第49回日本理学療法学術大会

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発表演題 ポスター » 内部障害理学療法 ポスター

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2014年6月1日(日) 12:15 〜 13:05 ポスター会場 (内部障害)

座長:赤尾健志(富山赤十字病院リハビリテーション科)

内部障害 ポスター

[1594] 周術期頭頸部がん患者の矢状面立位姿勢と肩外転角度および肩甲骨脊椎間距離の経時的変化

石井貴弥1, 原毅1, 井川達也1, 四宮美穂1, 西村章典1, 出浦健太郎1, 櫻井愛子1, 草野修輔2, 三浦弘規3, 久保晃4 (1.国際医療福祉大学三田病院リハビリテーション室, 2.国際医療福祉大学三田病院リハビリテーション科, 3.国際医療福祉大学三田病院頭頸部腫瘍センター, 4.国際医療福祉大学保健医療学部理学療法学科)

キーワード:頭頸部がん, 肩外転角度, 僧帽筋麻痺

【はじめに,目的】
頸部郭清術は,頸部リンパ節転移を最も確実に抑制でき,頭頸部がん手術の中で最も頻回に施行される術式である(鎌田,2008)。一方で術中操作により副神経の軸索損傷を呈し,術後僧帽筋麻痺を生じることが問題視されている。先行研究では,肩外転角度や針筋電図による評価が行われているが(Wilgen,2003 Tsuji,2007),頭部位置など全身の姿勢を含めた評価は行われていない。また術後の姿勢は,僧帽筋麻痺だけでなく創部や術前からの個々の姿勢を考慮する必要があると考える。
そこで本研究では,頭頸部がん患者の術前から術後1か月までの矢状面上立位姿勢と肩外転角度および肩甲骨脊椎間距離の計測を行い,それらの経時的変化を明らかにすることを目的とした。
【方法】
対象は,当院頭頸部腫瘍センターにおいて手術治療目的で入院し,腫瘍切除術と頸部郭清術および遊離皮弁による再建術を同時に施行された15名(男性13名,女性2名,平均年齢56.7±11.1歳)とした。手術側の定義は,頸部郭清側および皮弁再建術の血管吻合側とした。
開眼静止立位の矢状面上の計測には,姿勢測定器POSTURE ANALSER PA200を用いた。マーカーは,手術側の耳孔,肩峰外側端(以下,肩峰),第7頸椎棘突起(以下,C7)の3か所に貼付した。計測値は第5中足骨底を原点とし,耳孔,肩峰それぞれの前後距離,C7を軸とした耳孔と肩峰のなす角を頸部屈曲角度として算出した。肩外転角度(以下,肩ROM)は立位にて自動外転角度をゴニオメーターで計測した。肩甲骨脊椎間距離は,肩甲骨外側スライドテスト(以下,LSST)を用いた。条件は上肢下垂位,Hands on hip位,肩外転90°位とし,各条件での肩甲骨下角から脊柱への垂線の距離を測定した。各々計測は,手術日より1日以上前の時期(以下,術前)と手術日より14日前後経過した時期(以下,術後)と術後1か月(以下,1か月)に行った。
統計学的解析には,Friedman検定を用いて各パラメーターを術前,術後,1か月の3郡で比較を行い(p<0.05),多重比較検定はBonferroni補正Wilcoxon順位和符号付き検定を用いた。(p<0.016)
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は国際医療福祉大学三田病院倫理審査委員会の承認を得て,対象者に文書と口頭による説明をした後,同意が得られた者を対象とした。
【結果】
耳孔前後距離は術前29.0±31.8mm,術後39.2±32.4mm,1か月44.9±33.7mm。肩峰前後距離は術前-2.9±29.1mm,術後25.8±27.2mm,1か月30.8±23.1mm。頸部屈曲角度は術前75.8±18.5°,術後65.1±10.2°,1か月67.1±14.7°であった。肩ROMは術前164.0±13.9°術後87.6±24.0°1か月119.7±37.5°であった。LSSTは上肢下垂位で術前87.0±12.2mm,術後91.3±10.9mm,1か月92.7±13.9mm。Hands on hip位で術前95.7±13.7mm,術後95.7±9.3mm,1か月99.3±10.9mm。肩外転90°位では術前98.3±13.5,術後116.0±11.5mm,1か月122.7±15.5mmであった。
耳孔前後距離と肩峰前後距離,肩ROM,LSST肩外転90°位に有意な主効果が認められた。多重比較検定では肩峰前後距離と肩ROMとLSST肩外転90°位に術前と術後,術前と1ヶ月の間に有意差が認められた。
【考察】
術前から1か月にかけて,肩峰は前方へ有意に移動し,LSST90°外転位は肩甲骨が外転方向へ有意に移動した。また肩ROMは術後低下し,1か月には増加する傾向にあった。
Tsujiらは術後4ヶ月において58.6%に重度の僧帽筋麻痺を認めると報告している。また鬼塚らは,肩ROMは術後一旦低下するが,術後6ヶ月には150°以上に回復すると述べ,僧帽筋が最も関与すると述べている。本研究においても肩ROMは,術後一旦低下し,その後向上することから先行研究と同様に回復傾向にあると推察する。
梅本らは,LSST90°外転位と肩ROMとの相関が高いことを示している。一方,本研究では,肩峰前後距離とLSST90°外転位では術後から1ヶ月にかけて肩甲骨外転・前方に移動したのにも関らず,肩ROMが拡大する傾向が認められた。よって術後僧帽筋麻痺は肩ROMのみでは評価できない可能性があり,立位姿勢や手術情報なども含め多角的に評価すべきであると考える。
【理学療法学研究としての意義】
立位姿勢は著明に変化し,術前からの評価が重要である。また肩ROMは,頭頸部がん患者の術後僧帽筋麻痺の代表的な一指標である。しかし本研究から肩ROMのみでは,客観的な術後僧帽筋麻痺の評価が困難である可能性が示唆され,今後立位姿勢やLSSTもあわせて検討する必要があると考える。