第49回日本理学療法学術大会

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専門領域研究部会 物理療法 » 物理療法 シンポジウム(創傷管理)

褥瘡対策チームで発揮できる理学療法技術

Sat. May 31, 2014 2:50 PM - 4:20 PM 第8会場 (4F 411+412)

座長:日髙正巳(兵庫医療大学リハビリテーション学部理学療法学科)

専門領域 物理療法

[2067] 基礎研究から臨床応用へ―治療(down stream)には,予防(up stream)を考えて―

杉元雅晴 (神戸学院大学総合リハビリテーション学部)

1.はじめに
障害者の日常生活活動能力を向上させる時,褥瘡は運動の阻害因子となる。従来から,水治療法を中心に理学療法士が褥瘡の治療にかかわってきた。しかしながら,理学療法の治療手段が運動療法に偏重したため,物理療法による取組みが少なくなり,褥瘡治療を他の医療職種にゆだねるようになった。最近になり,理学療法士が褥瘡予防と治療に再びかかわり始めた。そこで,「褥瘡対策チームで発揮できる理学療法技術」を予防と治療の両面から考える重要性について紹介する。
2.基礎研究から臨床応用へ
私達が研究してきた成果が認められ,「褥瘡予防・管理ガイドライン2012」(日本褥瘡学会)に物理療法が取り上げられた。従来から超音波療法に対する効果が期待されていたが,十分な効果が確認されていなかった。そこで,治癒効果を不安定にしていた原因を解明し,臨床研究を実施することにより,効果が確定された。そのことにより,超音波療法の最適照射刺激条件を提案するにいたった。その研究論文はガイドラインの構造化抄録に採用された。また,推奨度の高い電気刺激療法では,①肉芽の基盤となる線維芽細胞の遊走を促進する②線維芽細胞の増殖を促進する③創を収縮させる筋線維芽細胞への分化を促進する。これからも,最適電気刺激条件を提示できるよう研究を継続していきたい。
基礎研究の結果をヒトに適用する時に,トランスレーション・リサーチ(translational research)の重要性に気づかされた。臨床研究が先行しがちである理学療法をもう一度,病態生理学的視点から効果の意味付けを考えることが重要である。
3.褥瘡治療(down stream)開始する時には,同時に予防(up stream)を考えて
治療を開始する前に,褥瘡が起きた原因を明確にし,その障害の誘因を改善し,さらに慢性創傷を自然治癒過程に誘導する環境整備が重要である。臨床経験からすると,褥瘡を治癒機転に誘導するには,原因を無くするだけではなく,さらに良い創環境にしないと治癒しない。予防には,姿勢(static phase;臥位姿勢・座位姿勢)の調節により,圧迫・ずれを管理することが重要である。さらに,姿勢の管理だけではなく,動作時(dynamic phase)にも圧迫・ずれを最小限にすることが重要である。予防には,個人因子(褥瘡発生要因)を確認するためのリスク(褥瘡発生予測因子)評価が必要である。また,治療経過や治療の有効性を判断するための創面評価(DESIGN,DESIGN-R,創面積)も重要である。
4.おわりに
褥瘡患者の病態像を正しく理解する為に,定期的に褥瘡の状態を観察し,評価する必要がある。そのうえで,褥瘡予防と治療のプロセスの全体像を示したアルゴリズム(algorithm)に基づいて臨床実施計画を立案し,実践することが重要である。最適なタイミングでの予防や理学療法技術を吟味し,褥瘡患者に実施することは重要な「臨床での意志決定」(clinical decision making in physical therapy)である。