[1589] 足趾圧力とバランス能力・歩行能力との関連
キーワード:足趾圧力, バランス能力, 歩行能力
【はじめに,目的】
足趾機能に関する研究は国内外で行われており,特に足趾で握る力である「足趾把持筋力」に関する研究が散見される。足趾把持筋力について,他の運動機能に比して年代による著明な低下,バランス能力や歩行速度との関連,足趾把持筋力トレーニングによる,筋力・バランス能力・歩行能力の改善等の報告がある。しかし,高齢者では足趾把持動作の理解困難な者や,足趾可動域制限による測定困難な者もいる。そのため,「足趾圧力」(足趾で床を押す力)の測定が足趾筋力の測定として有用と考える。しかし,高齢者を対象とした足趾圧力と運動機能との関連を明らかにした報告は少ない。そこで,本研究では足趾圧力とバランス能力・歩行能力との関連を明らかにすることを目的とした。
【方法】
対象は地域在住の60歳以上の女性23名,46肢(平均年齢71.9±5.5歳)とした。足趾圧力の測定には,アナログ式握力計(竹井機器工業製)を用い,握り部分を足趾で垂直に押すよう指示した。端坐位と立位にて,左右各2回測定した。足趾把持筋力は足趾把持筋力計(竹井機器工業製)を用い,端坐位にて左右各2回測定した。足趾圧力・足趾把持筋力とも最大値を分析に採用した。等尺性膝伸展筋力は,徒手筋力計モービィ(酒井医療製)を用い,端坐位で膝関節90°屈曲位での等尺性収縮筋力を左右各2回測定し,最大値を分析に採用した。片脚立位保持時間の測定では,1分間を上限とし,左右各2回測定し最大値を分析に採用した。歩行能力の指標として10m歩行路の最大歩行と,快適歩行の所要時間を各2回測定し,いずれも最小値を分析に採用した。統計学的分析では,足趾圧力・足趾把持筋力と等尺性膝伸展筋力,片脚立位保持時間との関連を明らかにするために,同側の下肢でPearsonの相関係数を算出した。足趾圧力・足趾把持筋力(左右片側の筋力の最大値)と歩行時間との関連は,Pearsonの相関係数を算出した。有意水準は5%とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
埼玉県立大学の倫理審査委員会の承認(受付番号25037号)のもと,対象者に対して研究に関する説明を行い,同意書にて署名を得た。
【結果】
足趾圧力は端坐位で右7.2±3.6kg,左7.0±3.6kg。立位で右17.3±6.6kg,左16.3±5.8kg。足趾把持筋力は右4.3±2.2kg,左4.8±2.4kg。等尺性膝伸展筋力は右20.3±7.0kg,左20.7±7.5kg。片脚立位バランスは右43.2±23.2秒,左44.2±20.0秒。歩行時間は最大歩行5.3±0.7秒,快適歩行6.4±0.7秒。足趾圧力(坐位)と有意な相関を認めた項目は,足趾圧力(立位)(r=0.588),足趾把持力(r=0.345),等尺性膝伸展筋力(r=0.654),最大歩行時間(r=-0.558)であった。足趾圧力(立位)と有意な相関を認めた項目は,足趾圧力(坐位)(r=0.588),等尺性膝伸展筋力(r=0.335)であった(p<0.05)。足趾圧力の坐位・立位とも片脚立位保持時間,快適歩行との間に有意な相関は認められなかった。
【考察】
足趾圧力(坐位)と足趾把持筋力には相関があり,また,平均の差が,足趾圧力(坐位)は足趾把持筋力より右2.9kg,左2.2kg高値を示した。先行研究でも足趾圧力と足趾把持筋力との相関や,足趾把持筋力に比べ足趾圧力が高値を示すとの報告があり,追認する結果であった。足趾圧力の方が足趾把持筋力より高値を示した理由として,普段の生活では足趾による把持動作は比較的行われない動作であるが,足趾で地面を押す動作は歩行時の地面を押す動作に類似していることの慣れや足関節底屈筋による補助作用などが考えられた。足趾圧力(立位)と足趾把持筋力間に関連を認めなかった理由として,足趾圧力(立位)測定時の体重による代償,立位バランスが影響したためと考えた。足趾圧力(坐位・立位)と等尺性膝伸展筋力には有意な相関があり,足趾圧力も下肢筋力の代表値となる可能性が示された。足趾圧力(坐位)と最大歩行に有意な相関を認めたが,快適歩行では有意な相関を認めなかった。足趾は歩行の立脚後期に足部の安定や推進力に寄与するとされ,足趾把持筋力と最大歩行速度との関連が報告されている。本研究で測定した足趾圧力においても,同様の機能を評価可能であると考えた。一方,足趾圧力(立位)では最大歩行・快適歩行ともに有意な相関を認めなかった。前述と同様に,体重による代償,立位のバランス能力が影響したためと考えた。
【理学療法学研究としての意義】
足趾圧力測定は,動作理解が容易で,可動域制限に影響されない測定であり,歩行能力に関与する重要な測定項目の一つとして示されたことで,理学療法プログラムを考えるうえで意義があると考える。
足趾機能に関する研究は国内外で行われており,特に足趾で握る力である「足趾把持筋力」に関する研究が散見される。足趾把持筋力について,他の運動機能に比して年代による著明な低下,バランス能力や歩行速度との関連,足趾把持筋力トレーニングによる,筋力・バランス能力・歩行能力の改善等の報告がある。しかし,高齢者では足趾把持動作の理解困難な者や,足趾可動域制限による測定困難な者もいる。そのため,「足趾圧力」(足趾で床を押す力)の測定が足趾筋力の測定として有用と考える。しかし,高齢者を対象とした足趾圧力と運動機能との関連を明らかにした報告は少ない。そこで,本研究では足趾圧力とバランス能力・歩行能力との関連を明らかにすることを目的とした。
【方法】
対象は地域在住の60歳以上の女性23名,46肢(平均年齢71.9±5.5歳)とした。足趾圧力の測定には,アナログ式握力計(竹井機器工業製)を用い,握り部分を足趾で垂直に押すよう指示した。端坐位と立位にて,左右各2回測定した。足趾把持筋力は足趾把持筋力計(竹井機器工業製)を用い,端坐位にて左右各2回測定した。足趾圧力・足趾把持筋力とも最大値を分析に採用した。等尺性膝伸展筋力は,徒手筋力計モービィ(酒井医療製)を用い,端坐位で膝関節90°屈曲位での等尺性収縮筋力を左右各2回測定し,最大値を分析に採用した。片脚立位保持時間の測定では,1分間を上限とし,左右各2回測定し最大値を分析に採用した。歩行能力の指標として10m歩行路の最大歩行と,快適歩行の所要時間を各2回測定し,いずれも最小値を分析に採用した。統計学的分析では,足趾圧力・足趾把持筋力と等尺性膝伸展筋力,片脚立位保持時間との関連を明らかにするために,同側の下肢でPearsonの相関係数を算出した。足趾圧力・足趾把持筋力(左右片側の筋力の最大値)と歩行時間との関連は,Pearsonの相関係数を算出した。有意水準は5%とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
埼玉県立大学の倫理審査委員会の承認(受付番号25037号)のもと,対象者に対して研究に関する説明を行い,同意書にて署名を得た。
【結果】
足趾圧力は端坐位で右7.2±3.6kg,左7.0±3.6kg。立位で右17.3±6.6kg,左16.3±5.8kg。足趾把持筋力は右4.3±2.2kg,左4.8±2.4kg。等尺性膝伸展筋力は右20.3±7.0kg,左20.7±7.5kg。片脚立位バランスは右43.2±23.2秒,左44.2±20.0秒。歩行時間は最大歩行5.3±0.7秒,快適歩行6.4±0.7秒。足趾圧力(坐位)と有意な相関を認めた項目は,足趾圧力(立位)(r=0.588),足趾把持力(r=0.345),等尺性膝伸展筋力(r=0.654),最大歩行時間(r=-0.558)であった。足趾圧力(立位)と有意な相関を認めた項目は,足趾圧力(坐位)(r=0.588),等尺性膝伸展筋力(r=0.335)であった(p<0.05)。足趾圧力の坐位・立位とも片脚立位保持時間,快適歩行との間に有意な相関は認められなかった。
【考察】
足趾圧力(坐位)と足趾把持筋力には相関があり,また,平均の差が,足趾圧力(坐位)は足趾把持筋力より右2.9kg,左2.2kg高値を示した。先行研究でも足趾圧力と足趾把持筋力との相関や,足趾把持筋力に比べ足趾圧力が高値を示すとの報告があり,追認する結果であった。足趾圧力の方が足趾把持筋力より高値を示した理由として,普段の生活では足趾による把持動作は比較的行われない動作であるが,足趾で地面を押す動作は歩行時の地面を押す動作に類似していることの慣れや足関節底屈筋による補助作用などが考えられた。足趾圧力(立位)と足趾把持筋力間に関連を認めなかった理由として,足趾圧力(立位)測定時の体重による代償,立位バランスが影響したためと考えた。足趾圧力(坐位・立位)と等尺性膝伸展筋力には有意な相関があり,足趾圧力も下肢筋力の代表値となる可能性が示された。足趾圧力(坐位)と最大歩行に有意な相関を認めたが,快適歩行では有意な相関を認めなかった。足趾は歩行の立脚後期に足部の安定や推進力に寄与するとされ,足趾把持筋力と最大歩行速度との関連が報告されている。本研究で測定した足趾圧力においても,同様の機能を評価可能であると考えた。一方,足趾圧力(立位)では最大歩行・快適歩行ともに有意な相関を認めなかった。前述と同様に,体重による代償,立位のバランス能力が影響したためと考えた。
【理学療法学研究としての意義】
足趾圧力測定は,動作理解が容易で,可動域制限に影響されない測定であり,歩行能力に関与する重要な測定項目の一つとして示されたことで,理学療法プログラムを考えるうえで意義があると考える。