第49回日本理学療法学術大会

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発表演題 ポスター » 神経理学療法 ポスター

脳損傷理学療法22

Sun. Jun 1, 2014 12:15 PM - 1:05 PM ポスター会場 (神経)

座長:柿澤雅史(札幌医科大学附属病院リハビリテーション部)

神経 ポスター

[1621] 足底部位間における動的触覚の閾値について

末吉恒一郎 (医療法人おもと会大浜第二病院)

Keywords:足底感覚, 動的2点識別覚テスト, 動的触覚

【はじめに,目的】
ヒトの立位姿勢制御には視覚系,体性感覚系,前庭迷路系からの求心性情報が重要な役割を果たしている。なかでも床と唯一接地している足底の体性感覚は立位姿勢制御に深く関与していることが報告されている。Dellonは,触刺激には静的触覚(constant touch)と動的触覚(moving touch)との2種類があると述べており,触探索に関与するのは動的触覚であるとして動的2点識別覚テストを提唱し,手の研究においては多くの報告がなされている。これは速順応性線維/受容器機構(QA)の分布密度と体性感覚野3bの体部位再現や周辺抑制の機能をみており,手の機能回復を鋭敏に反映している。一方,足底における体性感覚に関する研究においては,動的2点識別テストを用いた報告は少ない。そこで今回,足底も立位や歩行時に支持基底面を形成するにあたり,触探索的な機能を有する器官であると捉え,足底の部位間における動的触覚の閾値について調査したので報告する。
【方法】
対象は事前の説明により研究参加に同意の得られた健常者30名(男性12名,女性18名,平均年齢23.0±6歳)とした。動的2点識別覚の計測にはDisk Criminatar(2点識別覚計)を用い,ベッド上仰臥位で一側足底に対し,足底の長軸と垂直になるように2点または1点刺激を2秒間,近位から遠位に動かし,2点が識別可能な最短距離を計測した。計測部位としては,任意に分割した13部位(①踵外側,②踵内側,③中足部外側,④中足部中央,⑤中足部内側,⑥前足部外側,⑦前足部中央,⑧前足部内側,⑨第1趾,⑩第2趾,⑪第3趾,⑫第4趾,⑬第5趾)とし,各部位の平均値を算出した。統計学的手法として,Friedman順位検定を用いて有意な順位を検定した。また多重比較Tukey法を用い,各13部位の平均値に有意差(p<0.01)があるかを検定した。
【倫理的配慮,説明と同意】
対象者には本研究の目的と方法を十分に説明し,自由意思に基づく研究参加として同意を得た。
【結果】
各部位の動的2点識別覚の平均値について,その距離が短い程,閾値が低いと解釈した。閾値が低い部位から示すと,第1趾(8.4±1.8mm),第5趾(8.8±2.5mm),第2趾(8.9±2.4mm),踵外側(9.1±2.9mm),踵内側(9.2±2.4mm),第3趾(9.3±2.6mm),第4趾(9.4±2.1mm),中足部外側(9.9±1.8mm),前足部外側(10.1±2.1mm),前足部中央(10.3±2.9mm),前足部内側(10.6±3.2mm),中足部中央(10.7±2.8mm),中足部内側(10.9±2.3mm)という結果であった。また各部位間において1%水準で有意差を認めた部位としては,第1趾と中足部中央・中足部内側・前足部外側・前足部内側・前足部中央,第5趾と中足部内側・前足部内側,第2趾と中足部内側・前足部内側,踵外側と中足部内側,踵内側と中足部内側という結果であった。
【考察】
足底は支持基底面を形成し,体平衡を維持するために接地面の形状や性質に適応し,立位での活動時や歩行時の安定性を保障する選択運動を作り出すために,外部環境からの情報を触探索する器官であると考えられる。
今回,足底を任意に分割した13部位に対し,動的2点識別覚を計測した結果,足趾や踵の部位において閾値が有意に低いという結果が得られた。これは歩行時の足圧中心点の軌跡と関連しているものと思われた。特に閾値の低かった足趾に関しては,歩行周期の前遊脚期にあたるフォアフットロッカーとしての機能との関係性があるのではないかと考える。この周期における機能的意義としては足関節を安定させ,MP関節を支点とした足と下腿と身体の全質量の前方への転がりを可能にするとされており,これを保障すべく足趾は床面との間に生じる摩擦を鋭敏に動的触覚で捉えバランス保持に寄与しているものと考える。また踵の閾値が低いという点に関しては,立脚初期にあたるヒールロッカーとの関係性があると考えられた。この周期においては床反力の作用が歩行中最大になるとされており,接触面の形状や性質に合わせて皮膚や筋を適応させ,踵接地時の衝撃吸収や安定性を保障すべく踵の動的触覚が関与しているものと思われる。逆に閾値の高かった中足部については足趾や踵と比較して支持基底面としての役割が少ないことが影響したものと考えられる。以上のことから,足底の動的2点識別覚つまり動的触覚は歩行との関連性が示唆された。
【理学療法学研究としての意義】
本研究により,足底の動的2点識別覚の閾値は足趾や踵において低いことが明らかになった。このことから動的2点識別覚を計測することによって,歩行能力の評価または効果判定を行う一指標になり得るものと思われる。