第49回日本理学療法学術大会

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発表演題 ポスター » 生活環境支援理学療法 ポスター

福祉用具・地域在宅14

Sun. Jun 1, 2014 12:15 PM - 1:05 PM ポスター会場 (生活環境支援)

座長:山田幸信(独立行政法人地域医療機能推進機構登別病院リハビリテーション室)

生活環境支援 ポスター

[1596] デンマークにおけるセラピストの住宅改善の介入状況

蛭間基夫1, 中島明子2, 鈴木浩3 (1.群馬パース大学, 2.和洋女子大学, 3.福島大学)

Keywords:専門性, 教育課程, 現地調査

【はじめに】住宅改善における我が国のPT・OTの役割や専門性の相違が不明確といった指摘がある。これらを示す一例として介護保険における「理由書」の具体的な記載者にOTは明示されたがPTは含まれなかった。これらの住宅改善におけるPT・OTの役割や専門性の曖昧さは住宅改善におけるPT・OTの社会的ニーズの減少や職域の狭小化につながる。そこで,本報告では福祉先進国とされるとともにPT・OTの対人口比が上位にあるデンマークの住宅改善におけるPT・OTの実態を現地の訪問調査により明らかにし,今後の我が国のPT・OTの役割や専門性の検討の基礎とするものである。
【方法】現地での調査の期間は2011年6月27日(現地時間)から4日間で,PT・OT養成校(Professionshøjskolen Metropol)及び住宅改善の支援を担っている福祉器具センター(Frederiksberg Kommune Hjælpemiddelcentret及びRoskilde Kommune Hjælpemiddelafsnittet)を訪問した。養成校では住宅改善に関するPT・OTの教育状況について聞き取りを行うとともに資料によりその内容を補完,確認した。福祉器具センターでは支援の実態について聞き取りを行った。また,調査には常に1名の現地在住日本人が通訳として同席し,調査の正確性を保持した。
【倫理的配慮・説明と同意】対象者に事前に日本での報告,発表の実施を連絡し,その点に了承を得た上で調査を実施した。
【結果】1.デンマークの住宅改善支援制度:デンマークでは医療や福祉,介護の支援は全て公費により運営され,サービスを受給できる。社会保障の中で社会福祉に関する全支援は「社会サービス法(lov om social service)」により一元的に規定される。この法律に住宅改善に関する規定が設けられ,その条文に合致する住宅改善の場合には費用の高低に関わらず原則自己負担なく,住宅改善が(市にあたる)コムーネにより実施される。2.具体的な支援過程:住宅改善の支援ではコムーネに設置された福祉器具センターに勤務するOTの役割が非常に重要で,自宅訪問による評価,計画立案,工事実施の(一部)決定等の役割を有していて,実態は我が国の介護支援専門員に類似するところも多い。工事内容は我が国の介護保険のように6種類に限定されるものではなく,また,回数制限や上限額の設定もない。3.PTの介入:PTが上述のOTと同じ役割を有して住宅改善に介入する例はほとんどなく,訪問理学療法を担う立場で情報提供を行うのが一般的である。4.住宅改善に関する教育状況:デンマークにおけるPT・OTの養成は全て大学(3.5年制)で実施され,卒業すると免許が付与される。上述のように住宅改善におけるPTとOTの介入には相違があるが,それは養成段階から明確化されている。OTでは3年生前期に住宅改善のカリキュラムが設けられているが,PTでは卒業まで全く設けられていない。また,臨床実習においてもPTが住宅改善に介入する例はほとんどない。また,卒業要件となる単位数はいずれも210単位であるが,内訳はPTはOTと比べ自然科学系が7単位多く,社会科学系や人文科学系は各々5単位及び3単位少ない。5.PT・OT発展の歴史的過程:デンマークではPTとOTが全く異なる職種として歴史的に誕生,発展している。PTの誕生は1870年代にマッサージ師養成校がその前身となり,1920年にPTとして国家資格化されている。しかし,OTは1900年代に入ってからその概念が登場し始めている。また,2007年にはPTにのみ開業権が与えられている。
【考察】我が国における住宅改善のPT・OTの役割等は不明確されているが,デンマークではその中心的役割を果たすのはOTである。ただし,その背景には歴史的過程や専門性を担保する教育課程が存在している。これらの点について比較すると我が国ではPT・OTは歴史的に同時に登場し,教育課程についても養成施設指定規則の科目や単位数に格差はない。また科目の構成も「理学療法」という文字を「作業療法」に変更したものが並んでいる。今後,我が国ではPT・OTが飛躍的に増加する状況において職域の維持・拡大という視点から,在宅支援の一つである住宅改善にどのように介入するのか,相互の役割や専門性はどのようなものであるのかという検討が重要になる。しかし,デンマークに代表されるように海外ではその中心がOTであるため,我が国でもOTが中心的な役割を果たすというのは飛躍した結論であり,元来PT・OTの役割等が不明確であるという我が国の実態を踏まえて検討しなければならない。また,同時にPT・OTの役割や専門性を活かすことができる制度構築の検討も重要である。
【理学療法学研究としての意義】我が国の住宅改善におけるPT・OTの役割や専門性を検討する際の求められるべき視点について海外事例との比較から明示している。