第49回日本理学療法学術大会

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専門領域研究部会 運動器理学療法 » 骨関節教育講演

運動器理学療法の臨床研究法【臨床エビデンスの蓄積】

Sat. May 31, 2014 9:30 AM - 10:30 AM 第11会場 (5F 501)

司会:金村尚彦(埼玉県立大学保健医療福祉学部理学療法学科), 森山英樹(神戸大学大学院保健学研究科リハビリテーション科学領域)

専門領域 運動器

[2041] 診療報酬の適正評価に向けた運動器理学療法の研究戦略

田中亮 (広島国際大学総合リハビリテーション学部リハビリテーション学科)

厚生省は平成8年から根拠に基づく医療(EBM)の推進を国家的事業として位置づけている。それ以降,医療の現場ではエビデンスの重要性が指摘されるようになっている。EBMとは,個々の患者の臨床問題に対して,患者の意向,医療者の専門技能,臨床研究による実証報告(エビデンス),を統合して判断をくだし,最善の医療を提供する行動様式と定義される。理学療法の現場にあっては,EBMを推進することにより,最新かつ最適な情報に基づく治療法等を,全ての医療の現場で容易に活用できる効果が期待される。また,患者にとっても治療法等の拠り所となる科学的な根拠が明示されるため,自分の病気(疾患,外傷,そして障害)を十分に理解し,治療法等を選択することが可能となる。
エビデンスは,EBMの推進に必要であるばかりでない。エビデンスは,理学療法という医療技術に対する診療報酬の適正評価にも必要となる。医療技術は,中央社会保険医療協議会診療報酬調査専門組織の医療技術評価分科会によって評価される。ここでの評価結果が,医療技術にかかる診療報酬の増点や減点に関わってくる。評価される項目はあらかじめ決められており,有効性,安全性,技術的成熟度,倫理性・社会的妥当性,普及性,および既存の技術と比較した効率性と定められている。したがって,理学療法やリハビリテーション提供体制の充実を診療報酬の適正評価に結びつけるためには,それらがどのような対象に提供され,どのような効果があるか,普及し得るものか,技術はどの程度成熟しているのか,医療費にどのような影響があるのか,について科学的に検証されていることが求められる。
診療報酬改定における医療技術の評価にあたっては,医療技術評価・再評価提案書の記載が求められる。評価項目の1つである有効性を記載する欄には,提案の根拠となる情報のエビデンスレベルの選択肢が設けられている。エビデンスレベルはIからVIまで定義されており,最高レベルのIは,システマティックレビューやメタアナリシスによって得られた情報である。システマティックレビューとは,明確に定式化された疑問について,関連する研究の検索,選択して内容を批判的に吟味し,選択した研究からデータを集めて解析する,系統的で明確な方法を用いるレビューと定義される。一方,メタアナリシスとは,複数の臨床研究データを単純に平均するのではなく,データのばらつきの度合いで重みづけしてからデータを統合する統計学的手法である。診療報酬の増点を提案するためには,システマティックレビューやメタアナリシスによって得られた情報を根拠とすることが望ましいということになる。
また,医療技術評価・再評価提案書の記載には,学会のガイドライン等の情報も求められる。(公社)日本理学療法士協会は2011年に理学療法診療ガイドライン第1版(以下,ガイドライン)を作成している。ガイドラインには,運動器理学療法の対象となる疾患として,背部痛,腰椎椎間板ヘルニア,膝前十字靭帯損傷,肩関節周囲炎,変形性膝関節症が含まれている。こういった疾患に対する理学療法やその提供体制の充実と,それにかかる診療報酬の適正評価を提案するためには,提案を裏づける臨床研究が必要となる。システマティックレビューやメタアナリシスだけでなく,エビデンスレベルの高い研究デザインであるランダム化比較試験,非ランダム化比較試験,分析疫学的研究(コホート研究や症例対照研究)が増え,その結果がガイドラインに取り込まれていけば,診療報酬の適正評価に繋がる。そのためにも,研究方法を洗練し,データ数を増やし,臨床エビデンスを蓄積しておくことは重要である。
医療技術の普及性は,ガイドラインの認知度と関わってくる。安全で効果的な理学療法を普及させるためには,それらが記載されたガイドラインの活用を促進させるシステムが必要となる。現在,演者はガイドラインの内容をデータベース化し,Web上でエビデンスを検索できるシステムを試作している。このシステムは,PICOに準じて臨床問題を作成して検索すると,レベルの高いエビデンスとその出典情報を得られるように設計されている。臨床問題とは,例えば,Patient:変形性膝関節症罹患者に対して,Intervention:筋力増強運動を行った場合,Comparison:何も行わなかった場合と比べて,Outcome:疼痛は軽減するか?といった内容である。このシステムは,臨床問題の回答にあたるエビデンスをガイドラインから見つけだすことを容易にする。このシステムは,将来的には携帯端末やスマートフォンを使って活用できるよう洗練される予定である。
エビデンスレベルの高い研究デザインを用いた理学療法の臨床研究は着実に増加している。今後は,理学療法の有効性,安全性,および費用対効果に関するエビデンスを蓄積し,エビデンスをガイドラインに反映させ,ガイドラインを臨床現場に普及させる仕組みが必要となる。いかなる医療技術や専門職であれ,臨床エビデンスの蓄積なしでは,EBMの推進や診療報酬の適正評価はありえない。