第49回日本理学療法学術大会

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若手研究者(U39)による最先端研究紹介

2014年5月31日(土) 13:00 〜 14:40 第7会場 (3F 315)

司会:大西秀明(新潟医療福祉大学運動機能医科学研究所), 前島洋(帝京科学大学東京理学療法学科)

専門領域 基礎

[2031] 視覚入力刺激を用いた運動学習の脳内機構

野嶌一平 (名古屋大学医学部保健学科理学療法学専攻)

今回の発表では,我々がこれまで行ってきた一連の神経科学領域における研究(Nojima et al. 2012, Nojima et al. 2013)について紹介させて頂きたいと考えている。しかし我々の研究が,本シンポジウムのテーマである「最先端研究」に合致しているかに関しては些か心許ない。特に神経科学の進歩は目覚ましく,リハビリテーション領域においても最新の知見を取り入れていくことが大きな課題となっている。そこで我々の研究結果を元に,今後臨床に応用していこうと考えている戦略についてお話させて頂き,少しでも臨床および研究にとって有益な情報を提供できればと考えている。そして,様々な研究分野の方々からご指導頂ければ幸いである。
神経科学,その中のリハビリテーション領域において,ヒト脳を含む中枢神経系を外的または内的な刺激により変化させることが注目されている。特に大脳皮質の一次運動野は,単純運動の繰り返しだけでなく複雑技能を獲得するための練習によって,ダイナミックに変化(可塑性)することが知られている。また皮質レベルでの変化以外にも,ニューロン間の興奮性・抑制性作用の変化など,神経連結の機能的変化や各階層間における可塑的変化も明らかになってきている。これらは運動を学習する際の変化であるが,脳卒中などにより障害された脳機能にも可塑的変化が起こっている。一般に脳卒中発症後には脳組織自体が再組織化を開始するが,慢性期へと経過するに伴い自発的神経可塑的変化の発現の可能性は低くなることは周知の事実である。しかしヒト脳において,高強度高頻度の運動練習または非侵襲大脳皮質刺激により一次運動野領域に可塑的変化が誘発された場合,慢性期脳卒中患者においても運動機能の回復が起こり得ることが近年報告されてきている。これは,適切な理学療法介入により脳の可塑的変化を誘発することができれば,機能回復が難しいと考えられていた慢性期の脳卒中患者においても運動機能が改善される可能性を示唆しているものである。一方,重度の運動麻痺や疼痛,切断などにより障害を有した四肢での反復した運動が困難な患者を臨床では多く経験する。理学療法では,このような対象者にこそ専門知識を生かして機能回復を獲得していく必要があるものと考える。そして機能回復を得る戦略が近年盛んに強調されている,「科学的根拠」に則ったものであれば尚望ましい。
そのような中,脳卒中後片麻痺患者の運動機能改善を目的として,近年鏡像を利用したミラーセラピー(mirror therapy以下:MT)が提案され,臨床での応用が行われている。MTは元々疼痛(切断後の幻肢痛)患者に対して考案された治療戦略であり,特に難治性疼痛患者に対して積極的に介入が行われている。しかし我々は疼痛患者に対するMTの自験例を持っていないことから,疼痛に関しては総説を参考にして頂くこととして,今回は脳卒中患者に対する治療戦略としてのMTについて考察をさせて頂く。脳卒中患者に対するMTに関しては,2009年脳卒中ガイドラインにも記載されていない比較的新しい治療戦略であるが,2012年にはCochrane Libraryのシステマティックレビューに,MTを通常のリハに追加することで運動機能の改善やADLの改善が得られることが報告されている。また,fMRIや経頭蓋磁気刺激法(Transcranial Magnetic Stimulation TMS)などの神経生理学的検査手法を用いたMTの効果発現機序の検討において,鏡の後ろに置かれた不動肢の対側一次運動野を含む皮質脊髄路の活性化が報告されている。しかしこれらの先行研究は,脳機能は脳機能だけを,運動機能は運動機能だけを検討したものであり,MTにおける脳機能変化と運動機能変化がどのように関係しているかを示唆する先行研究は報告されていなかった。そこで,MTによる介入前後の運動機能変化を検討すると共に,TMSを用いて脳機能変化も同時に検討した我々の研究を紹介したい。また脳梁に限局した障害(梗塞または出血)を有し,脳梁離断徴候が出現している患者に対してMTを実施した結果からもMTの神経生理学的機序に関する考察を加えていきたい。更に,これらの研究結果から今後の臨床応用の可能性を提案していきたいと考えている。
前述の通り,神経科学研究は注目されている領域であるとともに,リハビリテーション研究と非常に相性の良い領域であると感じる。そして神経科学の発展に伴い,今までわからなかったことが少しずつ分かるようになってきたことで,理学療法領域においても少しずつ科学的根拠が蓄積されてきている。しかし再生医療やBMIといった技術革新が近い将来起こることは必然であり,理学療法の立場も大きく変わっていくことが予想される。誤解を恐れずに言えば,患者にとっては「良くなる」という結果が重要であり,そのプロセスは重要なことではない。先達が築いてきた理学療法という領域をブラッシュアップしていくためにも,もっと危機感を持って戦略的に科学的証明を行っていく必要性を強く感じている。一方,神経科学に関する最新の報告は非常に興味深いものが多いが,それらの知見が単純に臨床に直結するというわけではない。神経科学の利用とは本来,臨床における考察のためのひとつの道具であるべきであり,臨床応用として治療法が確立するのはエビデンスが確立した後であると考える。近年インパクトファクターという指標が非常に重要視され,科学的根拠の強さと等価で語られることが増えている。我々も選べるなら高いものがほしいが,それ以上に臨床に少しでも還元できる研究を継続して行っていきたいと強がりではなく考えている。