[2024] 内部障害を包括して生活を支える
人口の高齢化に伴いリハビリテーション対象者も高齢化しており,リハビリテーションの治療対象疾患以外に,併存する疾患に留意して理学療法を進めなければならないことは,臨床場面でよく経験することである。内部障害(もしくは内部疾患)を有する患者のリハビリテーションを例にとると,運動器疾患を併存する心血管疾患患者や呼吸器疾患を併存する中枢神経疾患患者は数多く,内部障害を有していない高齢患者を見つけるほうが困難を極めるほどである。また,内部障害を同時に複数有していることも内部障害患者の特徴である。筆者が関係している北里大学病院において,心臓リハビリテーションが処方された急性心筋梗塞患者の併存疾患を調査したところ,併存疾患を3つ以上有する患者は全体の5割以上にも及び,まさに多疾患有病者であった。ただし,内部障害を複数併存する患者の病態や併存する疾患同士の関連性は一様ではない。例えば,虚血性心疾患や慢性腎臓病を有する患者は糖尿病を高率に併存するが,糖尿病は併存というよりも原疾患である。また,心機能障害が重度となると腎機能障害を併発し,腎機能障害が進行すると心機能に多大な悪影響を及ぼすなど,ある臓器の障害が他の臓器に影響を及ぼし,互いに負の連鎖を引き起こすことが知られている。つまり,入院の契機やリハビリテーションの処方目的となった内部障害(疾患)をターゲットにしているだけでは担当患者の病態を理解したことにはならず,適切で効果的な理学療法を展開することは到底できないことを意味している。
一方,内部障害者患者に共通する点がいくつかある。内部障害(疾患)はもちろん臓器や器官の機能障害を呈するが,同時に能力障害すなわち日常生活活動(ADL)の障害を容易に惹起する。1990年に実施されたFramingham Disability Studyによると,心筋梗塞患者がADL障害を有する割合は同年代の地域在住者と比べて2倍近くにも及び,重症例(慢性心不全)ならびに高齢であるほどその併存率が高くなることが示されている。そして,その後の多くの研究結果から,ADL障害を引き起こす原因には心機能障害の重症度だけでなく,心疾患罹患後の運動機能の低下が大きく関与することがわかっている。
さらに,内部障害者に共通している重要な点は,臓器や器官の機能障害によって引き起こされたADL障害はその後の再入院率,再発率および死亡率といった生命予後に大きく影響を及ぼしていることである。治療内容や入院期間等が異なるため,本邦における調査結果のみを紹介すると,心筋梗塞患者1),慢性心不全患者2)および慢性腎臓病患者3)を対象とした追跡調査では,いずれも,歩行能力の指標である歩行速度や日常の身体活動量が数年後の生命予後の独立した予測因子であることが示されている。つまり,内部の臓器や器官の機能障害はADL障害という能力障害を引き起こすが,この能力障害がもともとの原因である臓器や器官の機能障害をさらに悪化させ,ひいては生命予後を低下させるという特有の過程が示されたことになる。そのメカニズムの詳細はさらに今後の調査研究によって解明されると思うが,よくよく考えてみると,内部障害の多くは生活習慣の問題によって引き起こされる疾患であることから,その「生活」自体を支えなければ,問題を是正したことにはならないはずである。
筆者が理学療法士としてまだ経験が浅い頃,内部障害に対する理学療法を展開する際,まずはリスク管理であり,そのリスクに基づいたADLならびにQOLの維持・向上を念頭に置いていた。しかし,心疾患を例にとると,今や,運動療法は生命予後に対する効果としてエビデンスの高い治療薬と肩を並べて,より効果的な治療手段の一つとして認められている。そして,心機能障害を推し量る重要な指標となる運動耐容能の評価,ADLを直接的に規定する運動機能評価とトレーニング,さらにはADL自体の評価や指導など,生命予後を含めた心疾患を取り巻く問題を包括的に捉えることが,心疾患患者に対する重要な介入内容となっている。つまり,理学療法士は,内部障害を包括的に捉えて,その障害者の生活を支える重要な役割を担っている。
本セミナーでは,筆者らが長期に渡り調査を進めてきた,心疾患患者ならびに慢性腎臓病患者(血液透析者)の併存疾患を含めた病態,ADLおよび生命予後の実態を紹介するとともに,運動指導を含めた疾患管理の重要性と理学療法士の役割について述べてみたい。長澤弘大会長がテーマとして掲げられた「生活を支える」活動の一助となれば幸いである。
【参考文献】
1)山本周平,松永篤彦・他.高齢虚血性心疾患患者の入院記における最大歩行速度は再入院を予測する強力な因子である.臨床理学療法研究.2013;30:15-19.
2)Yasushi Matsuzawa, Masaaki Konishi, et al. Association between gait speed as a measure of frailty and risk of cardiovascular events after myocardial infarction. J Am Coll Cardiol. 2013;61:1964-72.
3)Ryota Matsuzawa, Atsuhiko Matsunaga, et al. Habitual physical activity measured by accelerometer and survival in maintenance hemodialysis patients. Clin J Am Soc Nephrol. 2012;7:2010-6.
一方,内部障害者患者に共通する点がいくつかある。内部障害(疾患)はもちろん臓器や器官の機能障害を呈するが,同時に能力障害すなわち日常生活活動(ADL)の障害を容易に惹起する。1990年に実施されたFramingham Disability Studyによると,心筋梗塞患者がADL障害を有する割合は同年代の地域在住者と比べて2倍近くにも及び,重症例(慢性心不全)ならびに高齢であるほどその併存率が高くなることが示されている。そして,その後の多くの研究結果から,ADL障害を引き起こす原因には心機能障害の重症度だけでなく,心疾患罹患後の運動機能の低下が大きく関与することがわかっている。
さらに,内部障害者に共通している重要な点は,臓器や器官の機能障害によって引き起こされたADL障害はその後の再入院率,再発率および死亡率といった生命予後に大きく影響を及ぼしていることである。治療内容や入院期間等が異なるため,本邦における調査結果のみを紹介すると,心筋梗塞患者1),慢性心不全患者2)および慢性腎臓病患者3)を対象とした追跡調査では,いずれも,歩行能力の指標である歩行速度や日常の身体活動量が数年後の生命予後の独立した予測因子であることが示されている。つまり,内部の臓器や器官の機能障害はADL障害という能力障害を引き起こすが,この能力障害がもともとの原因である臓器や器官の機能障害をさらに悪化させ,ひいては生命予後を低下させるという特有の過程が示されたことになる。そのメカニズムの詳細はさらに今後の調査研究によって解明されると思うが,よくよく考えてみると,内部障害の多くは生活習慣の問題によって引き起こされる疾患であることから,その「生活」自体を支えなければ,問題を是正したことにはならないはずである。
筆者が理学療法士としてまだ経験が浅い頃,内部障害に対する理学療法を展開する際,まずはリスク管理であり,そのリスクに基づいたADLならびにQOLの維持・向上を念頭に置いていた。しかし,心疾患を例にとると,今や,運動療法は生命予後に対する効果としてエビデンスの高い治療薬と肩を並べて,より効果的な治療手段の一つとして認められている。そして,心機能障害を推し量る重要な指標となる運動耐容能の評価,ADLを直接的に規定する運動機能評価とトレーニング,さらにはADL自体の評価や指導など,生命予後を含めた心疾患を取り巻く問題を包括的に捉えることが,心疾患患者に対する重要な介入内容となっている。つまり,理学療法士は,内部障害を包括的に捉えて,その障害者の生活を支える重要な役割を担っている。
本セミナーでは,筆者らが長期に渡り調査を進めてきた,心疾患患者ならびに慢性腎臓病患者(血液透析者)の併存疾患を含めた病態,ADLおよび生命予後の実態を紹介するとともに,運動指導を含めた疾患管理の重要性と理学療法士の役割について述べてみたい。長澤弘大会長がテーマとして掲げられた「生活を支える」活動の一助となれば幸いである。
【参考文献】
1)山本周平,松永篤彦・他.高齢虚血性心疾患患者の入院記における最大歩行速度は再入院を予測する強力な因子である.臨床理学療法研究.2013;30:15-19.
2)Yasushi Matsuzawa, Masaaki Konishi, et al. Association between gait speed as a measure of frailty and risk of cardiovascular events after myocardial infarction. J Am Coll Cardiol. 2013;61:1964-72.
3)Ryota Matsuzawa, Atsuhiko Matsunaga, et al. Habitual physical activity measured by accelerometer and survival in maintenance hemodialysis patients. Clin J Am Soc Nephrol. 2012;7:2010-6.