[2033] 視覚運動課題の反復練習が大脳皮質情報処理過程に及ぼす影響
ヒトの運動・感覚能力や認知機能を評価する方法として,聴覚や視覚といった外部刺激に応じて運動を行う反応課題が広く用いられている。反応課題は外部刺激提示から運動開始までの反応時間によって評価され,この反応時間はPremotor time(外部刺激提示から筋活動開始まで)と電気力学的遅延(筋活動開始から関節運動開始)によって構成される。先行研究において,Premotor timeは外部情報の認知や運動の選択といった大脳における外部情報の処理過程を反映し,この情報処理過程には頭頂連合野(Posterior parietal cortex;PPC)や運動前野が強く関与していることが報告されている。PPCは外部感覚情報入力から運動遂行に至る過程で重要な役割を担っていることが報告されているが(Beurze et al., 2010, Iacoboni and Zaidel, 2004, 1997, Kida et al., 2006),これまでヒトを対象にして視覚反応課題を行った研究では時間分解能に限界のあるPETやfMRIを使用して大脳皮質活動を観察したものが多く,大脳皮質の経時的な活動を調査したものは少ない。そこで著者らは時間分解能と空間分解能に優れる脳磁図を用いて,ヒトの視覚反応課題時の大脳皮質情報処理過程の経時的変化と視覚反応課題の運動練習が大脳皮質情報処理過程に及ぼす影響を調査したので報告する。
視覚反応課題には,「運動」と「安静」を視覚刺激に応じて選択するGo/NoGo課題を用いた。Go刺激後に行う「運動」では右示指伸展運動を行い,初期計測において反応時間および脳磁界計測を行った。初期計測後,3日間に渡るGo/NoGo課題の運動練習を行い,再計測では初期計測と同様に反応時間および脳磁界計測を行い運動練習による大脳皮質情報処理過程の変化を調査した。その結果,運動練習前後ともにGo刺激時においてのみPPCの活動を観察することができたが,NoGo刺激時にはPPCの活動は観察されなかった。また,3日間の運動練習によって電気力学的遅延に変化は認められなかったものの,Premotor timeの有意な短縮が認められ,それに伴いPPCの活動潜時も短縮する結果が得られた。
PPCは,前方は一次体性感覚野と接しており,その前部にある中心溝を挟んで一次運動野をはじめとする運動関連領野,後部においては後頭葉の視覚野に接しているため,感覚野および視覚野と密接な連絡があることが解剖学的に知られている(Cavada, 2001, Petrides and Pandya, 1984)。またPPCは運動前野と密接な連絡があり視覚情報を運動企画へと変換する機能を持つとされ,視覚情報が伝達されてから運動実行に至る過程で重要な役割を担っているとされ(Andersen et al., 1997),視覚情報を契機とした運動時にPPCが関係していることが報告されている(Amino et al., 2001)。Shibata and Ioannides(2001)はGo/NoGo課題中の大脳皮質活動を計測し,Go刺激後に運動側と反対側のPPC(特にsuperior parietal lobe(SPL))の活動が著明に観察され,NoGo刺激時には我々の結果と同様にPPCの活動は観察されなかったと報告している(Shibata and Ioannides, 2001)。従って,一次運動野や補足運動野,運動前野といった運動関連領野だけでなくPPCも運動時に強く関係し,特に運動開始前に活動することが考えられる。
Kida et al.,(2005)は著者らが行った課題と同様のGo/NoGo課題を用い,長期的に練習を積んでいる野球選手と運動習慣のない成人男性の反応時間を計測し,長期的に練習を積んだ野球選手ではGo刺激時の反応時間が有意に短縮していることを報告している。この理由として,長期的な練習は特定の外的刺激に対する意思決定能力と,運動を司る中枢神経系における改善がみられるために,反応時間の短縮が生じるとしている。また,Hihara et al.,(2006)はサルに手で使用する道具を3週間練習させた際の,PPCの神経細胞の変化を調査した研究では,練習後にPPCにおける視覚情報への反応特性に変化が生じたことを報告している(Hihara et al., 2006)。本研究においては,3日間における視覚反応課題の運動練習によりPPCにおいて可塑的変化が生じたことが考えられ,それに伴いPPCの活動潜時が短縮しPremotor timeに短縮が見られたと考えられる。以上のことから,運動練習によりPPCにおける視覚情報の処理・統合と視覚刺激への反応に変化が生じたことが示唆され,運動練習が外部刺激の提示から運動遂行に至る過程における大脳皮質情報処理過程に与える影響を明らかにすることができた。
視覚反応課題には,「運動」と「安静」を視覚刺激に応じて選択するGo/NoGo課題を用いた。Go刺激後に行う「運動」では右示指伸展運動を行い,初期計測において反応時間および脳磁界計測を行った。初期計測後,3日間に渡るGo/NoGo課題の運動練習を行い,再計測では初期計測と同様に反応時間および脳磁界計測を行い運動練習による大脳皮質情報処理過程の変化を調査した。その結果,運動練習前後ともにGo刺激時においてのみPPCの活動を観察することができたが,NoGo刺激時にはPPCの活動は観察されなかった。また,3日間の運動練習によって電気力学的遅延に変化は認められなかったものの,Premotor timeの有意な短縮が認められ,それに伴いPPCの活動潜時も短縮する結果が得られた。
PPCは,前方は一次体性感覚野と接しており,その前部にある中心溝を挟んで一次運動野をはじめとする運動関連領野,後部においては後頭葉の視覚野に接しているため,感覚野および視覚野と密接な連絡があることが解剖学的に知られている(Cavada, 2001, Petrides and Pandya, 1984)。またPPCは運動前野と密接な連絡があり視覚情報を運動企画へと変換する機能を持つとされ,視覚情報が伝達されてから運動実行に至る過程で重要な役割を担っているとされ(Andersen et al., 1997),視覚情報を契機とした運動時にPPCが関係していることが報告されている(Amino et al., 2001)。Shibata and Ioannides(2001)はGo/NoGo課題中の大脳皮質活動を計測し,Go刺激後に運動側と反対側のPPC(特にsuperior parietal lobe(SPL))の活動が著明に観察され,NoGo刺激時には我々の結果と同様にPPCの活動は観察されなかったと報告している(Shibata and Ioannides, 2001)。従って,一次運動野や補足運動野,運動前野といった運動関連領野だけでなくPPCも運動時に強く関係し,特に運動開始前に活動することが考えられる。
Kida et al.,(2005)は著者らが行った課題と同様のGo/NoGo課題を用い,長期的に練習を積んでいる野球選手と運動習慣のない成人男性の反応時間を計測し,長期的に練習を積んだ野球選手ではGo刺激時の反応時間が有意に短縮していることを報告している。この理由として,長期的な練習は特定の外的刺激に対する意思決定能力と,運動を司る中枢神経系における改善がみられるために,反応時間の短縮が生じるとしている。また,Hihara et al.,(2006)はサルに手で使用する道具を3週間練習させた際の,PPCの神経細胞の変化を調査した研究では,練習後にPPCにおける視覚情報への反応特性に変化が生じたことを報告している(Hihara et al., 2006)。本研究においては,3日間における視覚反応課題の運動練習によりPPCにおいて可塑的変化が生じたことが考えられ,それに伴いPPCの活動潜時が短縮しPremotor timeに短縮が見られたと考えられる。以上のことから,運動練習によりPPCにおける視覚情報の処理・統合と視覚刺激への反応に変化が生じたことが示唆され,運動練習が外部刺激の提示から運動遂行に至る過程における大脳皮質情報処理過程に与える影響を明らかにすることができた。