[1592] 多発骨転移を有するEGFR遺伝子変異陽性肺癌一症例に対するリハビリテーションアプローチ
キーワード:骨転移, EGFR変異陽性肺癌, 日常生活動作
【はじめに】骨転移を有するがん患者に対するリハビリテーション(リハビリ)においては,骨折と神経症状出現のリスクを伴うため,多職種チームによる迅速なリスク評価と目標設定が求められる。患者・家族を含めてリスクと目標について共通認識し,リハビリを進めることが重要である。目標設定に関わる因子として,全身状態,骨折のリスク,患者・家族のニーズなどが挙げられるが,予後予測と治療効果が目標設定に与える影響は大きい。肺癌の上皮増殖因子受容体(EGFR)遺伝子変異陽性例においては,ゲフィチニブの有効性が報告されており,リハビリを実施するうえでは,その治療計画と効果を把握することが必要である。今回,左大腿骨と脊椎に多発骨転移を有し,ゲフィチニブ療法が有効であったEGFR遺伝子変異陽性肺癌一症例に対するリハビリを経験したので,その経過を報告する。
【倫理的配慮】本研究の目的を患者・家族に説明し,同意を得た。また個人が特定されないよう,配慮した。
【症例】70歳代女性。X年Y月左膝の疼痛を自覚。整形外科で骨転移を疑われ,当院受診。右上葉に腫瘤を認め,原発性肺癌の骨転移が疑われ,X年Y+3月に精査と疼痛コントロール目的で入院。原発性肺癌(cT3N0M1b StageIV),多発骨転移(T4,L1,L5,仙骨,左大腿骨,右肩甲骨)の診断。EGFR遺伝子変異検査を実施。左大腿骨と腰仙椎への放射線治療(RT),デノスマブ療法,疼痛コントロール,リハビリの実施が計画された。入院3日目より理学療法(PT)開始(週4~5回,1回40~60分)。開始時Barthel Index(BI)60点。左大腿骨と左腰背部にNumerical Rating Scale(NRS)安静時3~4/10,動作時5~6/10の疼痛あり。筋力は左膝関節伸展がMMT2で,他の筋は4。杖歩行が可能だが,RT終了まで臥床安静,食事時端座位可,トイレ時車椅子可,検査時ストレッチャーの安静度指示。左大腿骨はMirel’s score 11点で骨折準備段階の診断。脊椎はThe Spine Instability Neoplastic ScoreでT4:7点,L1:6点,L5:11点で,T4とL5は切迫骨折の可能性ありの評価。PT介入時はEGFR遺伝子変異検査の結果がまだ出ておらず,予後予測において,1年後生存率は50%か6%の状況にあった。リハビリ目標を骨病変部への捻れや圧迫のリスクを最小限にする動作習得と筋力維持とし,動作指導および筋力トレーニング指導を開始した。入院9日目より左大腿骨,腰椎・仙骨にRT(4Gy×6回 合計24Gy)を施行。入院14日目に,安静度が車椅子可(検査・RT時はストレッチャー)となり,座位時間を徐々に延長。同日,EGFR遺伝子変異陽性の診断。入院17日目よりゲフィチニブ療法(250mg/日)を開始。この頃より疼痛軽減がみられ,NRS安静時1~2/10,動作時3~4/10。入院23日目より安静度TWB歩行可となり,固定型歩行器にて歩行練習を開始。目標を自宅退院,室内の歩行器歩行とし,家屋環境へのアプローチと具体的な環境を想定した移動練習を開始した。また転移部へのリスクを最小限にした洗面動作やシャワー動作を,本人・家族に指導。入院52日目のCTにて原発巣の著明な縮小と,骨の硬化像出現が確認されたが,この段階ではまだ骨折のリスクは高く,退院後の屋内移動は固定型歩行器で,外出時は車椅子の生活として指導。入院から55日目に退院。退院時BIは70点。疼痛はNRS安静時0~1/10,動作時1~2/10。筋力左膝関節伸展MMT3。日常生活指導および筋力トレーニングの維持を目的に,訪問リハビリテーションへ移行した。
【考察】本症例のリハビリにおいては,EGFR遺伝子変異検査の結果が出ていない段階では,リハビリ目標を緩和的あるいは回復的な両者への移行を想定し,その後の評価治療経過に合わせて目標設定する必要性があった。どの時期においても,最も骨折リスクの高い左大腿骨の荷重管理について多職種で共通認識し,患者・家族への説明と動作指導を繰り返し行うことが重要であった。本症例はゲフィチニブ療法効果により数年の予後が見込まれ,退院後の安静度管理と運動指導の継続が課題である。今後,症例検討を重ね,訪問リハビリとの連携のあり方について検討していきたい。
【理学療法学研究としての意義】転移性骨腫瘍のリハビリにおいて,理学療法士が把握しておかなければならない情報と,医療機関と訪問リハビリ機関との連携について検討課題を示す症例報告として意義があると考える。
【倫理的配慮】本研究の目的を患者・家族に説明し,同意を得た。また個人が特定されないよう,配慮した。
【症例】70歳代女性。X年Y月左膝の疼痛を自覚。整形外科で骨転移を疑われ,当院受診。右上葉に腫瘤を認め,原発性肺癌の骨転移が疑われ,X年Y+3月に精査と疼痛コントロール目的で入院。原発性肺癌(cT3N0M1b StageIV),多発骨転移(T4,L1,L5,仙骨,左大腿骨,右肩甲骨)の診断。EGFR遺伝子変異検査を実施。左大腿骨と腰仙椎への放射線治療(RT),デノスマブ療法,疼痛コントロール,リハビリの実施が計画された。入院3日目より理学療法(PT)開始(週4~5回,1回40~60分)。開始時Barthel Index(BI)60点。左大腿骨と左腰背部にNumerical Rating Scale(NRS)安静時3~4/10,動作時5~6/10の疼痛あり。筋力は左膝関節伸展がMMT2で,他の筋は4。杖歩行が可能だが,RT終了まで臥床安静,食事時端座位可,トイレ時車椅子可,検査時ストレッチャーの安静度指示。左大腿骨はMirel’s score 11点で骨折準備段階の診断。脊椎はThe Spine Instability Neoplastic ScoreでT4:7点,L1:6点,L5:11点で,T4とL5は切迫骨折の可能性ありの評価。PT介入時はEGFR遺伝子変異検査の結果がまだ出ておらず,予後予測において,1年後生存率は50%か6%の状況にあった。リハビリ目標を骨病変部への捻れや圧迫のリスクを最小限にする動作習得と筋力維持とし,動作指導および筋力トレーニング指導を開始した。入院9日目より左大腿骨,腰椎・仙骨にRT(4Gy×6回 合計24Gy)を施行。入院14日目に,安静度が車椅子可(検査・RT時はストレッチャー)となり,座位時間を徐々に延長。同日,EGFR遺伝子変異陽性の診断。入院17日目よりゲフィチニブ療法(250mg/日)を開始。この頃より疼痛軽減がみられ,NRS安静時1~2/10,動作時3~4/10。入院23日目より安静度TWB歩行可となり,固定型歩行器にて歩行練習を開始。目標を自宅退院,室内の歩行器歩行とし,家屋環境へのアプローチと具体的な環境を想定した移動練習を開始した。また転移部へのリスクを最小限にした洗面動作やシャワー動作を,本人・家族に指導。入院52日目のCTにて原発巣の著明な縮小と,骨の硬化像出現が確認されたが,この段階ではまだ骨折のリスクは高く,退院後の屋内移動は固定型歩行器で,外出時は車椅子の生活として指導。入院から55日目に退院。退院時BIは70点。疼痛はNRS安静時0~1/10,動作時1~2/10。筋力左膝関節伸展MMT3。日常生活指導および筋力トレーニングの維持を目的に,訪問リハビリテーションへ移行した。
【考察】本症例のリハビリにおいては,EGFR遺伝子変異検査の結果が出ていない段階では,リハビリ目標を緩和的あるいは回復的な両者への移行を想定し,その後の評価治療経過に合わせて目標設定する必要性があった。どの時期においても,最も骨折リスクの高い左大腿骨の荷重管理について多職種で共通認識し,患者・家族への説明と動作指導を繰り返し行うことが重要であった。本症例はゲフィチニブ療法効果により数年の予後が見込まれ,退院後の安静度管理と運動指導の継続が課題である。今後,症例検討を重ね,訪問リハビリとの連携のあり方について検討していきたい。
【理学療法学研究としての意義】転移性骨腫瘍のリハビリにおいて,理学療法士が把握しておかなければならない情報と,医療機関と訪問リハビリ機関との連携について検討課題を示す症例報告として意義があると考える。