[1593] 子宮平滑筋肉腫による骨転移を有しながら自宅退院を成し遂げた1症例
キーワード:がん, QOL, 家族指導
【はじめに 目的】
子宮平滑筋肉腫は,子宮の悪性腫瘍の1~3%を占め,予後不良の疾患である。血行性に転移しやすく,肺,肝臓,腎臓,脳などの遠隔転移が多くみられる。がんのリハビリテーションでは,こういった患者への全身状態とその変動に留意し,ADLやQOLを如何に維持していくかが重要である。今回,肺・肝臓・骨転移のある子宮平滑筋肉腫の患者に対し,リハビリテーションを施行し,家族,病棟看護師,退院支援看護師への介助方法,リスク管理などに関して私見を得たので,ここに報告する。
【症例紹介】
60歳代女性。現病歴は,20X X年初発の子宮平滑筋肉腫にて子宮・両側卵管卵巣摘出術施行。4年後,右後腹膜再発腫瘍切除施行。6年後,肺,肝臓に転移し部分切除術施行。9年後,右腸骨・Th11転移・周囲筋浸潤・両肺転移・骨盤リンパ節転移。仙骨まで浸潤し手術困難。右腸骨転移には緩和的に放射線照射し,今後はBSC(Best Supportive Care)の方針となった。今回,右腸骨部の急速な腫瘍増大と疼痛増悪あり,放射線治療目的に入院となった。リスク管理は右腸骨の転移巣増大にて右下肢免荷が必要。
【倫理的配慮,説明と同意】
ヘルシンキ宣言に基づき,個人情報を特定できないように配慮し,同意を得ている。
【PT経過】
入院翌日より運動療法開始。意識清明,コミュニケーション良好。本症例は,主治医より病状の説明は受けているが,荷重による腸骨骨折のリスクがあることには納得しておらず,否認的発言が多い。疼痛は背臥位,端座位にて右殿部痛出現。また,右下腿~足趾に痺れあり。運動機能は著明な麻痺症状なし。易疲労あり。起居動作は疼痛自制内で自立。移乗動作は口頭指示と右下肢軽介助にて実施可能。トイレ動作は動作指導しながら軽介助にて可能なレベル。病棟生活では,監視がないとトイレまで一人で歩いて行ってしまうなどの危険行動もみられ,リスク管理は不十分であった。PTでは,軽負荷での運動,ADL練習を実施した。また,病棟看護師や家族に練習場面を見ていただき,介助方法や注意の促し方法を検討した。移乗動作が監視レベルで可能となったころ,自宅でお風呂に入りたいとの希望もあり,病棟看護師および退院支援看護師とともに,介助方法の検討,備品の調整をし,病棟での入浴練習を実施。その後,入院約10日後に,トルソー症候群にて右前頭葉に梗塞巣出現した。脳梗塞によるせん妄,見当識障害,傾眠傾向が出現し,脳梗塞発症前に比べると健忘症状が出現した。しかし,運動麻痺はないため,バイタルや自覚状態を見ながらPTを継続した。繰り返し転倒リスクや動作指導を行った。また,易疲労が軽度改善されたところで,自宅玄関を想定し,段差昇降練習を実施した。退院後のADLや段差昇降の介助には,家族の介助も必要なため,数回家族指導も実施した。入院後,約20日後,放射線治療終了し,疼痛のコントロールもついたため,試験外泊を実施。約1週間後に自宅退院となった。退院後,約1ヶ月間,ご自宅で過ごされ,状態悪化にて再入院後,ご逝去となった。
【考察】
がん患者の中には,骨転移による骨折などのリスク管理を行いながら,本人のQOLを高めていくアプローチが必要となる。本症例ではリスク管理に関して,主治医や看護師とともに充分な家族指導を行った結果,QOLを維持しながら,亡くなるまでの貴重な時間を自宅で過ごすことができたと考える。
【理学療法学研究としての意義】
末期がん患者のQOLを維持しながら,看取りまで穏やかに過ごせるためには,理学療法を行う中で,家族・院内スタッフの協力が必要であると思われた。
子宮平滑筋肉腫は,子宮の悪性腫瘍の1~3%を占め,予後不良の疾患である。血行性に転移しやすく,肺,肝臓,腎臓,脳などの遠隔転移が多くみられる。がんのリハビリテーションでは,こういった患者への全身状態とその変動に留意し,ADLやQOLを如何に維持していくかが重要である。今回,肺・肝臓・骨転移のある子宮平滑筋肉腫の患者に対し,リハビリテーションを施行し,家族,病棟看護師,退院支援看護師への介助方法,リスク管理などに関して私見を得たので,ここに報告する。
【症例紹介】
60歳代女性。現病歴は,20X X年初発の子宮平滑筋肉腫にて子宮・両側卵管卵巣摘出術施行。4年後,右後腹膜再発腫瘍切除施行。6年後,肺,肝臓に転移し部分切除術施行。9年後,右腸骨・Th11転移・周囲筋浸潤・両肺転移・骨盤リンパ節転移。仙骨まで浸潤し手術困難。右腸骨転移には緩和的に放射線照射し,今後はBSC(Best Supportive Care)の方針となった。今回,右腸骨部の急速な腫瘍増大と疼痛増悪あり,放射線治療目的に入院となった。リスク管理は右腸骨の転移巣増大にて右下肢免荷が必要。
【倫理的配慮,説明と同意】
ヘルシンキ宣言に基づき,個人情報を特定できないように配慮し,同意を得ている。
【PT経過】
入院翌日より運動療法開始。意識清明,コミュニケーション良好。本症例は,主治医より病状の説明は受けているが,荷重による腸骨骨折のリスクがあることには納得しておらず,否認的発言が多い。疼痛は背臥位,端座位にて右殿部痛出現。また,右下腿~足趾に痺れあり。運動機能は著明な麻痺症状なし。易疲労あり。起居動作は疼痛自制内で自立。移乗動作は口頭指示と右下肢軽介助にて実施可能。トイレ動作は動作指導しながら軽介助にて可能なレベル。病棟生活では,監視がないとトイレまで一人で歩いて行ってしまうなどの危険行動もみられ,リスク管理は不十分であった。PTでは,軽負荷での運動,ADL練習を実施した。また,病棟看護師や家族に練習場面を見ていただき,介助方法や注意の促し方法を検討した。移乗動作が監視レベルで可能となったころ,自宅でお風呂に入りたいとの希望もあり,病棟看護師および退院支援看護師とともに,介助方法の検討,備品の調整をし,病棟での入浴練習を実施。その後,入院約10日後に,トルソー症候群にて右前頭葉に梗塞巣出現した。脳梗塞によるせん妄,見当識障害,傾眠傾向が出現し,脳梗塞発症前に比べると健忘症状が出現した。しかし,運動麻痺はないため,バイタルや自覚状態を見ながらPTを継続した。繰り返し転倒リスクや動作指導を行った。また,易疲労が軽度改善されたところで,自宅玄関を想定し,段差昇降練習を実施した。退院後のADLや段差昇降の介助には,家族の介助も必要なため,数回家族指導も実施した。入院後,約20日後,放射線治療終了し,疼痛のコントロールもついたため,試験外泊を実施。約1週間後に自宅退院となった。退院後,約1ヶ月間,ご自宅で過ごされ,状態悪化にて再入院後,ご逝去となった。
【考察】
がん患者の中には,骨転移による骨折などのリスク管理を行いながら,本人のQOLを高めていくアプローチが必要となる。本症例ではリスク管理に関して,主治医や看護師とともに充分な家族指導を行った結果,QOLを維持しながら,亡くなるまでの貴重な時間を自宅で過ごすことができたと考える。
【理学療法学研究としての意義】
末期がん患者のQOLを維持しながら,看取りまで穏やかに過ごせるためには,理学療法を行う中で,家族・院内スタッフの協力が必要であると思われた。