[1613] 大後頭神経の走行および圧迫・伸張部位について
Keywords:大後頭神経, 圧迫・伸長部位, 頸椎の運動
【目的】臨床において,理学療法士が頸椎疾患の随伴症状である頭痛を呈する症例を担当することは少なくない。頸椎由来の頭痛には大後頭神経が関与している(矢島ら2005)。大後頭神経は第2頸神経の後枝であり後頭部の知覚を支配しており,この神経が圧迫および伸張されると後頭部に疼痛などを引き起こす。大後頭神経は深層から表層までの複数の筋の間を走行しており,圧迫および伸張されやすい部位(以下,圧迫・伸長部位)を知ることは神経の絞扼および牽引症状を理解する上で重要と考える。本研究の目的は,大後頭神経の肉眼解剖を行い,詳細に観察して神経の走行や圧迫・伸長部位について検証することである。
【方法】80歳代男性の解剖用遺体1体を対象とした。まず腹臥位で後頸部の剥皮後,右僧帽筋上部線維(以下,右僧帽筋)上の頸筋膜を貫通する右大後頭神経を外後頭隆起の外側で剖出した。次に左では僧帽筋・頭板状筋・頸板状筋を飜転させて,右では僧帽筋を剥離して頭板状筋・頸板状筋を飜転させ,頭半棘筋を貫通する右大後頭神経を剖出した。また,右頭半棘筋と下頭斜筋間の大後頭神経を剖出した。さらに,右大後頭神経を貫通させたまま右頭半棘筋を起始部から切離して後頭骨へ飜転させた。頸椎を正中断して左頸部を離断したのち,右後頭下筋群を大後頭直筋・小後頭直筋・上頭斜筋・下頭斜筋に分離して右下頭斜筋を迂回する右大後頭神経を剖出した。右大後頭神経の走行について,右僧帽筋上の頸筋膜を貫通する部位(以下,僧帽筋貫通部)・右頭半棘筋を貫通する部位(以下,頭半棘筋貫通部)・右下頭斜筋を迂回する部位(以下,下頭斜筋迂回部)を肉眼で詳細に観察した。なお,本研究は名古屋大学大学院医学系研究科の主催する人体解剖トレーニングセミナーで得られた知見である。
【説明と同意】名古屋大学人体解剖トレーニングセミナー実行委員会の承認を得て実施した。
【結果】右大後頭神経の走行について深層から表層の順に記述する。大後頭神経は下頭斜筋の下を迂回して現れていた。下頭斜筋迂回部では,大後頭神経と下頭斜筋間に介在する結合組織は少なかった。下頭斜筋迂回部から出た大後頭神経は,鋭角に走行を変えて頭半棘筋深層に入り込み筋表層へ出現していた。頭半棘筋貫通部では,大後頭神経と頭半棘筋間に介在する結合組織は殆どなく大後頭神経は頭半棘筋を貫通していた。また頭半棘筋貫通部の大後頭神経を前後に動かすと,頭半棘筋の中で容易に移動させることができた。頭半棘筋を出た大後頭神経は,僧帽筋を貫通して皮下の頸筋膜の表面に達していた。僧帽筋貫通部では,大後頭神経が結合組織で密に固定されており大後頭神経を容易に移動させることはできなかった。
【考察】頭頸部の末梢神経分布には,大後頭神経・大耳介神経・小後頭神経・頸横神経・第3後頭神経・鎖骨上神経が関与している。前頸部・外側頸部の感覚は,第1~4頸神経の前枝である大耳介神経・小後頭神経・頸横神経・鎖骨上神経の支配を受ける。後頭部・後頸部の感覚は,第2~3頸神経の後枝である大後頭神経・第3後頭神経の支配を受ける。特に大後頭神経の障害は頭痛に深く関与している。大後頭神経は下頭斜筋を迂回した後,鋭角に走行を変化させて頭半棘筋を貫通し僧帽筋起始部で線維性に固定されており,これらの圧迫・伸長部位で大後頭神経が障害されて絞扼および牽引症状を引き起こすと考えられる。さらに堀江らは,大後頭神経の走行を5部位に区分して,頸椎の運動との関係について報告している。頸椎の運動に伴い大後頭神経が大きな形態変化を生じる部分は,椎間孔から頭半棘筋に至る部分と頭半棘筋から僧帽筋に至る部分であり,特に最も外力が集中する部位は下頭斜筋迂回部であると推測している。特に上位頸椎の運動では,下頭斜筋を含めた後頭下筋群の形態は容易に変化する(上田ら2011)。また下頭斜筋迂回部では脂肪組織が介在することなく大後頭神経が軸椎椎弓に密着しており,頸椎の過伸展により下頭斜筋迂回部で軸椎椎弓に押し付けられ損傷をきたすものと考えられる。
【理学療法学研究としての意義】大後頭神経の肉眼解剖から神経の走行と筋の位置関係を詳細に観察して,圧迫・伸長部位について検証した。大後頭神経は下頭斜筋迂回部・頭半棘筋貫通部・僧帽筋貫通部で圧迫および伸長されやすい特徴を有していた。また頸椎の伸展・屈曲により筋の位置が変化して大後頭神経が圧迫および伸長される特徴も有していた。本研究は解剖用遺体1体の観察ではあるが,大後頭神経の圧迫および伸長される部位について詳細に検証した研究であり,理学療法士として頭痛の症例に対する評価および治療を展開する上での基礎的情報になると考えられる。
【方法】80歳代男性の解剖用遺体1体を対象とした。まず腹臥位で後頸部の剥皮後,右僧帽筋上部線維(以下,右僧帽筋)上の頸筋膜を貫通する右大後頭神経を外後頭隆起の外側で剖出した。次に左では僧帽筋・頭板状筋・頸板状筋を飜転させて,右では僧帽筋を剥離して頭板状筋・頸板状筋を飜転させ,頭半棘筋を貫通する右大後頭神経を剖出した。また,右頭半棘筋と下頭斜筋間の大後頭神経を剖出した。さらに,右大後頭神経を貫通させたまま右頭半棘筋を起始部から切離して後頭骨へ飜転させた。頸椎を正中断して左頸部を離断したのち,右後頭下筋群を大後頭直筋・小後頭直筋・上頭斜筋・下頭斜筋に分離して右下頭斜筋を迂回する右大後頭神経を剖出した。右大後頭神経の走行について,右僧帽筋上の頸筋膜を貫通する部位(以下,僧帽筋貫通部)・右頭半棘筋を貫通する部位(以下,頭半棘筋貫通部)・右下頭斜筋を迂回する部位(以下,下頭斜筋迂回部)を肉眼で詳細に観察した。なお,本研究は名古屋大学大学院医学系研究科の主催する人体解剖トレーニングセミナーで得られた知見である。
【説明と同意】名古屋大学人体解剖トレーニングセミナー実行委員会の承認を得て実施した。
【結果】右大後頭神経の走行について深層から表層の順に記述する。大後頭神経は下頭斜筋の下を迂回して現れていた。下頭斜筋迂回部では,大後頭神経と下頭斜筋間に介在する結合組織は少なかった。下頭斜筋迂回部から出た大後頭神経は,鋭角に走行を変えて頭半棘筋深層に入り込み筋表層へ出現していた。頭半棘筋貫通部では,大後頭神経と頭半棘筋間に介在する結合組織は殆どなく大後頭神経は頭半棘筋を貫通していた。また頭半棘筋貫通部の大後頭神経を前後に動かすと,頭半棘筋の中で容易に移動させることができた。頭半棘筋を出た大後頭神経は,僧帽筋を貫通して皮下の頸筋膜の表面に達していた。僧帽筋貫通部では,大後頭神経が結合組織で密に固定されており大後頭神経を容易に移動させることはできなかった。
【考察】頭頸部の末梢神経分布には,大後頭神経・大耳介神経・小後頭神経・頸横神経・第3後頭神経・鎖骨上神経が関与している。前頸部・外側頸部の感覚は,第1~4頸神経の前枝である大耳介神経・小後頭神経・頸横神経・鎖骨上神経の支配を受ける。後頭部・後頸部の感覚は,第2~3頸神経の後枝である大後頭神経・第3後頭神経の支配を受ける。特に大後頭神経の障害は頭痛に深く関与している。大後頭神経は下頭斜筋を迂回した後,鋭角に走行を変化させて頭半棘筋を貫通し僧帽筋起始部で線維性に固定されており,これらの圧迫・伸長部位で大後頭神経が障害されて絞扼および牽引症状を引き起こすと考えられる。さらに堀江らは,大後頭神経の走行を5部位に区分して,頸椎の運動との関係について報告している。頸椎の運動に伴い大後頭神経が大きな形態変化を生じる部分は,椎間孔から頭半棘筋に至る部分と頭半棘筋から僧帽筋に至る部分であり,特に最も外力が集中する部位は下頭斜筋迂回部であると推測している。特に上位頸椎の運動では,下頭斜筋を含めた後頭下筋群の形態は容易に変化する(上田ら2011)。また下頭斜筋迂回部では脂肪組織が介在することなく大後頭神経が軸椎椎弓に密着しており,頸椎の過伸展により下頭斜筋迂回部で軸椎椎弓に押し付けられ損傷をきたすものと考えられる。
【理学療法学研究としての意義】大後頭神経の肉眼解剖から神経の走行と筋の位置関係を詳細に観察して,圧迫・伸長部位について検証した。大後頭神経は下頭斜筋迂回部・頭半棘筋貫通部・僧帽筋貫通部で圧迫および伸長されやすい特徴を有していた。また頸椎の伸展・屈曲により筋の位置が変化して大後頭神経が圧迫および伸長される特徴も有していた。本研究は解剖用遺体1体の観察ではあるが,大後頭神経の圧迫および伸長される部位について詳細に検証した研究であり,理学療法士として頭痛の症例に対する評価および治療を展開する上での基礎的情報になると考えられる。