第49回日本理学療法学術大会

Presentation information

大会企画 » 開港セミナー

生活を支えるための理学療法マインド―次世代へ送るエール―

Sun. Jun 1, 2014 11:40 AM - 1:10 PM 第2会場 (1F メインホール)

司会:秋田裕(公益社団法人神奈川県理学療法士会)

開港セミナー

[2009] 超少子高齢社会における理学療法マインドのあり方

鶴見隆正 (神奈川県立保健福祉大学リハビリテーション学科)

我が国初の理学療法士の養成校として,1963年5月に国立療養所東京病院付属リハビリテーション学院(第1期入学生14名)が誕生し,50年が経過した。この半世紀の間に理学療法・士はどのような変遷と進化を果たし,今日に至ったのかを確認することは重要である。すなわち臨床現場における治療技術や診療報酬の変遷,職場の職制の在りようなどを踏まえながら,臨床研究の進歩と課題,卒前・卒後教育体制の変遷から理学療法・士の社会貢献などの「来し方」をどのように捉え,超少子高齢社会における理学療法マインドのあり方について参加者の皆さんとともに考えることが,本セミナーの狙いの一つにある。
少子高齢社会の課題は長いスパンの視点で捉える
私に与えられた題目の超少子高齢社会の到来とその対応の重要性については,すでに1963年の「老人福祉法」や1969年の「寝たきり老人に対する老人家庭奉仕員派遣制度」が制定されたころから指摘されてきた。当時の人口構成は,年少人口が多い典型的なピラミッド型であったが,2000年過ぎには中高年層が増加してピラミッド型から壷型に,さらに逆ピラミッド型になると予測し,国は人口構成の課題を先取りした高齢者政策や保健医療施策などを立案してきた。このなかには1965年の理学療法士及び作業療法士法の法整備も少なからず組み込まれている。したがって少子高齢社会に伴う課題に対しては,即応的な活動よりも,長い時間軸で捉えた理学療法・士の視点と活動が重要となる。
子どもの生活環境を支援する視点が高齢社会を支える
ともすれば理学療法・士は,高齢者の身体機能や生活行動などの課題に対して如何に即応すべきかを第一義的に捉えて行動することが多い。このこと自体は正しく基本的なことである。老人保健施設での効果的な個別理学療法や生活に密着した通所理学療法,さらには訪問理学療法などに真摯に取り組んでいるからこそ,理学療法・士は地域住民や行政から求められていると言える。しかしながら高齢社会だから理学療法・士が期待され求められるのではなく,地域の宝である子どもの生活環境までを包括した支援に関わっているからこそ,理学療法・士の存在が高まるという視点がたいせつである。例えば,後期高齢者がピークになるとされる2030年前後の超高齢社会を懸命に支えるであろう25歳前後の青年層は,今現在は,まだ10歳前後の小学生の子どもである。果たして彼らの生活環境はいかがでしょうか。児童虐待や育児放棄,危険な通学路問題などが連日のように取り上げられる子どもの生活環境は,決して快適ではない。このような子どもの生活環境を改善しようとする視点こそが高齢者のより良い生活環境作りにも相通じることになる。すなわち段差一つをとっても子どもに優しい生活環境の構築やシステム整備は,健やかな高齢者の生活を支援する人材と社会環境を創り上げる原点となることに気づくべきである。
町つくりの視点は健やかな地域社会を再興する
転倒予防教室や介護予防教室等には,これまで多くの理学療法・士が関わり,高齢者一人ひとりの健康を高めることに貢献してきた。このように理学療法・士は個人レベルの身体機能の改善を得意とするところであるが,隣近所を含めた町つくりの視点での活動は十分とは言い難い状況である。健やかな地域社会の再興を促通する活動が定着してこそ,個人レベルから地域レベルの町つくりに繋がってくる。したがって理学療法士は訪問理学療法や通所理学療法などの拡充に関わりながらも,限界集落化するなかで懸命に生活している高齢者を支援することが,12万人体制の理学療法・士の役割のように感じる。理学療法・士の町つくりの視点が買物難民,移動難民,保育難民などの解消の契機になり,同時に健やかな地域社会を再興することになる。
枠から「飛び出す」視点の理学療法・士が社会を変える
理学療法士が日々の臨床業務にひた向きに取り組むことは当然であるが,それだけでは保健医療の枠内の活動に留まり,地域社会を変容させる力には及ばない。今日の理学療法は,時間による単位制や病期別の理学療法,多職種連携や地域連携などの枠のなかでの行動に終始し,小さくまとまった理学療法・士に陥ってしまう危険性を内包している。ともすれば分断したアプローチにいつの間にか慣れてしまい,そのことに疑問を持たなくなる可能性がある。本来は寄り添って支えるべきクライエントのICFの課題に,真正面からどの程度関わってきたのかを常に反芻することが理学療法・士に求められている。誰もが経験したことない超少子高齢社会であるからこそ,就学支援から就労支援,町つくりから地域の組織化などの社会基盤つくりに関心をもつことが重要である。すなわち枠から「飛び出す」視点の理学療法・士を積み重ねていくとことで社会が変わってくると考えている。