第49回日本理学療法学術大会

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大会企画 » 理学療法士の生活を支える ―仕事を続けていくための問題について考えよう―

第Ⅰ部:男性・女性のからだの違いや変化から考える職場環境

Sat. May 31, 2014 1:00 PM - 2:30 PM 第9会場 (4F 413)

司会:三宅わか子(星城大学リハビリテーション学院)

ライフサポートセミナー

[2018] 妊娠中の理学療法士の就業に配慮する点~妊婦の腰痛に対する理学療法経験からの提言~

舟木一夫 (羽島市民病院リハビリテーション科)

公益社団法人日本理学療法士協会(以下,協会)の平成25年6月現在の会員総数は85127名であり,そのうち女性会員は36206名で42.5%を占める。女性会員の中で20~40歳代の女性は31500名で87%にもおよぶ。女性会員は,出産・育児等のライフイベントにより離職する会員も多く,理学療法の質的低下,医療サービスの低下に繋がりかねないため,就労継続しやすい環境作りが求められる。平成22年の女性理学療法士就労環境調査(以下,女性PT就労環境調査)によると,離職の理由として最も多いのが妊娠・出産で,次いで結婚,配偶者の都合,育児であった。
離職の理由の多い妊娠について,その身体変化やトラブル,妊娠中の理学療法士に就業上配慮する点についてまとめる。
【妊娠経過に伴う身体の変化】
ホルモンバランス・・妊娠中はヒト絨毛性ゴナドトロピン,エストロゲン,プロゲステロン,ヒト胎盤性ラクトゲン,リラキシン等のホルモンを分泌することで,妊娠を維持し,出産の準備を行う。リラキシンは妊娠3か月頃から分泌し始め,靭帯等の結合組織を軟化させ,関節の不安定性を引き起こす。
子宮の変化・・成熟女子の子宮は50mmくらいだが,妊娠後期になると容量は500倍になり腹部が突出する。子宮底の高さも6か月では臍の高さになり,9か月には剣状突起下2~3横指までにもおよぶ。
姿勢の変化・・腹部突出,乳房発育により徐々に後方重心となり,sway-back姿勢になりやすい。
循環・呼吸器系の変化・・安静時心拍数(非妊娠時より10~15拍/分),心拍出量(40%)が増加する。また,血液量増加(40~45%)により鉄欠乏性貧血(妊娠貧血)を起こしやすくなる。基礎代謝量の亢進(8~15%)により酸素消費量が増加(10~20%)する。そのため 呼吸数(10%)が増加し,労作時の軽い呼吸困難がみられる。増大する子宮により腸管,膀胱,尿管が圧迫され便秘,頻尿となる。
【妊娠中の腰痛について】
妊娠中の腰痛の有訴率は諸家の報告によると60~80%であり,半数以上の妊婦が何らかの腰痛に悩まされる。痛みの部位は,仙腸関節,鼠径部,恥骨結節部など骨盤由来のものが多く,痛みの初発時期としては,20週以前が17.6%,20~31週が59.7%,32週以降が22.7%である。腰痛の多くは分娩後短期間に軽快するが,産後何か月も持続するものもある。経膣分娩では,骨産道を胎児が通過する時に仙腸関節・恥骨結合部などの痛みが発生する可能性がある。また軟産道の伸張が骨盤内の靭帯・神経まで及ぶと尿失禁,子宮脱などを起こすこともある。
腰痛の要因として,姿勢の変化,腰部の安定性低下,ホルモンの影響,体重増加などが考えられる。姿勢は後方重心,sway-back姿勢になりやすく,腰部の負担は増加する。また,腹部の突出により,側腹筋群は持続的な伸張により弱化を起こし,姿勢の変化は筋のインバランスを生じさせる。これが腰部のスタビリティをさらに低下させる。また,妊娠初期からホルモン(リラキシン)の影響で関節が緩み始めることが,腰痛の発症を助長する。これに,体重増加や仕事,家事,子守りなどにより負担が増加する。特に理学療法士の臨床業務は,治療行為に移乗動作や歩行の介助などが加わり腰部の負担は一層増加する。
【妊娠中のトラブル】
女性PT就労環境調査によると,妊娠出産のトラブルは70.3%にあり,「切迫流産」は19.3%,「流産」は6.3%,「切迫早産」は13.9%,「早産」は4.0%との報告がある。
その他に多いトラブルとして,不正出血,悪阻,妊娠高血圧症候群,貧血などがある。マイナートラブルとして,初期には,悪阻が最も多く,便秘,おなかの張り,貧血,動悸・息切れ,腰痛等があり,中期以降になると初期に比べて悪阻が減り,便秘,おなかの張り,動悸・息切れ,腰痛,頻尿が多くなる。
【就業上の配慮する点】
妊婦は妊娠初期より,悪阻や切迫流産,腰痛,腹部の張りなどのトラブルの他に,妊娠・出産や仕事への不安も抱え始める。妊娠初期の不安に関しては,母親や夫をはじめとする重要他者との肯定的関係や効果的なサポートが重要であり,職場においても出来るだけ早い時期から上司・同僚との相互理解が大切となるため,相談しやすい職場環境を作っておく必要がある。また,女性PT就労環境調査での要望の中に,管理者に対し妊娠・出産への理解を深めるような研修会の開催が全要望の30%もあり,普段から妊婦・出産に対して職員の理解,意識を高めるように,定期的に院内研修を行う必要がある。
妊婦自身も腰痛のリスク管理として,体型・姿勢の変化の少ない妊娠早期からの側腹筋群や骨盤底筋群等のトレーニング,腰部を保護しながらの日常生活や介助方法,骨盤ベルトの使用などにより腰痛の予防・改善に努める。
在職中の20~40代の女性を対象とした日本労働組合総連合会の調査によると,子育て関連の制度があることを知らない女性が22%いたとの報告がある。子育て支援に関する各種制度(以下,支援制度)を活用とした職場の取り組みとして,まずは支援制度の紹介を行うが,共有の認識をもってもらうため妊婦に拘らず職員全員に行われるのが望ましい。
産前・産後休暇,健康診断等の為の時間の確保,休暇の獲得,通勤時の負担軽減をはじめ業務内容の軽減(患者数の軽減,担当変更,配置変更)などについて相互理解を得た上で活用する。産前・産後の福利厚生制度が整備されているとともに,実際に利用できる職場の雰囲気を創り出すことが管理者に求められる。
産休・育休中の職場復帰の不安に対しても,SNS等を利用して情報共有の場を作る事によって,仕事に対するモチベーションの維持やスムーズな復職につながる。職場全体で受入れる土壌をいかに作り出すかが重要である。