第49回日本理学療法学術大会

講演情報

発表演題 口述 » 運動器理学療法 口述

スポーツ6

2014年6月1日(日) 12:15 〜 13:05 第12会場 (5F 502)

座長:小林寛和(日本福祉大学健康科学部)

運動器 口述

[1578] 一般大学陸上競技選手に対するコンディショニングチェック

三上兼太朗1, 益田洋史2, 大角侑平3, 中田周兵1, 中村実弓1, 松本尚1, 寒川美奈4, 青木喜満5 (1.整形外科北新病院リハビリテーション科, 2.松田整形外科記念病院, 3.函館整形外科クリニック, 4.北海道大学大学院保健科学研究院, 5.整形外科北新病院)

キーワード:陸上競技, コンディショニングチェック, 傷害予防

【はじめに,目的】
陸上競技選手を対象としたコンディショニングチェックの報告はトップアスリートにおいてみられるものの,一般大学陸上競技選手を対象とした報告は少ない。また,傷害実態とパフォーマンス,柔軟性の関連を同時に報告したものも少ない。本研究は一般大学陸上競技選手におけるコンディショニングチェックの結果から,傷害実態とパフォーマンス,柔軟性との関係を比較検討することを目的とした。
【方法】
北海道の大学陸上競技部における短距離およびフィールド(跳躍,投擲)ブロックに所属する選手35名(男29名,女6名)を対象とした。問診票にて今シーズンにおける傷害歴(有無,部位,種類),その際の受診の有無,シーズンベスト記録を調査した。ベスト記録は国際陸上競技連盟のスコア表(IAAF SCORING TABLES OF ATHLETICS)に準じて点数化し,中央値より高い群,低い群に分類した。また,理学療法士が各選手の柔軟性(SLR,Thomas test,Ober test,Ely test,股内旋,足背屈,長座体前屈)を測定した。柔軟性各項目における性別,パート(短距離vsフィールド),パフォーマンス(高vs低),傷害の有無による違いをt検定により比較した(P<0.05)。
【倫理的配慮,説明と同意】
ヘルシンキ宣言に基づき,事前に本研究の目的・内容を十分に説明し,書面にて同意を得てから実施した。
【結果】
問診票において,今シーズン傷害ありとの回答は32件(29名)であった。その際,病院受診したのが9件,受診していないが23件であった。傷害部位別では腰部8件,大腿8件,膝7件,下腿3件,足部3件,股関節1件,上肢2件であった。傷害種別では外傷と考えられたもの11件(そのうち肉離れ8件),障害が22件であった。
柔軟性に関して,各項目の平均値を以下に示す(男性右/左//女性右/左)。SLR(°):72.6/74.3//84.2/80.8,Thomas test(cm):1.4/1.0//0.8/0.8,Ober test(cm):2.9/3.8//2.1/2.5,Ely test(cm):11.7/11.9//11.3/11.4,股内旋(°):31.4/31.6//38.3/38.3,足背屈(°):30.0/31.7//35.8/35.8,長座体前屈(cm):37.8//43.7
性差では,左右SLRと左股関節内旋において女子に比して男子が有意に低値を認め(P<0.05),右股関節内旋では低い傾向を示した(P=0.092)。パート別,パフォーマンス高低,傷害の有無との比較においてはいずれも差はみられなかった。また,傷害が多かった腰部,大腿,膝において,各部位ごとに傷害あり群と傷害なし群に分類して比較したが,差はみられなかった。
【考察】
本研究より,80%以上の選手がシーズン中になんらかの傷害を有していることが明らかとなった。一方で,そのうち1/3程度の選手しか医療機関へ受診していないことが判明した。傷害種別でみると,肉離れと慢性障害が多数を占めており,過去の報告と同様の結果であった。傷害を有しながらも医療機関を受診せずに練習や競技に取り組む選手が多いことがうかがえ,理学療法士が傷害予防やコンディショニングのため介入していく必要性があると考えられた。
柔軟性に関しては,女子に比して男子で左右ハムストリングスのタイトネスが有意に高く,左右股関節内旋のタイトネスが高い傾向であることが明らかになった。一方で男女共に傷害の有無およびパフォーマンス高低で柔軟性に差はみられなかった。よって,これらタイトネスの性差は傷害やパフォーマンスとの関連は低いと考えられた。今後健常人や他種目との比較から,陸上競技特性としての性差かどうか検討していきたい。
過去の報告におけるトップアスリートの柔軟性の平均値と本結果を比較すると,一般大学選手は大腿四頭筋と腓腹筋のタイトネスが高く,ハムストリングスのタイトネスが低かった。トップ選手と一般選手ではタイトネスに違いがある可能性が考えられた。また,傷害と柔軟性において,過去の報告では腰痛と股関節内旋の可動域の関連や慢性障害のひとつであるシンスプリントと股関節可動域の関連を示したものもみられる。
以上のことから,今後更に対象選手を増やした検討が必要と考えられた。本研究は大学陸上競技部1団体のみの短距離およびフィールドパート選手が対象のため,対象団体を増やし,中長距離選手も含めて検討していきたい。
【理学療法学研究としての意義】
一般大学陸上競技選手は,傷害を有しているが医療機関を受診しない選手が多いこと,慢性障害が多い傾向にあることから,コンディショニングへの介入の有用性が考えられた。また本研究で得られたデータから前向きに傷害やパフォーマンスを調査することで,陸上競技における傷害予防,肉離れや慢性傷害のリスク因子,パフォーマンスへ影響する因子の検討への取り組みとしていきたい。