第49回日本理学療法学術大会

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発表演題 ポスター » 神経理学療法 ポスター

脳損傷理学療法22

Sun. Jun 1, 2014 12:15 PM - 1:05 PM ポスター会場 (神経)

座長:柿澤雅史(札幌医科大学附属病院リハビリテーション部)

神経 ポスター

[1625] 歩行自立度の違いによる維持期脳卒中片麻痺患者の歩行の特徴

青木修1, 大谷啓尊2, 道免和久3 (1.四條畷学園大学リハビリテーション学部, 2.神戸国際大学リハビリテーション学部, 3.兵庫医科大学リハビリテーション医学講座)

Keywords:脳卒中, 歩行, 加速度計

【目的】
維持期脳卒中片麻痺患者(以下,脳卒中患者)において自立歩行が可能な者と不可能な者では,非麻痺側筋力,体幹機能,麻痺の重症度など様々な身体機能に差が見られることが報告されている。しかしながら,歩行の動揺性や定常性といった特徴について,定量的に評価して両者を比較した報告は少ない。歩行の動揺性や定常性の評価には加速度計を用いた方法が簡便であり,臨床評価として有用であると考えられる。本研究では脳卒中患者を対象として,自立した歩行が可能な者と不可能な者の歩行の動揺性および定常性を定量的に評価し,その特徴を明らかにすることである。
【方法】
施設入所中の脳卒中患者14名(年齢:47.7±7.4歳,BMI:21.7±1.6,発症からの期間:1.6±0.9年,麻痺側;右:7名,左:7名)を対象とした。取り込み基準は,身体的な介助なしで16m以上の歩行が可能である,MMSEが24点以上の者とした。16mの直線歩行路を設定し,被験者には普段使用している装具,杖を使用した状態で最大歩行速度での歩行を行わせた。被験者の第3腰椎後方へ加速度計を固定し,サンプリング周波数を200Hzで前後3mを除く10mの体幹加速度波形を記録した。歩行能力の指標として,10m歩行時間,ケイデンス,ステップ長,加速度波形から得られた上下,前後,左右方向のRoot Mean Square(RMS)値および1ストライド時間遅れの自己相関係数(Auto correlation:AC)を用いた。RMS値は歩行速度の影響を補正するためMizuikeらの方法に準じて,歩行速度の二乗で除した後ステップ長を乗じた。
対象者を,施設内歩行自立以上の移動能力のある者を歩行自立群とし,歩行に監視が必要な者を非自立群とする2群に分類した。歩行の各評価指標について,Mann-Whitney検定を用いて有意水準5%として比較を行った。
【倫理】
本研究は所属施設の倫理委員会の承認を得ており,対象者には書面による本研究の説明と参加の同意を得た。
【結果】
歩行自立群9名,非自立群5名であった。両群間に年齢,BMI,発症からの期間および麻痺側については有意差を認めなかった。
歩行の評価指標についての比較では,自立群の10m歩行時間は非自立群と比較して有意に少なかった(それぞれ中央値と四分位,11.3 sec(9.7,15.8),33.4 sec(24.6,53.5),p<0.01)。さらに,ケイデンスおよびステップ長については自立群で非自立群よりも有意に大きかった(それぞれのケイデンス;102.0 r/m(85.0,111.3):65.7 r/m(51.8,70.0):p<0.01,ステップ長;50.6 cm(45.5,62.5):31.3 cm(19.1,37.9):p<0.01)。加速度波形から得られた指標については,RMS,ACともに上下成分でのみ自立群が非自立群よりも有意に高い値を示した(それぞれのRMS;4.7(3.2,6.0):1.6(0.9,3.1):p<0.05,AC;0.59(0.48,0.69):0.32(0.22,0.46):p<0.05)。
【考察】
結果より,10m歩行時間は自立群で有意に少なく,ケイデンスおよびステップ長については有意に大きかった。健常者では,歩行速度を変化させる戦略として,ケイデンスとステップ長を同程度に増大/減少させると報告されている。今回の結果は同一被験者内での歩行速度変化ではないものの,歩行自立,非自立群の間における歩行速度の差にはケイデンスとステップ長の双方が寄与していることが示された。
次に,加速度波形から得られた歩行指標について,自立群と非自立群の差は上下成分でのみ有意であった。自立群の上下成分RMSが大きかったことから,上下方向の動揺が大きいことが示された。RMSについては歩行速度の影響を補正した値であることから,歩行速度の差による影響は考えられない。上下方向の動揺増大については,ステップ長の増大による重心上下動を反映していると考える。また,ACが自立群で有意に大きかったことから,上下方向動揺の定常性が高いことが示された。自立群では,動揺(RMS)が増大しても定常性(AC)を保つことができるため,安定した歩行を獲得できていることが示唆された。
【理学療法研究としての意義】
本研究は維持期脳卒中患者の歩行自立度の違いにおいて,歩行の質の差異を評価したものである。維持期において,歩行の質のどの部分に注目して改善を目指せばよいのかという示唆を与えるものと考える。