[1581] 外果および腓骨筋滑車における長・短腓骨筋腱の解剖学的観察
Keywords:短腓骨筋腱, 腱の変性, 外果
【はじめに】
足の外来筋の腱は,腓骨の外果や脛骨の内果を滑車として走行を大きく変化させるため,筋の収縮力によって強く圧迫される。とくに走行距離が長く索状を呈する長・短腓骨筋腱は,機械的刺激を受けやすく変性をきたしやすい。
長・短腓骨筋腱は,2カ所において同一区画,すなわち上腓骨筋支帯に被われた外果の後方,下腓骨筋支帯に被われた腓骨筋滑車(踵骨外側面の隆起部)の近傍を走行する。また,短腓骨筋腱が第5中足骨底に停止するのに対して,長腓骨筋腱は立方骨を回り込んで足底の内側に至る。したがって両筋腱の滑動距離は大きく異なり,摩擦が生じやすい。
今回,外果後方と腓骨筋滑車において長・短腓骨筋腱の形状を詳細に観察し,興味深い所見を得たので報告する。
【対象および方法】
対象は,愛知医科大学医学部において研究・教育に供された解剖実習体3体5肢である。下伸筋支帯,上および下腓骨筋支帯を切離して長腓骨筋腱を剖出し,さらに同筋を剥離反転して短腓骨筋腱を剖出した。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は,ヘルシンキ宣言および死体解剖保存法に基づいて実施した。生前に本人の同意により篤志献体団体に入会し,研究・教育に供された解剖実習体を使用し,愛知医科大学医学部教授の指導の下に行った。あいち福祉医療専門学校倫理審査委員会の承認を得た。
【結果】
外果の後方において,短腓骨筋腱は,外果後面の溝および長腓骨筋腱の形状に合わせて横断面方向にU字状に弯曲し,長腓骨筋腱を包み込むような形状を呈していた。1体2肢の短腓骨筋腱において,「長軸方向の裂け目」が観察された。
踵骨の腓骨筋滑車は,明瞭な隆起部としては観察できなかった。下腓骨筋支帯の一部が踵骨に付着し,長・短腓骨筋腱を隔てる結合組織性の隔壁を形成していた。そのため,下腓骨筋支帯と踵骨の間に2つの亜区画が形成され,上方の亜区画を短腓骨筋腱,下方の亜区画を長腓骨筋腱が走行していた。
【考察】
長・短腓骨筋腱に変性が好発する部位は,外果の後方,踵骨の腓骨筋滑車,立方骨粗面である(Burman 1934)。これらの3部位は,腱内部に線維軟骨が存在し,血液供給が乏しい部位に一致する(Petersen et al. 2000)。線維軟骨は機械的刺激に対して形成され,膠原線維の化生によって生じるが,血管を欠くため生理的な治癒能力に劣る(Benjamin & Ralphs 1998)。
外果後方において,長・短腓骨筋腱は,上腓骨筋支帯を天蓋,外果を底とする‘トンネル’(fibro-osseous tunnel)を走行し,両筋腱の間に隔壁は存在しなかった。したがって,両筋腱に対する機械的圧迫は大きく,とくに骨に接する短腓骨筋腱において著明であると考えられる。また短腓骨筋腱は,長腓骨筋腱を包み込むような形状を呈していたため,長腓骨筋腱からも圧迫を受けることが示唆される。短腓骨筋腱の「長軸方向の裂け目」は,長腓骨筋腱と骨からの圧迫に対する反応性変化として線維軟骨が形成され,さらに生理的な治癒能力に劣る線維軟骨が機械的ストレスの反復によって変性することによって生じたと考えられる。外果後方における腱断裂のうち短腓骨筋腱の部分断裂が最も多く,「長軸方向の裂け目」を形態的な特徴とする(Sobel et al. 1992)。本研究において観察された「長軸方向の裂け目」は,腱断裂の素因あるいは前駆徴候である可能性が示唆される。長腓骨筋腱は,上腓骨筋支帯と短腓骨筋腱に挟まれるように走行するため,圧迫が軽減され,変性が生じにくいと考えられる。
足関節内反捻挫によって上腓骨筋支帯が損傷され長・短腓骨筋腱が前方へ転位する腓骨筋腱脱臼において,短腓骨筋腱は外果に乗り上げる亜脱臼の状態を呈することが多く,前方へ完全脱臼することは少ない(福原2007)。本研究において,短腓骨筋腱は外果後面の溝および長腓骨筋腱の形状に合わせて弯曲していることが明らかになった。これは,短腓骨筋腱が亜脱臼の状態に留まりやすい理由の1つになると考えられる。
踵骨の腓骨筋滑車において,長・短腓骨筋腱は大きく走行を変化させることはない。また,結合組織性の隔壁が存在し,両筋腱はそれぞれ固有の亜区画を走行していた。隔壁は,摩擦が生じやすい区画内で滑動距離が異なる腱を分離するために形成されると考えられる(中野2013)。
今後,摘出した長・短腓骨筋腱の組織学的観察を行い,線維軟骨の存在について検討したい。
【理学療法学研究としての意義】
本研究は,「長軸方向の裂け目」などの長・短腓骨筋腱の変性が腓骨外果部の慢性痛,腱断裂,腱脱臼に関与する可能性を示唆するものである。したがって,足部疾患の病態の理解および治療の発展,とくに理学療法の発展に寄与すると考えられる。
足の外来筋の腱は,腓骨の外果や脛骨の内果を滑車として走行を大きく変化させるため,筋の収縮力によって強く圧迫される。とくに走行距離が長く索状を呈する長・短腓骨筋腱は,機械的刺激を受けやすく変性をきたしやすい。
長・短腓骨筋腱は,2カ所において同一区画,すなわち上腓骨筋支帯に被われた外果の後方,下腓骨筋支帯に被われた腓骨筋滑車(踵骨外側面の隆起部)の近傍を走行する。また,短腓骨筋腱が第5中足骨底に停止するのに対して,長腓骨筋腱は立方骨を回り込んで足底の内側に至る。したがって両筋腱の滑動距離は大きく異なり,摩擦が生じやすい。
今回,外果後方と腓骨筋滑車において長・短腓骨筋腱の形状を詳細に観察し,興味深い所見を得たので報告する。
【対象および方法】
対象は,愛知医科大学医学部において研究・教育に供された解剖実習体3体5肢である。下伸筋支帯,上および下腓骨筋支帯を切離して長腓骨筋腱を剖出し,さらに同筋を剥離反転して短腓骨筋腱を剖出した。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は,ヘルシンキ宣言および死体解剖保存法に基づいて実施した。生前に本人の同意により篤志献体団体に入会し,研究・教育に供された解剖実習体を使用し,愛知医科大学医学部教授の指導の下に行った。あいち福祉医療専門学校倫理審査委員会の承認を得た。
【結果】
外果の後方において,短腓骨筋腱は,外果後面の溝および長腓骨筋腱の形状に合わせて横断面方向にU字状に弯曲し,長腓骨筋腱を包み込むような形状を呈していた。1体2肢の短腓骨筋腱において,「長軸方向の裂け目」が観察された。
踵骨の腓骨筋滑車は,明瞭な隆起部としては観察できなかった。下腓骨筋支帯の一部が踵骨に付着し,長・短腓骨筋腱を隔てる結合組織性の隔壁を形成していた。そのため,下腓骨筋支帯と踵骨の間に2つの亜区画が形成され,上方の亜区画を短腓骨筋腱,下方の亜区画を長腓骨筋腱が走行していた。
【考察】
長・短腓骨筋腱に変性が好発する部位は,外果の後方,踵骨の腓骨筋滑車,立方骨粗面である(Burman 1934)。これらの3部位は,腱内部に線維軟骨が存在し,血液供給が乏しい部位に一致する(Petersen et al. 2000)。線維軟骨は機械的刺激に対して形成され,膠原線維の化生によって生じるが,血管を欠くため生理的な治癒能力に劣る(Benjamin & Ralphs 1998)。
外果後方において,長・短腓骨筋腱は,上腓骨筋支帯を天蓋,外果を底とする‘トンネル’(fibro-osseous tunnel)を走行し,両筋腱の間に隔壁は存在しなかった。したがって,両筋腱に対する機械的圧迫は大きく,とくに骨に接する短腓骨筋腱において著明であると考えられる。また短腓骨筋腱は,長腓骨筋腱を包み込むような形状を呈していたため,長腓骨筋腱からも圧迫を受けることが示唆される。短腓骨筋腱の「長軸方向の裂け目」は,長腓骨筋腱と骨からの圧迫に対する反応性変化として線維軟骨が形成され,さらに生理的な治癒能力に劣る線維軟骨が機械的ストレスの反復によって変性することによって生じたと考えられる。外果後方における腱断裂のうち短腓骨筋腱の部分断裂が最も多く,「長軸方向の裂け目」を形態的な特徴とする(Sobel et al. 1992)。本研究において観察された「長軸方向の裂け目」は,腱断裂の素因あるいは前駆徴候である可能性が示唆される。長腓骨筋腱は,上腓骨筋支帯と短腓骨筋腱に挟まれるように走行するため,圧迫が軽減され,変性が生じにくいと考えられる。
足関節内反捻挫によって上腓骨筋支帯が損傷され長・短腓骨筋腱が前方へ転位する腓骨筋腱脱臼において,短腓骨筋腱は外果に乗り上げる亜脱臼の状態を呈することが多く,前方へ完全脱臼することは少ない(福原2007)。本研究において,短腓骨筋腱は外果後面の溝および長腓骨筋腱の形状に合わせて弯曲していることが明らかになった。これは,短腓骨筋腱が亜脱臼の状態に留まりやすい理由の1つになると考えられる。
踵骨の腓骨筋滑車において,長・短腓骨筋腱は大きく走行を変化させることはない。また,結合組織性の隔壁が存在し,両筋腱はそれぞれ固有の亜区画を走行していた。隔壁は,摩擦が生じやすい区画内で滑動距離が異なる腱を分離するために形成されると考えられる(中野2013)。
今後,摘出した長・短腓骨筋腱の組織学的観察を行い,線維軟骨の存在について検討したい。
【理学療法学研究としての意義】
本研究は,「長軸方向の裂け目」などの長・短腓骨筋腱の変性が腓骨外果部の慢性痛,腱断裂,腱脱臼に関与する可能性を示唆するものである。したがって,足部疾患の病態の理解および治療の発展,とくに理学療法の発展に寄与すると考えられる。