第49回日本理学療法学術大会

講演情報

大会企画 » 理学療法士の生活を支える ―仕事を続けていくための問題について考えよう―

第Ⅰ部:男性・女性のからだの違いや変化から考える職場環境

2014年5月31日(土) 13:00 〜 14:30 第9会場 (4F 413)

司会:三宅わか子(星城大学リハビリテーション学院)

ライフサポートセミナー

[2017] 男性・女性のからだの変化を知ろう

平元奈津子 (広島国際大学総合リハビリテーション学部リハビリテーション学科)

女性はそのライフステージに応じたホルモンの影響を受け,様々な身体の変化を経験する。特に20~30代の成熟期では妊娠,出産が大きな出来事として存在するだけでなく,仕事をしている場合は結婚,出産による進退の決断,職場での後輩指導や責任のある立場への昇進など,身体状況と環境の双方の大きな変化がみられることが多い。
妊娠と出産に伴い女性の身体は体型や姿勢などの外見だけでなく,ホルモン分泌等の生理機能面において約40週,10ヶ月という短期間に劇的に変化する。妊娠中の母体や胎児の生命に関わるトラブルは重篤な問題として専門的な治療と予防がなされているが,生命の危機に瀕さないような身体的問題はマイナートラブルと言われ,日本ではこれらについては積極的に治療介入がなされていない。妊婦のマイナートラブルとして,腰背部痛や骨盤帯痛などの運動器系の症状,尿失禁等の泌尿器系の症状,動悸・息切れ等の呼吸循環器系の症状,マタニティーブルーズや睡眠障害等の心身精神系の症状等がある。妊婦のマイナートラブルでは腰痛が最も多く,妊婦の約50~70%,骨盤帯痛は約20%~40%が経験すると言われ,その罹患率の高さから軽視すべき問題ではないと言える。
妊娠中の母体の体型は,妊娠5ヶ月頃から前方へ突出する形で大きくなる。出産前には子宮は剣状突起と臍との間の高さにまで増大し,母体の体重は出産直前では腹部に約8~10kg増加する。妊娠中期から後期では,増大した腹部や乳房を保持し抗重力姿勢を保つために,骨盤に対して体幹上部が後方に変位した位置にある状態であるsway back姿勢となりやすいと報告されている。体幹の質量中心を後方へ変位させるためには,脊椎と骨盤の形状を変化させる必要がある。妊婦の姿勢に関して,妊娠経過に伴い腰椎前弯と胸椎後弯の増加,腰椎の平坦化や胸腰椎の平坦化等が報告され,脊椎弯曲の増加する場合では,骨盤帯痛や尿失禁等の症状との関係が報告されている。この他,腹筋群と骨盤底筋群は,膨大する腹部の影響を強く受ける。腹筋群は分娩まで伸張され収縮の効率が低下し,骨盤底筋群は増大した子宮を支持するため伸張されやすくなる。分娩時に骨盤底筋群の損傷や過度のいきみにより腹直筋離開が生じることもある。
産後の女性は,新たな慣れない育児動作による身体的負担だけでなく,育児や環境の変化による精神的な負担も大きい。妊娠中に生じた腰痛や骨盤痛は産後も継続し,慢性化すると言われ,決して軽視すべき症状ではない。また,妊娠に伴う妊娠高血圧症候群や妊娠糖尿病の既往を持つ女性では,将来において極めて高率に本態性高血圧や糖尿病に進展していることが理解されているにも関わらず,産後に継続して医学的介入がされていないことが非常に多い。
更年期の女性では,主にエストロゲン分泌の変化による更年期障害と呼ばれる症状が多く見受けられる。その症状は頭痛,めまい,血管運動神経症状,精神神経系症状(ヒステリー,抑うつ),全身症状,泌尿器系(尿失禁,頻尿),運動器系(肩こり・腰痛・背部痛)などと非常に多岐に渡り,更年期女性の20~30%が症状を有すると言われる。また,この時期の女性はライフステージの内,運動量が最も少ないとも言われ,運動量の低下が要因の一つと考えられるメタボリックシンドロームやロコモティブシンドロームのリスクが高くなると考えられている。閉経後の高齢期の女性では,骨粗鬆症,冠動脈疾患など男性よりも女性に多くみられる疾患が生じる。これらは閉経によるホルモン分泌変化によるところが大きいと言える。
一方,男性は,女性の妊娠・出産や閉経のような劇的なホルモン環境の変化は生じないが,加齢に伴うホルモン分泌の変化により,様々な身体の変化や身体症状の発症が少なからず生じている。男性ホルモン分泌は20代をピークに徐々に減少してくる。特に加齢に伴うテストステロンの減少から引き起こされる加齢男性性腺機能低下症候群,いわゆる男性更年期障害と言われる様々な症状が生じる。この時期にあたる40代後半~50代の男性では,職場や家庭内環境において少なからずストレスを受けることが多く,心身の変化に影響している可能性が言われている。テストステロンの低下が原因として生じる症状として,気力や認知力の低下,性的活動力の低下などの自覚的症状だけでなく,筋肉量の減少による筋力低下,内臓脂肪増加(メタボ),骨塩量低下,全身の倦怠感や易疲労性など非常に多岐に渡る。しかしこれらの症状に対し,積極的な専門的治療はまだ広く浸透していないのが現状であり,近年日本でもウィメンズヘルスだけでなくメンズヘルスが注目されつつある。
本講演を通して,20代~60代と幅広い年齢層,性別,それぞれのライフステージに生じる身体変化や症状を相互に理解することで,より良い職場環境づくりの一助となれば幸いである。