第49回日本理学療法学術大会

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発表演題 ポスター » 基礎理学療法 ポスター

人体構造・機能情報学9

Sun. Jun 1, 2014 12:15 PM - 1:05 PM ポスター会場 (基礎)

座長:荒川高光(神戸大学大学院保健学研究科リハビリテーション科学)

基礎 ポスター

[1580] 大腿直筋筋内腱の形態観察

髙橋裕介1,2, 岡田恭司3, 齋藤明3, 斎藤功4, 木下和勇1,5, 木元稔6, 若狭正彦3 (1.秋田大学大学院医学系研究科博士前期課程, 2.秋田組合総合病院, 3.秋田大学大学院医学系研究科保健学専攻理学療法学講座, 4.羽後町立羽後病院, 5.山王整形外科医院, 6.秋田県立医療養育センター)

Keywords:大腿直筋, 筋内腱, 変形性膝関節症

【はじめに,目的】
超音波法の発達により運動中の筋線維の配列や収縮中の長さの変化を生体にて観察することが可能になった。そのため,筋線維が腱張力方向となす角度である羽状角の研究が進み,腱や腱膜の形状やそれらに対する筋線維の配列が重要であるといわれている。一般に理学療法ではこれらの情報をもとに身体内部の構造を推察し,治療を行う。しかし,腱や腱膜など,筋の内部構造についての報告は少ない。特に大腿直筋は浅層に羽状筋,深層に平行筋が走行する特殊な筋・腱膜構造を持っている。そこで本研究は大腿直筋の筋内腱を対象として,その形態を若年健常者と高齢健常者,変形性膝関節症患者で比較し,形態変化の有無を明らかにすることを目的とした。
【方法】
若年健常者23名46肢(年齢20.8歳,体重54.3kg,身長160.9cm,以下若年健常群)と高齢健常者21名41肢(年齢72.1歳,体重54.7kg,身長152.cm,以下高齢健常群)変形性膝関節症患者女性26名40肢(年齢72.4歳,体重55.4kg,身長154.8cm,以下膝OA群)を対象とした。大腿直筋の観察には超音波画像診断装置(日立,HI VIVION AVIUS)を用いた。観察項目は(1)筋内腱上下長(上前腸骨棘と筋内腱末端の距離),(2)超音波短軸像上での筋内腱形態,(3)超音波短軸像上での筋内腱の向き(筋内腱前方端から筋内腱後方端を結んだ線の指す方向)の3項目とした。計測方法は以下の通りである。
(1)観察肢位は背臥位とした。超音波を用いて筋内腱末端部をマーキングし,メジャーを用いて計測した。計測値は上前腸骨棘から膝蓋骨上縁までの距離(AP距離)で割り(筋内腱上下長/AP距離比),一元配置分散分析,TukeyのHSDを用いて比較した。
(2)観察部位は大腿前面で上前腸骨棘と膝蓋骨上縁を結ぶ線の中点,観察肢位は端座位で股関節,膝関節屈曲90°の肢位とし,短軸像で観察した。観察された形態は1)カーブがないもの:直線型,2)カーブが1つだけあるもの:C型,3)カーブが2つあり,かつ凸の向きが反対のもの:S型,4)上記いずれにも当てはまらないもの:特殊型として4種類に分類した。その出現頻度を各群でχ2独立性検定を用いて比較した。
(3)(2)で得られた画像から筋内腱の向きを観察し,内向きと外向きに分類した。
統計学的解析では,危険率5%以下を有意とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は倫理委員会の承諾を得て実施した。全ての対象者に本研究の十分な説明を行い,所定の文書で同意を得た。
【結果】
(1)筋内腱上下長/AP距離比:若年健常群と比較して膝OA群が有意に低値を示した(0.70±0.082 vs 0.68±0.04,p=0.003)。また,高齢健常群と比較して膝OA群が有意に低値を示した(0.73±0.045 vs 0.68±0.04,p<0.001)
(2)筋内腱形態:1)直線型は若年健常群では8肢,高齢健常群では23肢,膝OA群では12肢観察され,高齢健常群で有意に多かった(p<0.001)。2)C型は若年健常群では26肢,高齢健常群では11肢,膝OA群では15肢観察され,若年健常群で有意に多かった(p<0.001)。3)S型は若年健常群では6肢,高齢健常群では7肢,膝OA群では6肢観察された。4)特殊型は膝OA群でのみ7肢観察され,膝OA群で有意に多かった(p<0.001)。
(3)筋内腱の向き:若年健常群では筋内腱は全例内向きに走行していたが,高齢健常群で外向きに走行しているものが7肢,膝OA群では外向きに走行しているものが5肢観察された。
【考察】
羽状筋の筋線維は筋内腱を起始部とするため,筋内腱に形態変化があるということは筋線維の長さや走行に変化が生じていることが推察される。特に大腿直筋において筋内腱上下長が短縮しているということは羽状筋と平行筋の占める割合が変化することになり,筋発揮特性が変化している可能性がある。また,筋内腱の短縮はROM制限の一因であるかもしれない。膝OA群における特殊型の存在は筋繊維配列や走行が乱れている可能性を示唆する。筋内腱の向きは膝OA群でのみ外向きの走行が観察され,アライメントの変化との関連性が示唆された。
【理学療法学研究としての意義】
従来,理学療法では筋をターゲットとした治療介入が行われてきた。しかし,今回の結果から筋だけでなくその起始部となる腱の形態変化が生体に及ぼす影響を考慮する必要性が示された。特にTKA術後においては今回観察されたような筋内腱の形態変化がROMや筋力,動作に影響を及ぼしている可能性がある。