第49回日本理学療法学術大会

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発表演題 ポスター » 運動器理学療法 ポスター

徒手療法2

Sun. Jun 1, 2014 12:15 PM - 1:05 PM ポスター会場 (運動器)

座長:白谷智子(苑田第二病院リハビリテーション科)

運動器 ポスター

[1611] 罹患側とは反対側への介入で疼痛抑制効果はあるか

重藤隼人, 米谷俊輝, 奥口琢也, 長原佳世, 大木麻実, 渡邉晃久 (医療法人社団昌樹会ウツミ整形外科医院)

Keywords:対側の肩甲上腕関節牽引, 肩関節周囲炎, 下行性疼痛抑制系

【はじめに,目的】
関節牽引は徒手療法で用いられる治療手技のひとつとして,疼痛抑制効果や可動域改善を目的として用いられる事が多い。しかし,関節牽引で期待する疼痛抑制効果が得られない時や,罹患部位への介入が困難な場面も臨床で経験しており,他部位から除痛をもたらす治療手技が期待されている。ラットへの実験では,膝関節に炎症を引き起こしたラットに対して罹患膝関節への背側滑りを加えたところ,罹患膝関節のみならず対側の膝関節にも疼痛抑制効果がみられる知見が報告されているが,ヒトに対して対側の関節牽引を行い疼痛抑制効果があるか検討した報告はほとんどみられない。関節牽引の広範囲に及ぶ除痛機序としては,関節内圧の軽減,滑液の粘弾性改善等によるものも考えられているが,近年では下行性疼痛抑制系の関与が考えられている。本研究は,肩関節周囲炎の症例を対象に罹患側への疼痛抑制効果を期待した対側の関節牽引を行い,その臨床応用を検討した。
【方法】
対象は,当院にて肩関節周囲炎の診断を受け,肩甲上腕関節由来の疼痛と評価し,罹患側の肩甲上腕関節の牽引を実施したが,疼痛改善効果が得られず難渋している男女5名とした。肩鎖関節炎,上腕二頭筋腱炎,骨折は除外した。各症例に対し介入前に疼痛が出現する動作およびその可動域,疼痛強度を評価した。介入は各症例に罹患側と対側の肩甲上腕関節の牽引(Kaltenborn法のGradeII)を10分間実施した。介入直後に即時的に,可動域と疼痛強度の変化および主観的変化を再評価した。各症例の介入前の評価は,症例1は左肩関節周囲炎,70歳,男性,左肩関節屈曲160度(90度前後で疼痛出現)。症例2は右肩関節周囲炎,68歳,女性,可動域:右肩関節屈曲150度。症例3は右肩関節周囲炎,65歳,女性,可動域:右肩関節屈曲110度。症例4は左肩関節周囲炎,55歳,男性,可動域:左肩関節外転150度。症例5は左肩関節周囲炎,60歳,男性,可動域:左肩関節水平内転120度,であった。介入直後の再評価として,疼痛強度の変化はVerbal Rating Scale(以下VRSとする)を用いて,「1,消失2,著明に改善3,半分に改善4,やや改善5,変化なし6,増悪」として評価した。疼痛の主観的変化は,自由に口述してもらい疼痛の主観的変化を評価した。
【倫理的配慮,説明と同意】
対象者には事前に本研究の説明を十分に行い,同意を得た。
【結果】
疼痛強度の即時的変化については,VRSで,症例1は1,消失,症例2は1,消失,症例3は3,半分に改善,症例4は3,半分に改善,症例5は3,半分に改善,とそれぞれ改善が認められた。可動域は症例1のみ右肩関節屈曲110度が130度と改善が認められたが,その他の症例は可動域については変化がなかった。主観的変化は全ての症例で「軽くなった」などの口述が得られた。
【考察】
今回の症例は,罹患側の肩甲上腕関節の牽引を実施したが,疼痛改善効果が得られず難渋している症例であった。本研究結果より,対側の肩甲上腕関節の牽引により5症例ともに疼痛強度の軽減および「軽くなった」などの主観的変化がみられたことから,対側の肩甲上腕関節の牽引が疼痛抑制効果を有することがわかった。一方で,疼痛改善効果はあったが,可動域についてはほとんど変化がなかった。以上のことから,対側の関節牽引の疼痛抑制効果の機序は不明であるが,可動域がほぼ不変であったように罹患部位には形態学的な変化が起こらないと思われるため,下行性疼痛抑制系など中枢を介した疼痛抑制機序が関与している可能性がある。本研究結果から,対側の関節牽引が疼痛改善に難渋している症例や罹患部位への介入が困難な場合に対する疼痛軽減治療の選択肢のひとつとしての活用や関節可動域運動の事前処置に応用できると考える。
【理学療法学研究としての意義】
本研究は,対側の肩甲上腕関節の牽引による疼痛抑制効果により,罹患部位への介入が困難な場合に対する疼痛軽減治療の選択肢および関節可動域運動の事前処置として,臨床での治療方法の一助となり得る点に意義がある。