第49回日本理学療法学術大会

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専門領域研究部会 神経理学療法 » 神経理学療法 シンポジウム

病期別にみた脳卒中片麻痺者の歩行改善に向けて―急性期・回復期・生活期から―

Sun. Jun 1, 2014 11:55 AM - 1:15 PM 第13会場 (5F 503)

司会:髙村浩司(健康科学大学理学療法学科)

専門領域 神経

[2037] 急性期から

斎藤均 (横浜市立脳血管医療センターリハビリテーション部)

【はじめに】
脳卒中治療ガイドライン2009では,座位・立位,装具を用いた歩行練習といった内容で,できるだけ早期からの積極的リハビリテーションを行うこと,また,理学診療ガイドライン・脳卒中では,早期理学療法,早期歩行練習,装具療法がグレードAで推奨されている。
早期からのリハビリテーションは,廃用症候群を予防し,早期のADL向上と社会復帰を図ることが目標になるが,その中でも,“出来る”“出来ない”だけでなく,質の部分について考える必要がある。力学的にも,脳にとっても負担が少なく,その患者さんにとって努力の少ない,最も効率的な動きを求めること,そのことが歩行の改善につながっていくと考える。
【歩行改善のために】
歩行は,いったん開始されると,四肢の動きを意識することはない。脊髄Central Pattern Generator(以下CPG)は,大脳皮質や脳幹からの入力と,荷重の情報・股関節伸展といった末梢からの感覚フィードバックによって,働きが調整されている。CPGを駆動・維持する末梢からの感覚フィードバックを得るためには,非麻痺側下肢を一歩踏み出すことを可能にする強い麻痺側下肢が必要である。そのためには,二足直立で立てることが求められ,その上で,体幹直立を保ったまま重心を動かせるための姿勢制御が必要となり,これには両上肢(肩甲帯)の参加も不可欠である。これらのことを実現するために急性期の臥位,座位,立位や,その姿勢変換のプロセスにおいても,姿勢制御に配慮した運動を経験,学習していく必要がある。
【急性期の取り組み】
片麻痺患者は,突然の発症により,身体片側からの情報が失われ,思うように動けないことで自分の姿勢がどういう状態かわからなくなっている。身体図式は,姿勢制御における基本的な枠組みを提供しているため,皮膚,筋,関節などからの様々な感覚入力により身体図式を再建していくことが大切である。以下に急性期での運動療法の取り組みを示す。
安静臥床を強いられる時期から,姿勢制御に配慮して介入する。背臥位で左右対称的な姿勢にしていくが,その際には,下肢側から見たときに,左右対称な立位姿勢を想定する。このためには,麻痺側肩甲帯,上肢がBase Of Supportになっていること,骨盤が中間位にあることが重要で,必要に応じて適宜,麻痺側をタオル等でポジショニングする。
背臥位の姿勢から,麻痺側下肢を膝立て位にし,足底をベッドにつけ,“地に足がついている”感覚を入力する。この状態から臀部挙上などを通じて,非麻痺側の過剰な活動をコントロールしながら,麻痺側股関節周囲筋の活動を促す。また,左右の寝返り,起き上がりを通じて,骨盤の動きや,正中を経験してもらう。座位姿勢は,左右対称で,体幹が直立であり,そこから骨盤を動かすことができ,両足底がついた姿勢が望ましい。24時間の中で,セラピストが関われる時間はわずかなので,車椅子での食事の際には,両足が床面についていることなども,他職種と協力しながら進めている。起立着座は,手すりを引く動作で立つのではなく,骨盤の前後傾と,足関節背屈を伴った,麻痺側の踵がついた対称的な動作が望ましい。立位は,膝の伸展を意識しなくても立っていられること,股関節戦略による立位ではなく,足関節戦略による二足直立位を促していき,ここから,ステップ練習,歩行へとつなげていく。これらのことを実現するために,hands onでセラピストが手で触れて,on lineで筋収縮を確認しながら,筋活動を促して行く。患者一人ひとり,病態や,病前の機能は異なるため,個別に,テーラーメイドの介入が求められる。急性期からの,これらの取り組みの全てが,歩行の改善につながると考える。
【装具の使用】
装具の使用は,特に急性期の脳の可塑的変化が著しい時期では,装具を装着しないと歩けないという状態を目標にするのではなく,下肢の支持性を補い,荷重の情報を伝える,セラピストの第3の手として,患者の下肢機能の改善を求めていくことを目的にしている。急性期の支持性の弱い下肢で歩行練習を行う際,近年,底屈制動付き長下肢装具の有効性が報告されている。装着すれば良いというのではなく,使用する側のスキルも重要である。特に,体幹の直立,股関節の伸展を促すように介入することが重要である。三次元動作解析装置で見ると,床反力ベクトルと関節の位置関係も大切である。特に,荷重応答期に床反力ベクトルが股関節に対し後方を通るような関係になると,股関節伸展筋力が働かず,患者が自分自身の力で支える練習になりにくい。臨床場面では,装具の中で,下肢のアライメントが保たれているか,目的の筋活動は促されているか,患者さんに触れて,検証していくことが大切である。
脳は,使用依存性に可塑的に変化(use-dependent plasticity)していく。初めに経験したことは,その後,何回も繰り返されるので,急性期の関わりは,回復期,維持期への基盤として,非常に重要となると考える。