第49回日本理学療法学術大会

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未来への継続は生活を支える―意欲と行動変容―

2014年5月31日(土) 09:40 〜 11:10 第2会場 (1F メインホール)

座長:辻下守弘(甲南女子大学看護リハビリテーション学部理学療法科)

シンポジウムⅡ

[2015] やる気を引き出す生活支援

足達淑子 (あだち健康行動学研究所)

(認知)行動療法はうつ病などの精神疾患をはじめとする多くの疾病の予防,治療からリハビリテーションにまで幅広く期待されている。それは,①本法が思考・認知から,情動・感情,具現的行為まで人の活動全般を対象とすること,②本人の行動(意欲も含む)が鍵を握る疾病や問題が圧倒的に多いこと,③本法が実際的・柔軟な問題解決の指針を提供すること,④治療を標準化しやすく初学者やマニュアルでも対応可能であること,などの理由によるだろう。

演者は精神医学研修の過程で行動療法に出会い,肥満・糖尿病等の生活習慣病から睡眠や育児支援(親訓練)などを研究テーマに,行動変容支援の方法を模索してきた。そして行動療法がもつ前述の④標準化が可能であるという特徴を活かして,多数に適用できるセルフケア法を作成し,一定効果が期待できることを検証してきた。これは行動療法が有する工学的構造のパワーであり,一般医学や公衆衛生領域で貢献できる余地が大きいことを意味する。
その傍ら,現在週3日従事する診療所や総合病院外来で心療内科・精神科の診療でも行動療法の威力をしばしば感じている。たとえば,うつ病や不安障害の患者さんで食事,身体活動,睡眠等の教育がしばしば治療課題となる。また,がんや糖尿病の治療中の患者さんで,身体管理以前にうつや不安などのメンタルな支援が必要と思われるケースも少なくない。このように臨床で必要とされる援助は,患者ごとに高度に個別で特異的であり,同一人物でもその時々で変化する。

そしてそのような随時変化する臨床場面で,行動療法のものの見方,問題解決の発想法は,疾患の種類,年齢,障がいの有無を問わず,シンプルで有力な問題解決の指針になりうると思う。その発想法は,目の前の人が生活するうえで,「何に困っていて,どうなったら良いのか」「そのためにこの人は何ができそうか」「それを実行させるために自分は何ができるか」を,それぞれ具体的にしていくという柔軟なものである。そしてコミュニケーションや治療者―患者関係も刺激と反応の関係で理解できる(図1)。この発想法が習慣化すると,「この人には,今どのようにふるまうのが良いか」あるいは「こう言うと,相手はどう受け止めるか」を反射的に想像するようになる。
リハビリテーションにおける理学療法も,対象となる患者さんの「障がいの性質」とその人の「生活のしかた」,また「心理行動」の掛け合わせによって,必要とされる援助のバリエーションは無限大であろう。そのような領域でこそ,行動療法のシンプルな原理は最大限活きるように思われる。さらに行動療法は「生活しやすくするための理論と技術」として,患者さん自身にも有益に違いない。

「意欲」は行動変容の条件のひとつであり(図2),リハビリテーションの成否を決定する。この「意欲」も行動科学の視点からは,修正可能な「行動」であり,「やる気」を促し強める刺激(正の強化子),あるいは「やる気」をなくし打ち消してしまう刺激との相互関係(関数)とみなすことができる。
行動が起きるのは一般に「何をどうするかが明らかになり」「それが自分にとって大切とわかって(価値)」「その行動によって良い結果が期待でき(結果予測)」「苦痛や努力が許容できて(コスト)」「何とかできそうと思う(自己効力)」時である。さらに,一旦生じた行動もその行動を続けさせる刺激(強化子)がないと,消えてしまう。演者は,何ごとも「最初が肝腎」をモットーにしているが,リハビリテーションでも最初に出会った専門家との関係が決定的に重要ではないだろうか。本シンポジウムでは,医師や理学療法士,看護師の存在やふるまい方自体が,患者の「やる気」に影響する刺激(社会的強化子)であることを肝に銘ずると,我々はどのような点に注意し,どのようにふるまうべきかを具体的に考えてみたい。