿の内旋,大腿に対する下腿の外旋が出現した場合,TFLの短縮と判断した。評価は臨床経験10年目と理学療法養成学生(PTS)間の2人の検者により行い,筋長の生理的変化を最小限にするため同日連続して実施した。検者が評価を行う間,他の検者は退席した。検者,筋長検査の順番はランダムに行った。陽性の場合,その理由を記載した。陰性決定に必要可動域は目測にて行った。測定誤差を減少させるためPTSに評価の内容を十分学習して貰った。除外基準は疼痛により検査不能であった者とした。統計解析は得られたデータを0,1のダミー変数に変換し,Cohenのκ係数,標準誤差(SEM),95%信頼区間(95%CI)を求めた。κ係数の0.3が95%CIの下限に達するに十分な検出力を保証するためにsample sizeは30に設定した。すべての統計解析のためにSPSS statistics 21を用いた。
【倫理的配慮,説明と同意】
対象者には本研究の内容を口頭にて十分に説明し,研究データの使用に対して同意を得た。
【結果】
各評価のκ係数,SEM,95%CIはEly test(κ=0.64 SEM=0.14 95%CI=0.36~0.92)Ober test(κ=0.21 SEM=0.12 95%CI=-0.02~0.46)Thomas test変法(T-RFκ=0.34 SEM=0.18 95%CI=-0.01~0.70 T-TFLκ=0.44 SEM=0.16 95%CI=0.12~0.77)であった。
【考察】
経験年数の差により信頼性は減少した。Ely testは最も信頼性が高かったが,T-RFは最も信頼性が低くなった。Ober testとT-TFLは共に低い信頼性であった。不一致の要因は,代償動作の見逃し,目測による可動域の相違,陽性,陰性の不明瞭領域に判断の相違が多く,評価や指導の際に注意を払うべき要素であることが示唆された。
【理学療法学研究としての意義】
筋長検査の信頼性は臨床経験の差で減少する。検査前確立が50%の対象者は陽性,陰性の不明瞭領域に判断の相違があり,各評価の実施,指導の際に見逃し易い代償動作に注意し,目測の可動域判定は検者間の精度の差があることを留意する必要がある。臨床検査は単一的に行うのではなく複合的に行い判断する必要がある。
臨床検査と測定は決して特定の疾患や機能障害の存在を100%肯定したり否定したりできない。当院は下肢の筋長検査において,大腿直筋(RF)はEly test,大腿筋膜張筋(TFL)はOber testを使用している。Thomas test変法(RF,TFLの鑑別)も併用して理学診断精度を上げるように努めている。臨床実習学生や新人理学療法士にも同様に指導している。信頼性と測定誤差はあらゆる評価の必須の性質であり有用かつ意味がある。測定誤差は測定自体が適切で妥当であるかを示す。先行研究において各疾患における筋長検査の信頼性の報告は散見するが,無症候性の者を対象にした報告は少ない。また,同名筋に対し異なる筋長検査を実施し,信頼性を比較した介入や臨床経験の差による信頼性の報告も少ない。臨床検査を行う際は,疾患が不確定で検査前確立が50%のことも多く,代償動作にも注意を払う。そのため,これらの要素がどのように信頼性に係るかを知ることは臨床上,実習生,新人理学療法士の指導を行ううえで重要な情報となる。本研究目的は,下肢の筋長検査は臨床経験の差により信頼性が変化するか否かを調べること,同名筋に異なる筋長検査を実施して信頼性を比較検討することである。
【方法】
対象はボランティア30例。平均年齢53.6±19.3歳。男性11名,女性19名。筋長評価はEly test,Ober test,KendallのThomas test変法(単関節筋・二関節筋鑑別検査,大腿直筋(T-RF)大腿筋膜張筋(T-TFL))である。Ely testは腹臥位にて検者が他動的に膝を屈曲させ殿部まで接地できれば陰性とした。Ober testはKendallの変法に従い,大腿を前額面で回旋中間位,膝関節伸展として,下肢が水平面より10°下となるまで落下すれば陰性とした。Thomas test変法はKendallの方法に従い,開始肢位は腰椎と仙椎を治療台に平坦に設定し,一側は股関節屈曲120°膝関節屈曲80°に固定した。対側は大腿後面を治療台に下垂させ,膝関節屈曲80°以上でRFとTFLの筋長は正常とした。鑑別は下垂側の膝屈曲80°以下,股関節屈曲位,膝関節伸展した場合,検者が他動的に膝関節伸展0°にして股関節伸展可動域が増加すれば,RFかTFLの短縮と判断した。TFLの鑑別は下垂側の股関節外転,大腿の内旋,大腿に対する下腿の外旋が出現した場合,TFLの短縮と判断した。評価は臨床経験10年目と理学療法養成学生(PTS)間の2人の検者により行い,筋長の生理的変化を最小限にするため同日連続して実施した。検者が評価を行う間,他の検者は退席した。検者,筋長検査の順番はランダムに行った。陽性の場合,その理由を記載した。陰性決定に必要可動域は目測にて行った。測定誤差を減少させるためPTSに評価の内容を十分学習して貰った。除外基準は疼痛により検査不能であった者とした。統計解析は得られたデータを0,1のダミー変数に変換し,Cohenのκ係数,標準誤差(SEM),95%信頼区間(95%CI)を求めた。κ係数の0.3が95%CIの下限に達するに十分な検出力を保証するためにsample sizeは30に設定した。すべての統計解析のためにSPSS statistics 21を用いた。
【倫理的配慮,説明と同意】
対象者には本研究の内容を口頭にて十分に説明し,研究データの使用に対して同意を得た。
【結果】
各評価のκ係数,SEM,95%CIはEly test(κ=0.64 SEM=0.14 95%CI=0.36~0.92)Ober test(κ=0.21 SEM=0.12 95%CI=-0.02~0.46)Thomas test変法(T-RFκ=0.34 SEM=0.18 95%CI=-0.01~0.70 T-TFLκ=0.44 SEM=0.16 95%CI=0.12~0.77)であった。
【考察】
経験年数の差により信頼性は減少した。Ely testは最も信頼性が高かったが,T-RFは最も信頼性が低くなった。Ober testとT-TFLは共に低い信頼性であった。不一致の要因は,代償動作の見逃し,目測による可動域の相違,陽性,陰性の不明瞭領域に判断の相違が多く,評価や指導の際に注意を払うべき要素であることが示唆された。
【理学療法学研究としての意義】
筋長検査の信頼性は臨床経験の差で減少する。検査前確立が50%の対象者は陽性,陰性の不明瞭領域に判断の相違があり,各評価の実施,指導の際に見逃し易い代償動作に注意し,目測の可動域判定は検者間の精度の差があることを留意する必要がある。臨床検査は単一的に行うのではなく複合的に行い判断する必要がある。