第49回日本理学療法学術大会

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専門領域研究部会 基礎理学療法 » 基礎理学療法 ミニレクチャー

ミニレクチャー

2014年5月31日(土) 11:40 〜 12:10 第3・4会場 (3F 301+302)

司会:藤澤宏幸(東北文化学園大学医療福祉学部リハビリテーション学科理学療法学専攻)

専門領域 基礎

[2030] 理学療法評価のピットフォール

中山恭秀 (東京慈恵会医科大学附属第三病院リハビリテーション科)

近代理学療法は,教育水準のステップアップを果たし学術的にも発展している一方で,臨床現場の理学療法士による各種の検査・測定ならびに評価の信頼性確立については多くの課題がある。関節可動域測定では空間座標系(直交座標)と身体座標系(極座標)の混在による混乱を招いている。肩関節や股関節では測定方法の再現性が得られにくい面もあり,三次元動作解析による基礎研究等と臨床実践とのつながりに課題を残している。筋力テストとして代表的なManual Muscle Testing(MMT)は,重力を考慮した測定肢位を原則としているため必然的に腹臥位での測定も含まれている。早期の理学療法や在宅での検査場面を考慮すると,腹臥位での測定は大きな壁となる。一方で開発と臨床応用が進んでいるHand Held Dynamometerによる測定も有用であるが,MMTが神経難病や脊髄損傷の患者ではわずかな収縮や運動をgradingできるため最も有効な検査方法となることも主張されなければならない。痙縮評価法として世界的に用いられているmodified Ashworth scale(mAs)は,関節可動域(可動性)と速度依存性の抵抗感を材料として理学療法士が主観的にグレードを判断する。脳卒中診療ガイドラインにおいて推奨されている数少ない機能障害の評価尺度であるが,そもそも多発性硬化症を対象に作られた評価方法である本法は原典に肘関節のみが記載されており,他の研究者による報告によると下肢への応用に関しては検者間信頼性が低いとされている。可動域に合わせて1秒間で全可動域を動かすテクニックを下肢へ応用するのはなかなか困難である。バランス評価の1つとして代表的なFunctional Reachは腕を物差しに沿って前に伸ばして計測される。開始肢位で鎖骨や肩甲骨の可動性を統一させなければprotractの分は誤差になる。protractにより肩関節中心が並進運動を行う点を考慮しなければバランス評価の真値を見失うことにつながる。リハビリテーション実施計画書や廃用症候群の診断基準にもなっているBarthel Indexは,日常生活動作指標として多くの判定にも用いられている。しかしながら急性期医療では判定が困難な項目も多く,障害モデルにあてはめた場合の論理的な構築を極めて難しいものとしている。東京都はかかりつけ医に対するリハビリテーション普及支援事業として,このBIの利用を促す施策をとっている。わかりやすいBIは般化するには有用性が高い。一方で活動性が低く床に伏せがちになっている患者を評価するには不十分な面もある。特に寝返りから起き上がり,立ち上がりといった基本動作の自立性や監視・介助の必要個所などを評価しなければ具体的な理学療法プランを論理的に立案できない点にも注意しなければならない。
この20年間あまりで臨床現場は大きく変化した。巷の理学療法士が少ないことで手厚く評価されていた時代に比べ,診療時間や診療点数なども考慮した時間配分が求められるようになっている。アシスタントが必要な評価は状況的に1人で行うとなれば精度が落ちる,他方で,欠損値を残すことは課題指向型という名目を借りて重要な論理構築を省く可能性も危惧される。臨床実習において評価の考え方を十分に習ったとしても,理学療法士となってからはマニュアルにのっとり繰り返し測定することで形成することになる。細かい部分では養成校による違いがあることも当然であるも,教育現場からの方法統一などの討論も必要になってきている。同時に,現場で誤差を減らす試みも重要であろう。その評価結果をもとに全ての理学療法,いわゆる治療に関するエビデンスが決定されるため,臨床における評価結果の信頼性の検証はどうしても避けては通れない大切な作業である。理学療法士が行っていることが理学療法である,という目線から上を見るか,はたまた留まるかといった選択と挑戦の時期に来ていることは確かであり,これが近年のエビデンス構築の潮流となっていると感じる。評価指標が500とも800ともいわれ,評価方法があふれてきている中,meta analysisを難しくしている要因を探り,理学療法士による特別な技術としての「理学療法評価」が医療や介護の中で明確に位置づけられることを目指したいところである。