[2058] 急性期
平成26年の診療報酬改定要綱では,リハビリテーション領域の改定事項として,「早期リハビリテーションの充実」が1番目に謳われている。その中でも「急性期病棟における入院中のADL低下の防止」が重要課題として挙げられており,本邦においてもようやく急性期リハビリテーションの必要性が認められ,特に呼吸・循環器障害に携わる理学療法士の果たすべき役割が高まることが予想されるのと同時に,その結果が求められる時代となっている。しかしながら,特に呼吸理学療法の分野では,どのような対象者に対して,どのように,どの程度介入すれば効果が認められるかについては,まだ模索の段階であり,明確に示されていないのが現状である。
急性期における呼吸リハビリテーションとは,単に呼吸理学療法技術を対象者に提供するものではなく,包括的にアプローチすることが原則であり,具体的な役割としては,適切なポジショニング・気道管理・early mobilizationが軸となる。欧米における急性期理学療法は,呼吸療法士の存在が大きいこともあり,early mobilizationを中心とした介入が主であるが,本邦ではそれに加えて気道管理を目的とした呼吸理学療法手技を提供する役割も担っている。したがって,疾患および障害の全体像を捉えて,包括的にリハビリテーションを進めるための知識と技術が要求される。
「息苦しいからしばらく安静にする。」「痛みが強いから安静にしておく。」という時代ではなく,循環動態が安定すれば可及的早期に段階的離床を進めるというのは,もはや理学療法の世界では周知のゴールドスタンダードであると思われる。段階的離床に携わる際,離床のステップアップで問題が発生し,段階的離床が進まない場合を仮定してみる。例えば「倦怠感が強いから起き上がれない」「呼吸苦が強いから座位がとれない」等の場面に向き合ったとする。その時,患者のその訴えのみを捉えて,「まだ息苦しいから起き上がれないですね。」「今日のリハビリは中止し,翌日に再度チャレンジしましょう。」という対応になってはいないだろうか。段階的離床が止まった場合,理学療法士は,対象患者の示す訴えや症状だけで実施,非実施を判断するだけでなく,その訴えや症状を示す要因を的確に評価し,阻害因子となっている機能障害を軽快または,取り除くことに努めなければならない。つまり,患者が表出する現象を多面的にとらえて,その奥に存在する問題項目を突きとめて,アプローチするという力が必要になる。そこには呼吸・循環に関する生理学,運動学,薬物に関する情報など様々な基礎医学の知識が要求されることになる。「動けない患者」に対して,理学療法士が持ち得る知識技術を駆使して「安全に動ける」ように導くことが急性期理学療法の基本的な考え方である。またその手段の一つが呼吸理学療法であると考える。
Schweickerは,集中治療室に入室し,人工呼吸器管理を施行された104名の患者を早期から理学療法介入を行うものと看護スタッフによるプライマリーケアのみを行うものに分け,臨床データの比較を行った結果,早期理学療法介入を行った群はせん妄持続期間が2日短く,人工呼吸装着期間も2.7日短かったという結果を報告している。さらには退院時のADLが自立レベルに回復したものの割合が,早期理学療法介入群で有意に高くなり,早期の介入が予後にも影響を与えることを報告している。京都大学では,肺癌切除手術患者に対する理学療法の周術期介入の効果検証を実施した。術前から患者指導,呼吸練習を実施し,術翌日からポジショニング,気道管理,離床を実施することにより,術後の呼吸器合併症発症率が,介入前約20%から約2.4%まで低下し,平均術後在院日数も介入前23.5日から12.1日に大幅に短縮された。また他の胸部外科手術症例を対象とした同様の検証でも同じような効果が明らかとなっている。このように様々な対象者に対して早期からの呼吸理学療法の導入は効果があることが実証されてきたが,今後は専門職として,その方法論について確立し,検証していかなければならないと考える。先述した段階的離床の開始基準,進行基準,中止基準については理学療法士だけでなく,各施設で設定し,医師,看護師,栄養士,薬剤師などのスタッフと連携して,チームで急性期医療を進めていかなければならないと考えるが,その中で理学療法士という専門職がどのような急性期医療を提供できるかについて,具体的な方法論を掲げなければいけないと考える。京都大学では,COPD,間質性肺炎の急性増悪時,胸部外科手術症例を中心に可及的早期に理学療法介入を実施し,「早く歩かせる」ことを目標に様々な手段を用い,その効果を検証しているところである。肺移植手術後患者を対象とした脊柱起立筋の術後筋萎縮に関する調査では,超早期からの理学療法を実施しているのにも関わらず,1日当たり0.68%の筋断面積の減少を認めた。これは,20日間の完全bed rest研究の結果,1日当たりの減少率が0.5%であったと報告しているKuboらの研究と比較すると,同等かそれ以上に悪い結果となっている。肺移植術後症例では単純に安静にしているから筋萎縮が進むのではなく,手術侵襲,呼吸循環動態,薬物,栄養状態が関与していることが示唆されるが,単純に離床を進めるだけでは解決されない問題も存在し,症例に応じた呼吸理学療法の介入手段の確立が必要であると考える。本シンポジウムでは,急性期介入の方法論を中心に急性期呼吸理学療法の実践的役割について論じたい。
急性期における呼吸リハビリテーションとは,単に呼吸理学療法技術を対象者に提供するものではなく,包括的にアプローチすることが原則であり,具体的な役割としては,適切なポジショニング・気道管理・early mobilizationが軸となる。欧米における急性期理学療法は,呼吸療法士の存在が大きいこともあり,early mobilizationを中心とした介入が主であるが,本邦ではそれに加えて気道管理を目的とした呼吸理学療法手技を提供する役割も担っている。したがって,疾患および障害の全体像を捉えて,包括的にリハビリテーションを進めるための知識と技術が要求される。
「息苦しいからしばらく安静にする。」「痛みが強いから安静にしておく。」という時代ではなく,循環動態が安定すれば可及的早期に段階的離床を進めるというのは,もはや理学療法の世界では周知のゴールドスタンダードであると思われる。段階的離床に携わる際,離床のステップアップで問題が発生し,段階的離床が進まない場合を仮定してみる。例えば「倦怠感が強いから起き上がれない」「呼吸苦が強いから座位がとれない」等の場面に向き合ったとする。その時,患者のその訴えのみを捉えて,「まだ息苦しいから起き上がれないですね。」「今日のリハビリは中止し,翌日に再度チャレンジしましょう。」という対応になってはいないだろうか。段階的離床が止まった場合,理学療法士は,対象患者の示す訴えや症状だけで実施,非実施を判断するだけでなく,その訴えや症状を示す要因を的確に評価し,阻害因子となっている機能障害を軽快または,取り除くことに努めなければならない。つまり,患者が表出する現象を多面的にとらえて,その奥に存在する問題項目を突きとめて,アプローチするという力が必要になる。そこには呼吸・循環に関する生理学,運動学,薬物に関する情報など様々な基礎医学の知識が要求されることになる。「動けない患者」に対して,理学療法士が持ち得る知識技術を駆使して「安全に動ける」ように導くことが急性期理学療法の基本的な考え方である。またその手段の一つが呼吸理学療法であると考える。
Schweickerは,集中治療室に入室し,人工呼吸器管理を施行された104名の患者を早期から理学療法介入を行うものと看護スタッフによるプライマリーケアのみを行うものに分け,臨床データの比較を行った結果,早期理学療法介入を行った群はせん妄持続期間が2日短く,人工呼吸装着期間も2.7日短かったという結果を報告している。さらには退院時のADLが自立レベルに回復したものの割合が,早期理学療法介入群で有意に高くなり,早期の介入が予後にも影響を与えることを報告している。京都大学では,肺癌切除手術患者に対する理学療法の周術期介入の効果検証を実施した。術前から患者指導,呼吸練習を実施し,術翌日からポジショニング,気道管理,離床を実施することにより,術後の呼吸器合併症発症率が,介入前約20%から約2.4%まで低下し,平均術後在院日数も介入前23.5日から12.1日に大幅に短縮された。また他の胸部外科手術症例を対象とした同様の検証でも同じような効果が明らかとなっている。このように様々な対象者に対して早期からの呼吸理学療法の導入は効果があることが実証されてきたが,今後は専門職として,その方法論について確立し,検証していかなければならないと考える。先述した段階的離床の開始基準,進行基準,中止基準については理学療法士だけでなく,各施設で設定し,医師,看護師,栄養士,薬剤師などのスタッフと連携して,チームで急性期医療を進めていかなければならないと考えるが,その中で理学療法士という専門職がどのような急性期医療を提供できるかについて,具体的な方法論を掲げなければいけないと考える。京都大学では,COPD,間質性肺炎の急性増悪時,胸部外科手術症例を中心に可及的早期に理学療法介入を実施し,「早く歩かせる」ことを目標に様々な手段を用い,その効果を検証しているところである。肺移植手術後患者を対象とした脊柱起立筋の術後筋萎縮に関する調査では,超早期からの理学療法を実施しているのにも関わらず,1日当たり0.68%の筋断面積の減少を認めた。これは,20日間の完全bed rest研究の結果,1日当たりの減少率が0.5%であったと報告しているKuboらの研究と比較すると,同等かそれ以上に悪い結果となっている。肺移植術後症例では単純に安静にしているから筋萎縮が進むのではなく,手術侵襲,呼吸循環動態,薬物,栄養状態が関与していることが示唆されるが,単純に離床を進めるだけでは解決されない問題も存在し,症例に応じた呼吸理学療法の介入手段の確立が必要であると考える。本シンポジウムでは,急性期介入の方法論を中心に急性期呼吸理学療法の実践的役割について論じたい。