第49回日本理学療法学術大会

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専門領域研究部会 内部障害理学療法 » 内部障害理学療法 特別講演

特別講演Ⅰ

Sun. Jun 1, 2014 9:30 AM - 10:30 AM 第5会場 (3F 303)

司会:高橋仁美(市立秋田総合病院リハビリテーション科)

専門領域 内部障害

[2056] 呼吸器診療に携わる理学療法士への今後の期待:呼吸器内科医の立場から

塩谷隆信 (秋田大学大学院医学系研究科保健学専攻理学療法学講座)

近年,呼吸リハビリテーション(呼吸リハビリ)は,慢性呼吸不全の治療・管理において非常に重要な役割を演じている。慢性閉塞性疾患(COPD)の国際ガイドラインであるGOLDガイドライン,米国胸部疾患学会(ATS)/欧州呼吸器学会(ERS)ステートメント,日本のCOPD診断と治療ガイドライン(第4版)においても,呼吸リハビリの重要性が大きく強調されている。呼吸リハビリがEBMを基にして大きく普及したのは,1997年のACCP/AACVPRのガイドラインが刊行されてからであり,本ガイドラインはその後,2007年に改訂された。さらに,上述のATS/ERSステートメントが2013年10月に改訂され,今日に至っている。
歴史的にみると,欧米において呼吸リハビリが本格的に開始されたのは1960年始め頃であるとされる。呼吸リハビリは,日本においても比較的早く導入され,1960年の中頃に,北九州労災病院内科の津田稔医師らにより,肺気腫と塵肺患者において多くの種目が実施されている。当時,行なわれた内容をみると,呼吸運動はレスピトレースを用い評価され,呼吸筋ストレッチ体操,運動療法,作業療法が行なわれ,近年の呼吸リハビリ・プログラムとほぼ同様の内容である。文献記録には,呼吸リハビリに関与する職種として,理療師と職能師という記載があり,それぞれ現代の理学療法士,作業療法士に相当するものと考えられる。
最新のATS/ERSステートメント2013の中で,「呼吸リハビリは,徹底した患者のアセスメントに基づいた包括的な医療介入に引き続いて,運動療法,教育,行動変容だけではなく,慢性呼吸器疾患患者の精神心理的な状況を改善し,長期の健康増進に対する行動のアドヒアランスを促進するために,患者個々の必要性に応じた治療が行なわれるものである」と定義されている。呼吸リハビリは,患者評価にはじまり,患者・家族教育,薬物療法,酸素療法,理学療法,作業療法,運動療法,身体活動などの種目をすべて含んだ包括的な医療プログラムによって行われる。医療チームの構成は,医師,看護師,理学療法士,作業療法士,呼吸療法士,栄養士,薬剤師,酸素機器業者,ソーシャルワーカー,心理療法士,介護士,言語聴覚士,臨床工学技士などすべての医療職種であり,必要に応じて患者を支援する家族やボランティアも参加する。このような学際的医療チームの中では,チームコンセプトの統一やプログラムの方向付けにかかわるディレクター,スタッフ間の連携,情報の共有,プログラムの調整を行うコーディネーターとしての役割が求められている。学際的多職種医療チームの中で,理学療法士は看護師とともにコーディネーターとしての役割が大きく期待されている。
理学療法士がその中心的役割を担うものとして,運動療法と呼吸理学療法がある。その中で,呼吸理学療法は,リラクセーション,呼吸ストレッチ体操,呼吸訓練,呼吸介助,胸郭可動域運動,排痰法などにより構成される。重症COPDでは,呼吸運動パターンの異常,筋・関節の柔軟性の低下,筋力低下,姿勢の異常が認められるため,これらの改善を目的としてリラクセーション,呼吸訓練,ストレッチ体操,呼吸介助が中心として行なわれる。これらの種目は,効率のよい運動療法を行うためのコンディショニングとして位置づけられている。COPDに対する主な呼吸訓練には,口すぼめ呼吸と横隔膜呼吸(腹式呼吸)がある。呼吸法を習得したら,歩行,階段昇降,入浴,洗髪などの日常一般的なADL場面において実際に実施できるように指導することが大切である。
近年,運動療法,呼吸理学療法の分野においてその進歩は著しいために実施される各種目とその内容に関してもEBMに基づいたものが求められている。しかしながら,臨床現場においては,まだまだ経験的あるいは伝統的な事項に基づいて実施されていることが多く,現在,それらに関しても科学的検証が必要とされている。実際,低強度運動療法や在宅リハビリの効果,呼吸リハビリによる日常生活における身体活動量の改善に関しては早急な検討が必要である。さらに,COPD以外の呼吸器疾患における有用な呼吸リハビリ・プログラムの構築も急務である。
呼吸リハビリの目標は,慢性呼吸器疾患患者の身体活動の向上とみなされ,この目標の達成が現在の大きな課題のひとつである。身体活動の向上には身体活動の客観的評価方法の確立が必要であり,さらに,こうした目標達成のためには,単なる運動療法の実施のみならず,アクションプラン,教育,患者自身の行動変容,身体活動を向上させる新規運動療法の策定など,今後,解決しなければならない課題が山積している。このような状況の中で理学療法士に求められているものは非常に多いと考えられる。また,上述の国際学会であるATS/ERSにおける日本からの参加,発表がまだまだ少ないように思われる。日本で実施されている呼吸リハビリは世界にアピールできるものも多い。若い理学療法士は世界的視点で呼吸リハビリに取り組み,常に海外に向けて情報を積極的に発信して欲しいと思う。
本講演では,呼吸リハビリの歴史,呼吸リハビリの進歩,呼吸リハビリの展望,今後取り組むべき課題などについて,理学療法士への大いなる期待を込めて,紹介する予定である。