第49回日本理学療法学術大会

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専門領域研究部会 運動器理学療法 » 骨関節シンポジウム

運動器理学療法 クリニカルリーズニングに基づく症例検討 クリニカルリーズニングに基づき,どのように症例を評価し理学療法を実践しているのかディスカッションを含めた検討を行う

Sat. May 31, 2014 10:40 AM - 12:10 PM 第11会場 (5F 501)

司会:木藤伸宏(広島国際大学保健医療学部総合リハビリテーション学科理学療法学専攻), 常盤直孝(川越整形外科)

専門領域 運動器

[2043] 運動器理学療法 クリニカルリーズニングに基づく症例検討 クリニカルリーズニングに基づき,どのように症例を評価し理学療法を実践しているのかディスカッションを含めた検討を行う

第48回日本理学療法学術大会にて,新潟医療福祉大学の亀尾徹先生よりクリニカルリーズニングと今村病院分院の白尾康宏先生よりクリニカルリーズニングに基づく理学療法の捉え方について講演していただいた。また,玉利光太郎先生より,理学療法診断学構築への意義ということで講演していただき,それぞれの講演を結びつけると理学療法診断学とクリニカルリーズニングは目の前に患者に対して,理学療法が適応なのか否か,どのような行動が最も患者にとって有益なのかを決定するうえで欠くことが出来ない学問であり,かつ思考技術である。多くの理学療法士と患者は,理学療法をすれば状態は良くなる,もしくは維持されるという思い込みがある。それゆえに,患者さんが快方に向かわなければ,なぜ効果が出ないのか,なぜ患者さんは良くならないのか悩み苦しむ。そこで打開策として,何かの治療概念や技術を,まるで青い鳥を探すように探し続ける旅を始める。そして,いつの間にか患者さんのことを考えることを忘れ,治療概念や治療技術の習得だけに飽き足らず,小さな世界における階級や資格(国家資格ではなく,団体が定める資格)における求道者となるのが現状の大きな問題であろう。この悪循環は理学療法士が真面目に患者さんに向き合っているからこそ生じると思っている。今,中堅やベテラン理学療法士は悩める若い理学療法士の先生たちに,悩んだときに戻るべく場所(学問,思考,哲学など)を提示することが必要なのではないか。
理学療法は訓練ではなく,運動機能障害に対する唯一の治療方法である。その運動機能障害は病態や疾患のみが関与するのではなく,生物学的要因,心理学的要因,環境学的要因が複雑に絡み合い出現する。また,患者の症状についても病態や疾患のみから説明できることは少なく,運動機能障害と生物学的要因,心理学的要因,環境学的要因が複雑に絡み合って出現する。以上の事より理学療法士は患者を生物・心理・社会モデルという観点で捉える努力をすることが必要である。臨床では患者の主訴やニーズが何なのかを明らかにし,それに関わる生物学的要因,心理的要因,社会的要因などを把握するための検査・測定を用い評価する。生物学的問題とは,単に運動器に関わる問題のみではなく,内科的問題や神経系,免疫系なども含めて検討する必要がある。多くの要因と患者の徴候や症候,既往などとを比較・検討し,病理的問題が重要なのか,運動機能的問題が重要なのか,それとも他の要因が問題なのか,それがどのように関係しているのか検証する必要がある。様々な視点から検討され,抽出された問題点をパラレルに比較し,問題点に対し優先順位をつけ,そのひとつひとつの問題に対して適切な治療を行い,治療効果を検証しながら不足する考えや情報を適宜修正,補足しながら治療を進めていかなければならない。知識が不足していれば限られた知識の中でしか対応できないが,知識が十分にあれば患者に十分な対応が出来るわけではない。必要な知識を必要な時に絶妙なタイミングで想起することが肝要であり,そのためには常に患者をしっかり観察し患者の変化を見抜く洞察力を持つ必要がある。つまり,患者の中にある真実を見抜くために偏った思考に寄らず,患者の変化に対して常に敏感に思考することが重要である。
理学療法育成が大学教育課程で行われ,大学院に進学する理学療法士の数も増えたことにより,学術大会の内容もより学術的な内容へと変化した。しかし,いつのまにか症例報告が少なくなり,臨床に直結した発表も少なくなっているのは残念な思いがある。今迄のように,このような患者に○○を行いました。その結果,このような効果が得られました。その考察は,かなり飛躍しているという今までの症例報告は時代に即さないであろう。いま時代が求めている症例報告は,理学療法診断学を構築するうえでエビデンスとなりうる報告やクリニカルリーズニングを基本とした症例報告である。
臨床においてクリニカルリーズニングは,患者をゴールに導いていくうえで必要不可欠な思考技術である。この場合のゴールとは,患者自身の価値観に基づいたものでなければならない。大学教育の普及や様々な学術活動の活発化,研修会の開催,インターネットの普及などにより,提供される知識や技術は飛躍的に増え,私たちはいつでも自分に必要な情報を手に入れることができる時代になった。しかし,それに伴って患者の治療効率が向上しているかといえば,診療報酬が改訂される度に減額されるという事実に表れているように,社会から受け入れられているとは言い難い。理学療法は科学的根拠に基づいて提供されるべきである。理学療法士は技術者であり,科学を効率的に患者に反映させることによって治療を行う職人(エキスパート)でなければならない。学術的に信頼度の高い情報が必ずしも目の前の患者に適応できるかといえば現実はそうではない。患者の身体にどのような問題が起きているかを判断するのは,そこに関わっている理学療法士自身が,自分の思考で判断しなければならない。臨床は,思考と認知と判断の連続であり,これを効果的に治療に反映させてこそ,患者の治療を安全で効果的に導いていくことが出来るのである。患者にとっては,メタ認知(自分自身への内省)ができない治療者に出くわしたときが,最も悲惨な悲劇の始まりであるという先哲者の言葉を常に肝に銘じる必要がある。また,科学的事実を積み重ね,臨床的事実を可視化していくことが肝要なことであり,社会に受け入れられるためにも重要なことである。一方であまりにも科学に偏重しすぎていては治療の対象や目的が抽象的になってしまう。私たちは常に患者に寄り添う専門家であることを忘れてはならない。
本シンポジウムは,臨床で日々研鑽している若手の理学療法士である,福岡志恩病院の多々良大輔先生,かわしまクリニックの徳田一貫先生,成尾整形外科病院の城内若菜先生にクリニカルリーズニングに基づいた臨床理学療法の実践について症例を通して報告していただく。それを踏まえ,会場の先生方と意見交換や議論を進めていくように進行する。このシンポジウムを通して,悩める若い先生方が求めている青い鳥は,実はクリニカルリーズニングという思考技術であり,この習得は治療概念や治療技術の学習の前に患者さんの問題発見・問題解決には欠くことが出来ないということを認識していただければ幸いである。