第49回日本理学療法学術大会

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大会企画 » シンポジウムⅠ

生活を支えるための環境―飛び出そう街へ―

2014年5月30日(金) 13:30 〜 15:00 第2会場 (1F メインホール)

座長:佐藤史子(横浜市総合リハビリテーションセンター地域支援課)

シンポジウムⅠ

[2011] 住環境への提言

松尾清美 (佐賀大学大学院医学系研究科/佐賀大学医学部附属地域医療科学教育研究センター)

生活環境の考え方
高齢となり身体機能が低下したり身体に障害が現れると,これまでの生活環境では生活に不便を感じたり,何らかの生活行為ができなくなったりします。例えば,歩いていたときは何の問題もなく玄関の上り框の段差を越えて家へ出入りしたり,トイレまで歩いて行って便器に座り排便したり,浴室で身体を洗って浴槽への出入りも行っていた方が,歩けなくなったとしましょう。すると,それまで行っていた普通の生活行為や動作が,歩けなくなり足で移動できなくなると,段差が多い環境では,前述したような移動ができなくなるため,車椅子を使った生活方法や外出方法を知らない場合は,「何もできなくなった」とか「もう自分一人では動けないし,介助が必要」などと思い込み,大きなショックを受けるのです。住環境改善支援を行う前に,この心のショックを癒すことや障害受容を支援することが大切です。これに関しては,周囲の家族や友人,医療職,福祉職などは生活方法や補装具や福祉機器情報,住宅改修情報などで支援していくことができますが,本人が心の中で障害を受け入れることが最も大切ですから,焦らずに気持ちを聞き取りながら支えていきましょう。そして,身体の障害を受容して生活意欲が出現したら,補装具や福祉機器を試用し,モデルルームなどの住環境を経験して,「住環境を改善すると自立できることが多くなる」という気持ちを作る支援を行います。
補装具や福祉機器,日常生活用具などの情報や住環境に関する情報などの生活環境整備は,高齢者や身体障害者の日常生活行為やQOLを向上させるために不可欠な要素であり,街へ出かけるなどの社会参加する気持ちを作るための基本情報であり,なくてはならないものです。したがって,本人や家族の生活に対する考え方に加え,福祉機器や住環境の改善方法の情報だけでなく,その選び方や使い方,調整方法,社会資源などに関する情報,および福祉機器メーカーや取り扱い事業所,工務店などの情報も大変重要です。使用する様々な福祉機器が,本人の身体機能や寸法,生活方法や住環境に適合すれば,自立(律)度の高い生活となり生活道具として活用されるようになるからです。そうなれば,介護負担を少なくできるだけでなく,自立度が高くなり,社会に参加する勇気や希望も大きくなっていき,生活の質は高まっていくと考えています。逆に,使用する福祉機器が身体機能や寸法,生活方法,住環境などに適合していない場合は,生活道具として使用できないばかりか,本人や介助者の身体への危険性を増大し,閉じこもりや寝たきり生活になってしまう可能性があるのです。
住環境への提言
図を見てください。高齢者や障害者を取り囲む生活環境要素を物理的要素と人的要素でまとめた図です。図の円の内側は住宅内の要素を示し,円の外側は社会環境や法律や条例,住む地域の気候や習慣などを示しています。
ここに示す物理的要素の情報は,バリアフリーや自立(律)生活に必要なものですから,本人や家族,介助者などの人的要素へ伝達されます。伝達される内容は,福祉機器や住環境などの物理的要素に関する情報,社会環境からの制度や社会資源などの情報,福祉機器を製作する人や会社の情報,人生や生き方や障害に対する考え方,福祉機器に関する心構えなどの情報などがあります。また,物理的要素では,福祉機器だけでなく家具や家電製品,設備機器,そして様々な道具がありますから,それらの情報も必要です。人的要素は,生活観や生活習慣,身体寸法や機能,障害者観,人生観,意欲,器用・不器用などが個々によって異なるので,本人の身体や生活方法に物理的要素の機器具や住環境を適合させるときには,本人のバリアフリーの考え方に加え,人生や生活,移動・移乗動作とコミュニケーションなどの考え方を知って,住環境の改善を支援することが重要です。
住環境改善には,生活の基本行為を行う住環境には,出入口,寝室,トイレ,浴室,洗面所,扉などの広さや設備の高さなどを個々の移動や移乗方法などの住まい方に合わせるための情報が不可欠です。したがって提言は,「生活環境の情報を集積し,実際の動きや生活を試してから,本人や家族が生活したい方向へ,またQOL(生活の質)を向上させられる様に住環境を改善しましょう!」です。