[1609] 神経病性疼痛により頸部と上肢に痛み・痺れが生じた一症例
キーワード:頚椎椎間板ヘルニア, 脱神経性神経病性疼痛, 末梢神経感作
【はじめに,目的】
今回頸部から上肢にかけて,神経組織の圧迫や絞扼によって生じる脱神経性神経病性疼痛と神経への機械的刺激に対して過敏になる末梢神経感作の両者が疑われる症例を経験した。神経病性疼痛については,様々なメカニズムが関与しているとされ,治療法に関しても一貫したものがあるとは言えないが,今回2つの神経病性疼痛が疑われた症例を経験し,良好な結果が得られた。臨床上意義のあるものと考えたので報告する。
【方法】
対象は46歳女性。診断名はC5/6,C6/7頚椎椎間板ヘルニア。主訴は,左頚部痛と左上肢側面から後面のビリビリした痛みと痺れ,左上肢の脱力感であった。現病歴は,自転車を車へ昇降させた翌日に首から手指にかけて激痛と痺れが生じた。発症当日は軽微な接触でも痛く,不眠状態になった。その後服薬により入眠可能になったが,症状改善しないため,発症から約3週後に当院受診,上記診断後,理学療法開始。以前に同様の症状が出た経験有。red flagsは無。軽減因子は,手を頭の上に持っていく,左肘を右手で抱える姿勢であった。
評価方法はManual Conceptsで用いられているものを使用し,姿勢,自動運動,他動運動,神経伸張テスト,神経の触診,神経学的検査を行った。脱神経性神経病性疼痛の所見として,姿勢は5度の右側屈位で,正中位に戻すと再現痛が見られ,20度までの右側屈では症状が軽減した。神経学的検査では,肘屈曲MMT3を有したが,軽微な抵抗で再現痛が出現。握力は右28kg,左18kg。左母指周囲に中等度感覚鈍麻が存在し,上腕二頭筋,腕橈骨筋反射が消失していた。末梢神経感作の所見として,自動運動の右側屈20度以降は肩甲帯上部と肘に伸張感を伴う鈍痛が出現。神経伸張テストは,肩甲帯の固定で疼痛増悪し,実施困難であったため,肩関節外転の他動運動を行ったところ,外転70度で肩甲帯上部と肘に伸張感を伴う鈍痛が出現,肩関節内旋位で外転90度,肩関節外旋位で外転50度にて同様の鈍痛が出現。神経の触診は,腕神経叢,正中神経の過敏性が触知された。
治療プログラムは,脱神経性神経病性疼痛の所見のみに再現痛がみられ,C6神経根症状が疑われたため,C5/6間に徒手での牽引治療を行った。
【倫理的配慮,説明と同意】
本症例研究を行うにあたり,対象患者には十分な説明を行い,同意を得た。
【結果】
初回評価から週3回2週間の治療で介入直後は左側屈の自動運動が痛みなく動作可能になるが,翌日には疼痛が出現。右側屈時,肩関節外転時の疼痛に変化無。主訴の疼痛は肩甲帯と肘の伸張感を伴う鈍痛に変化した。
再評価では,初回で確認できなかった項目が確認出来るようになった。脱神経性神経病性疼痛の所見として,椎間関節生理的他動運動はC5/6の左側屈最終域で初回の再現痛が出現。椎間関節他動副運動では,後方から前方の滑りがC5で低下,C6で増加しC5滑り時に初回の再現痛が出現。末梢神経感作の所見として,椎間関節生理的他動運動でC5/6の右側屈で肩甲帯と肘に伸張感を伴う鈍痛が出現。その他上肢可動域等は初回から変化無。よって,脱神経性神経病性疼痛に対してC5正中後前滑りを,末梢神経感作に対してC5の右側へlateral glideを行った。その後2週間で多忙時に症状増悪することはあるが,症状は軽減した。肩関節外転も140度まで改善し,肩関節内旋位での外転で160度,外旋位での外転で130度まで改善した。その4週後には,肩関節外転可動域に左右差が無くなり,肩関節内外旋での症状の変化も無くなった。症状もhome-exでコントロール可能になり,初回介入後8週間で終了となった。
【考察】
脱神経性神経病性疼痛は,主に神経陰性徴候主体の症状や該当神経分節を圧迫する機械的刺激で症状増悪がみられ,末梢神経感作は,神経の伸張や侵害刺激などの機械的な刺激に過敏になり症状増悪がみられるものである。本症例は,評価結果から2つの神経病性疼痛があると考え,治療を行った。脱神経性神経病性疼痛に対してClelandらは,頚椎神経根症状に対して,徒手的な牽引治療は効果的だったとし,またSongらは狭窄による神経圧迫部位に対して狭窄の解放により改善がみられたと報告している。末梢神経感作に対してCoppietersらは,頚椎の神経性の疼痛に対してlateral glideを行うことは効果的だったと報告している。本症例においても,それぞれの治療に対して効果が認められた。これらのことから,2つの神経病性疼痛に対して治療の有効性が示唆された。以上から神経病性疼痛の治療は,疼痛の種類を正確に評価し進めることで,有効な結果が得られるものと考える。
【理学療法学研究としての意義】
神経病性疼痛に対しての理学療法に関して本邦での報告は少なく,運動器における神経系の理学療法を行う上での一つの知見として意義のあるものと考える。
今回頸部から上肢にかけて,神経組織の圧迫や絞扼によって生じる脱神経性神経病性疼痛と神経への機械的刺激に対して過敏になる末梢神経感作の両者が疑われる症例を経験した。神経病性疼痛については,様々なメカニズムが関与しているとされ,治療法に関しても一貫したものがあるとは言えないが,今回2つの神経病性疼痛が疑われた症例を経験し,良好な結果が得られた。臨床上意義のあるものと考えたので報告する。
【方法】
対象は46歳女性。診断名はC5/6,C6/7頚椎椎間板ヘルニア。主訴は,左頚部痛と左上肢側面から後面のビリビリした痛みと痺れ,左上肢の脱力感であった。現病歴は,自転車を車へ昇降させた翌日に首から手指にかけて激痛と痺れが生じた。発症当日は軽微な接触でも痛く,不眠状態になった。その後服薬により入眠可能になったが,症状改善しないため,発症から約3週後に当院受診,上記診断後,理学療法開始。以前に同様の症状が出た経験有。red flagsは無。軽減因子は,手を頭の上に持っていく,左肘を右手で抱える姿勢であった。
評価方法はManual Conceptsで用いられているものを使用し,姿勢,自動運動,他動運動,神経伸張テスト,神経の触診,神経学的検査を行った。脱神経性神経病性疼痛の所見として,姿勢は5度の右側屈位で,正中位に戻すと再現痛が見られ,20度までの右側屈では症状が軽減した。神経学的検査では,肘屈曲MMT3を有したが,軽微な抵抗で再現痛が出現。握力は右28kg,左18kg。左母指周囲に中等度感覚鈍麻が存在し,上腕二頭筋,腕橈骨筋反射が消失していた。末梢神経感作の所見として,自動運動の右側屈20度以降は肩甲帯上部と肘に伸張感を伴う鈍痛が出現。神経伸張テストは,肩甲帯の固定で疼痛増悪し,実施困難であったため,肩関節外転の他動運動を行ったところ,外転70度で肩甲帯上部と肘に伸張感を伴う鈍痛が出現,肩関節内旋位で外転90度,肩関節外旋位で外転50度にて同様の鈍痛が出現。神経の触診は,腕神経叢,正中神経の過敏性が触知された。
治療プログラムは,脱神経性神経病性疼痛の所見のみに再現痛がみられ,C6神経根症状が疑われたため,C5/6間に徒手での牽引治療を行った。
【倫理的配慮,説明と同意】
本症例研究を行うにあたり,対象患者には十分な説明を行い,同意を得た。
【結果】
初回評価から週3回2週間の治療で介入直後は左側屈の自動運動が痛みなく動作可能になるが,翌日には疼痛が出現。右側屈時,肩関節外転時の疼痛に変化無。主訴の疼痛は肩甲帯と肘の伸張感を伴う鈍痛に変化した。
再評価では,初回で確認できなかった項目が確認出来るようになった。脱神経性神経病性疼痛の所見として,椎間関節生理的他動運動はC5/6の左側屈最終域で初回の再現痛が出現。椎間関節他動副運動では,後方から前方の滑りがC5で低下,C6で増加しC5滑り時に初回の再現痛が出現。末梢神経感作の所見として,椎間関節生理的他動運動でC5/6の右側屈で肩甲帯と肘に伸張感を伴う鈍痛が出現。その他上肢可動域等は初回から変化無。よって,脱神経性神経病性疼痛に対してC5正中後前滑りを,末梢神経感作に対してC5の右側へlateral glideを行った。その後2週間で多忙時に症状増悪することはあるが,症状は軽減した。肩関節外転も140度まで改善し,肩関節内旋位での外転で160度,外旋位での外転で130度まで改善した。その4週後には,肩関節外転可動域に左右差が無くなり,肩関節内外旋での症状の変化も無くなった。症状もhome-exでコントロール可能になり,初回介入後8週間で終了となった。
【考察】
脱神経性神経病性疼痛は,主に神経陰性徴候主体の症状や該当神経分節を圧迫する機械的刺激で症状増悪がみられ,末梢神経感作は,神経の伸張や侵害刺激などの機械的な刺激に過敏になり症状増悪がみられるものである。本症例は,評価結果から2つの神経病性疼痛があると考え,治療を行った。脱神経性神経病性疼痛に対してClelandらは,頚椎神経根症状に対して,徒手的な牽引治療は効果的だったとし,またSongらは狭窄による神経圧迫部位に対して狭窄の解放により改善がみられたと報告している。末梢神経感作に対してCoppietersらは,頚椎の神経性の疼痛に対してlateral glideを行うことは効果的だったと報告している。本症例においても,それぞれの治療に対して効果が認められた。これらのことから,2つの神経病性疼痛に対して治療の有効性が示唆された。以上から神経病性疼痛の治療は,疼痛の種類を正確に評価し進めることで,有効な結果が得られるものと考える。
【理学療法学研究としての意義】
神経病性疼痛に対しての理学療法に関して本邦での報告は少なく,運動器における神経系の理学療法を行う上での一つの知見として意義のあるものと考える。