[1620] 低出生体重児の母親の育児自己効力感と育児ストレスに関連する要因の検討
キーワード:低出生体重児, 育児自己効力感, 育児ストレス
【はじめに,目的】
低出生体重児は様々な合併症を有するリスクがあり,これらは母親の不安や育児ストレスを増大させる。これに対し,社会資源の利用や育児自己効力感を高めることで,育児ストレスを緩和することが可能であると考える。低出生体重児に対する理学療法は,成長と運動機能および精神機能など多面的な視点からのアプローチが必要であり,発達の促進において家族の積極的な関わりが求められる。そのため,育児自己効力感や育児ストレスなどの母親の状況を把握する必要がある。本研究の目的は,低出生体重児の母親における育児自己効力感や育児ストレスの現状とその関連要因を検討することである。
【方法】
対象は2009年4月~2011年3月に出生し,当院小児科外来に通院中の低出生体重児およびその母親とした。調査は母親に対する質問紙にて行った。質問内容は,児の成長歴,発達歴,育児自己効力感,育児ストレス,児の発達に対する不安の有無,育児に対する不安の有無,社会資源の利用経験の有無とした。育児自己効力感は5段階,13項目から成るparenting self-efficacy Scale(PSE尺度)を用いた。得点が高いほど育児自己効力感が高いことを示す。育児ストレスは5段階,18項目から成る育児ストレス尺度より6項目を抜粋して用いた。得点が高いほど育児ストレスが高いことを示す。成長歴は調査時点の身長・体重の測定値より,標準偏差スコア(SDS)を算出した。発達は,運動(定頸,寝返り,独座,つかまり立ち,独歩),言語(喃語,有意語,二語文),手の巧緻性(なぐり書き,ハサミの使用),日常生活活動(離乳食,スプーンの使用,排泄コントロール)の獲得月齢を調査し,修正月齢に換算した。遠城寺・乳幼児分析的発達検査の獲得基準月齢を基準に,発達の遅れの有無を確認した。また,カルテより児の出生時体重,合併症の有無,出生後の医学的管理状況を調査した。
なお,統計処理はPearsonの相関係数,χ2検定,t検定を用い各要因間の関連性を検討した。(有意水準5%)
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は学内の臨床研究倫理審査委員会により承認された。また,対象となる母親に対し書面と口頭にて本研究の概要を説明し,自由意志での同意を得ている。
【結果】
52組の児および母親に質問紙を配布し,42組の回答を得た。そのうち後天性の合併症を有した1組を除外し,41組を分析の対象とした。
対象児は2歳3ヵ月~4歳3ヵ月の男児22名,女児19名であった。出生時体重(平均±標準偏差)は1125.3±409.8gで,極低出生体重児19名,超低出生体重児16名を含んでいた。身長SDSは-1.0±1.4,体重SDSは-0.6±1.3であった。独歩で11名,二語文で8名,離乳食で10名で獲得の遅れを認めた。PSE尺度の得点は51.4±6.9,育児ストレスは13.0±3.4であった。発達に対する不安を有していた母親は23名,育児に対する不安は25名であった。社会資源は35名にて利用経験があった。
PSE尺度得点は育児不安なし群に比べあり群で有意に低く,社会資源の利用あり群はなし群に比べて有意に高かった。また,PSE尺度得点と育児ストレスは中等度の相関関係を示した。(r=-0.517)発達に対する不安は,独歩,二語文,離乳食の開始に遅れを認める児の母親にて有意に強かった。また,育児に対する不安の有無と発達に対する不安の有無において有意な関連を認めた。
【考察】
本研究の結果より,児の発達の遅れは母親の不安を誘発し,さらに育児に対する不安にも関連することが明らかになった。この子供に対するネガティブな認識は,子供と向き合い育児を行う際に阻害的に働くと考えられる。その結果,育児自己効力感が低下し育児ストレスが増大することが示唆された。
また,育児自己効力感と社会資源の利用において関連があることが示された。育児自己効力感を高める因子は達成経験や代理体験,言語的説得など4因子が挙げられ,社会資源を利用することで似た状況にある親子と出会ったり,経験談を聞くことで代理体験ができ,支援者による言語的説得や情動面的喚起が得られるためと推測する。一方,育児自己効力感が高い母親が社会資源を積極的に利用している可能性もあり,これらは相互的に作用すると考えられる。
理学療法の視点からは,早期より介入を開始し発達を促進することで母親の不安を軽減し,児に対する肯定的な認識を促すことが期待される。さらに,母親に情報提供を行い発達や育児に関する相談を受けることで,育児自己効力感を高め,児に対する家族の良好な支援を促すことが可能となると考えられる。
【理学療法学研究としての意義】
低出生体重児の中でも特に支援を必要とする児の特徴や,母子が必要としているサポート内容を明らかにすることで,運動機能を中心とした発達支援を行う上での一助になると考える。
低出生体重児は様々な合併症を有するリスクがあり,これらは母親の不安や育児ストレスを増大させる。これに対し,社会資源の利用や育児自己効力感を高めることで,育児ストレスを緩和することが可能であると考える。低出生体重児に対する理学療法は,成長と運動機能および精神機能など多面的な視点からのアプローチが必要であり,発達の促進において家族の積極的な関わりが求められる。そのため,育児自己効力感や育児ストレスなどの母親の状況を把握する必要がある。本研究の目的は,低出生体重児の母親における育児自己効力感や育児ストレスの現状とその関連要因を検討することである。
【方法】
対象は2009年4月~2011年3月に出生し,当院小児科外来に通院中の低出生体重児およびその母親とした。調査は母親に対する質問紙にて行った。質問内容は,児の成長歴,発達歴,育児自己効力感,育児ストレス,児の発達に対する不安の有無,育児に対する不安の有無,社会資源の利用経験の有無とした。育児自己効力感は5段階,13項目から成るparenting self-efficacy Scale(PSE尺度)を用いた。得点が高いほど育児自己効力感が高いことを示す。育児ストレスは5段階,18項目から成る育児ストレス尺度より6項目を抜粋して用いた。得点が高いほど育児ストレスが高いことを示す。成長歴は調査時点の身長・体重の測定値より,標準偏差スコア(SDS)を算出した。発達は,運動(定頸,寝返り,独座,つかまり立ち,独歩),言語(喃語,有意語,二語文),手の巧緻性(なぐり書き,ハサミの使用),日常生活活動(離乳食,スプーンの使用,排泄コントロール)の獲得月齢を調査し,修正月齢に換算した。遠城寺・乳幼児分析的発達検査の獲得基準月齢を基準に,発達の遅れの有無を確認した。また,カルテより児の出生時体重,合併症の有無,出生後の医学的管理状況を調査した。
なお,統計処理はPearsonの相関係数,χ2検定,t検定を用い各要因間の関連性を検討した。(有意水準5%)
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は学内の臨床研究倫理審査委員会により承認された。また,対象となる母親に対し書面と口頭にて本研究の概要を説明し,自由意志での同意を得ている。
【結果】
52組の児および母親に質問紙を配布し,42組の回答を得た。そのうち後天性の合併症を有した1組を除外し,41組を分析の対象とした。
対象児は2歳3ヵ月~4歳3ヵ月の男児22名,女児19名であった。出生時体重(平均±標準偏差)は1125.3±409.8gで,極低出生体重児19名,超低出生体重児16名を含んでいた。身長SDSは-1.0±1.4,体重SDSは-0.6±1.3であった。独歩で11名,二語文で8名,離乳食で10名で獲得の遅れを認めた。PSE尺度の得点は51.4±6.9,育児ストレスは13.0±3.4であった。発達に対する不安を有していた母親は23名,育児に対する不安は25名であった。社会資源は35名にて利用経験があった。
PSE尺度得点は育児不安なし群に比べあり群で有意に低く,社会資源の利用あり群はなし群に比べて有意に高かった。また,PSE尺度得点と育児ストレスは中等度の相関関係を示した。(r=-0.517)発達に対する不安は,独歩,二語文,離乳食の開始に遅れを認める児の母親にて有意に強かった。また,育児に対する不安の有無と発達に対する不安の有無において有意な関連を認めた。
【考察】
本研究の結果より,児の発達の遅れは母親の不安を誘発し,さらに育児に対する不安にも関連することが明らかになった。この子供に対するネガティブな認識は,子供と向き合い育児を行う際に阻害的に働くと考えられる。その結果,育児自己効力感が低下し育児ストレスが増大することが示唆された。
また,育児自己効力感と社会資源の利用において関連があることが示された。育児自己効力感を高める因子は達成経験や代理体験,言語的説得など4因子が挙げられ,社会資源を利用することで似た状況にある親子と出会ったり,経験談を聞くことで代理体験ができ,支援者による言語的説得や情動面的喚起が得られるためと推測する。一方,育児自己効力感が高い母親が社会資源を積極的に利用している可能性もあり,これらは相互的に作用すると考えられる。
理学療法の視点からは,早期より介入を開始し発達を促進することで母親の不安を軽減し,児に対する肯定的な認識を促すことが期待される。さらに,母親に情報提供を行い発達や育児に関する相談を受けることで,育児自己効力感を高め,児に対する家族の良好な支援を促すことが可能となると考えられる。
【理学療法学研究としての意義】
低出生体重児の中でも特に支援を必要とする児の特徴や,母子が必要としているサポート内容を明らかにすることで,運動機能を中心とした発達支援を行う上での一助になると考える。