第49回日本理学療法学術大会

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専門領域研究部会 物理療法 » 物理療法 シンポジウム(創傷管理)

褥瘡対策チームで発揮できる理学療法技術

Sat. May 31, 2014 2:50 PM - 4:20 PM 第8会場 (4F 411+412)

座長:日髙正巳(兵庫医療大学リハビリテーション学部理学療法学科)

専門領域 物理療法

[2069] 褥瘡局所治療のための圧迫・ずれ対策

前重伯壮 (神戸大学大学院保健学研究科リハビリテーション科学領域)

1.はじめに
褥瘡により皮膚が破綻すると,細菌やウィルスが生体内に侵入する。また,切創等の急性創傷と異なり,細菌の温床となる壊死組織を形成すること,深部の組織が損傷されることから,不適切な管理は敗血症や骨髄炎の発生へとつながる。万が一褥瘡が発生してしまった場合,同じ生活を続けていると,褥瘡の悪化は止まらない。そのため,発生後すぐにその原因を追求し,取り除かねばならない。この悪化の予防(up stream)は褥瘡局所治療(down stream)が効果を発揮するための土台造りとなり,見逃せない取り組みである。

2.褥瘡発生リスクとアセスメント
褥瘡発生の危険性,および発生に関与した因子のスクリーニング評価として,各種リスクアセスメントツールの使用が提唱されている。ブレーデンスケール,OHスケール,K式スケール,厚生労働省提示の褥瘡危険因子評価表などがその代表例である。これらの評価によって,患者が有する危険因子を評価でき,改善すべき要因が明らかになる。低栄養を認めれば,栄養サポートを行い,関節拘縮を認めれば,関節可動域運動を行う。骨突出が観察されたら骨突出周囲の筋肥大が求められる。しかし,患者の疾患背景から,これらの身体的要因の改善は容易ではなく,これらは褥瘡発生の間接的要因であることが多い。褥瘡は圧迫やずれによる虚血で発生する潰瘍であることから,発生の直接的要因であり環境要因である「圧迫とずれ」を解消することが必要となり,その対応に理学療法の知識・技術が求められる。

3.圧迫とずれの評価と対応
1)問題点の抽出
はじめに,褥瘡発生部位に着目して,原因となった動作を推察する。坐骨部であれば座位保持上の問題が,仙骨部であれば臥位や頭側挙上位の問題が疑われる。その上で,患者の1日の生活様式をすべて確認する。そして,問題となっている動作,姿勢を再現し,圧迫やずれを評価する。圧力の評価としては,簡易体圧測定器や圧力分布測定装置を使用する。測定面積の小さい簡易体圧測定器を使用する場合には,測定前に摩擦低減加工がなされたグローブを使用して,強い接触部位を確認する必要がある。動作上の圧力分布の変化を評価するためには,シート状の圧力分布測定装置を使用するべきである。圧力測定により,問題のある姿勢が明らかになれば,その数値を患者,患者家族,その他介護者に伝え,次に圧力を減少させる姿勢,動作を提案する。

2)解決手段の検討
車椅子座位であれば,プッシュアップにより圧が減少することはもちろんのこと,アームレスト上に前腕部を位置させて肩甲骨の下制を行う動作や,フットレストにつながるフレームを握る,あるいは前方にテーブルを置いた状態で体幹を前傾することによっても十分坐骨部が減圧される。「これなら会議中にも静かに除圧ができる。」と喜ぶ脊髄損傷患者は多い。臥位姿勢管理であれば,側臥位角度を調整することで仙骨部,上後腸骨棘,大転子部の圧は容易に変化し,除圧できる。さらに,股関節の外旋位を防ぎ,正中位に保持することによって大転子部の圧が変化することが報告されているため(吉川義之,他。褥瘡会誌。2013),その管理も重要である。また,真皮より深い大転子部褥瘡では,大転子の位置変化によって褥瘡周囲の健常皮膚と褥瘡の創底にずれが生じ,ポケットを形成する。ポケットは褥瘡治癒の阻害因子であるため,不用意な股関節運動,特に股関節内・外旋運動は避ける必要がある。
外力によるずれの評価については,簡易式の測定器によりずれ力を評価することや,圧力分布測定器を用いて最大圧力部の変化からずれの存在をとらえることが可能である。また,接触部位に摩擦低減加工がなされたグローブを挿入した時に,体がグローブの上を滑って移動した場合には,接触部位に静止摩擦力が加わっていたことが推察される。ずれが生じる典型例として,ベッド上での頭側挙上があり,ここでは大腿近位部とベッドの間にクッションを挿入することや,背抜きによりずれを減少できる。車椅子上のずれ軽減方法としては,ティルト角度を増加させることや,アンカーサポート付きクッションを使用することがある。

3)外来患者への対応
入院患者であれば,上記のような問題を直接確認できるが,外来患者の場合には車椅子座位以外は実際場面の評価が難しく,その他の生活上の情報は患者あるいは患者家族から聴取することになる。すでに,発生に関与しうる問題を患者および患者家族が把握していることもあるが,問題となる行動に気づいていないことも多く,場合によっては気づいていても明言を避けていることもある。そのため,入浴方法,トイレの環境,屋内での移動方法,車の運転方法などについて,具体的に質問することが重要である。尾骨部に褥瘡を有する患者において,車椅子座位では褥瘡部の圧が低値であるものの一向に褥瘡が治癒しないことがある。このような時には,自宅の床で骨盤が後傾した姿勢を保持していることが多い。この場合,車椅子座位の推奨や,骨盤後傾位を防ぐ工夫,または床で使用するクッションの提案が必要となる。

4.おわりに
褥瘡の局所治療を行う際には,褥瘡の洗浄や局所評価を日々行うことから,褥瘡創面を観察する機会が増える。毛細血管とコラーゲンで構成される肉芽は繊細な組織であり,圧迫やずれの管理が不適切であると,出血,浮腫や白色化(不良肉芽),壊死組織を生じ,その表情を瞬時に変化させる。局所治療を行いながら,褥瘡の顔色を覗ってup streamの管理に満足しているか否かを確認することが首尾良い治療を可能にする。