[2072] I 卒前教育 1 理学療法教育論~現状と未来~
【はじめに】
わが国に理学療法士が誕生してから半世紀が経過しようとしています。
現在の理学療法士の養成施設は募集停止を含め249校であり,4年制大学93校(37.4%),3年制短期大学6校(2.4%),4年制専門学校71校(28.5%),3年制専門学校79校(31.7%)である。(公社)日本理学療法士協会(以下,本会)が推進する4年制化に視点を当てると,約66%が4年制の教育課程になっています。3年制専門学校の卒業生でも一定の条件をクリアすれば大学院への進学が可能になっていることを考えると,協会の目標としては大学院教育を目指すべきではないかと考えています。
【理学療法学教育の変遷】
昭和41年に施行された理学療法士・作業療法士学校・養成施設指定規則(以下指定規則)では,総時間数3,300時間で行われており,1,680時間(50.9%)が臨床実習に割り振られ,即戦力としての養成が行われていました。
昭和47年の指定規則の改正では基礎科目と専門科目の2大分類となり,心理学,人間発達,物理学,体育実技などの必修科目が組み込まれることにより,問題解決能力を備えた人材の育成を目指しています。臨床実習は1,680時間から1,080時間(40.0%)と600時間の削減により総時間数は2,700時間となりました。
平成元年の指定規則の改正では,基礎科目に外国語が追加され,専門科目も専門基礎科目と専門科目に明確に区分されている。専門基礎科目にリハビリテーション概論やリハビリテーション医学が登場し,地域保健学,地域福祉学,精神科リハビリテーションの内容も追加されています。専門科目については,生活環境論が追加され高齢化社会に向けた対応が時代背景として求められていたことが推測されます。特筆すべきは,200時間の自由裁量時間が設けられ,養成施設独自のカリキュラム編成が可能になったことです。この自由裁量時間の多くは臨床実習に割り振られていたと理解しています。総時間数は2,990時間となり,臨床実習は810時間(27.1%,自由裁量時間200時間を加えると33.8%)に減少しています。
ここまでの指定規則の改正では,臨床実習の時間数は総時間数の約1/3で,即戦力としての養成を目指していたと考えられます。
平成11年の指定規則の改正は,科目の大枠のみを提示し,内容等についてはそれぞれの養成施設の裁量に任されることになり,いわゆるカリキュラムの大綱化が行われている。さらに規制緩和の推進,教育内容の弾力化,学生の履修負担の軽減化(単位制を含む),適正な専任教員の確保などの観点から見直しが行われている。93単位中臨床実習が18単位(19.4%)となり,平成元年の改正に比べ10ポイント少なくなっている。内容としては地域理学療法学が加わり,地域医療を推進する国の意向が伺える。
平成11年の改正により,即戦力としての養成ではなく,卒後研修を含めた理学療法士の育成が急務となり,本会としても生涯学習システムを整備した経緯があります。
【理学療法学教育の今後】
先日,半田協会長のメッセージに「予防理学療法実施に当たっては,診療の補助に該当しない範囲であれば,『理学療法士』の名称を用いて活動することは,何ら問題ないとの見解を厚生労働省医政局から得た」との報告がありました。このことは会員の多くが養成施設で学んだ「理学療法とは身体に障害のある者に対し,…」の法律の解釈を大きく変更することを意味しています。毎年理学療法士が年間1万人以上増加することを考えると,予防理学療法に足を踏み出すことが出来たことは大きな飛躍に繋がります。
今後,「予防理学療法学」としてどのようなカリキュラムを編成して行くのか,早急な対応が望まれます。
医師の教育では,卒後に2年間の臨床研修制度が義務化され,看護師では平成22年4月から努力義務化されています。このような現状を鑑み,協会としても早急に臨床研修制度の創設に踏み切るべきであると考えています。法律上の問題,教育上の課題,研修施設の問題,認定理学療法士の数の問題等多岐にわたります。筆者は,卒業後1年間の研修を義務化し,呼吸・循環,運動器,神経系,地域を3カ月ごとにローテーションすれば,理学療法士の免許を有しての研修となり,効率的な研修が可能ではないかと考えています。また,受け入れ側にとっても診療報酬の請求が可能となるのでメリットは十分あります。
クリニカルクラークシップの導入により,臨床実習の形態も変わりつつあります。理学療法教育ガイドライン第1版によると,臨床実習教育における到達目標のミニマムを「ある程度の助言・指導のもとに,基本的理学療法を遂行できる」としていますが,筆者は「自律して基本的理学療法が実施できる」を目指すべきだと考えています。
【おわりに】
卒前教育については,いろいろな考え方があると思います。参加者の皆さんとディスカッションできることを期待しています。
わが国に理学療法士が誕生してから半世紀が経過しようとしています。
現在の理学療法士の養成施設は募集停止を含め249校であり,4年制大学93校(37.4%),3年制短期大学6校(2.4%),4年制専門学校71校(28.5%),3年制専門学校79校(31.7%)である。(公社)日本理学療法士協会(以下,本会)が推進する4年制化に視点を当てると,約66%が4年制の教育課程になっています。3年制専門学校の卒業生でも一定の条件をクリアすれば大学院への進学が可能になっていることを考えると,協会の目標としては大学院教育を目指すべきではないかと考えています。
【理学療法学教育の変遷】
昭和41年に施行された理学療法士・作業療法士学校・養成施設指定規則(以下指定規則)では,総時間数3,300時間で行われており,1,680時間(50.9%)が臨床実習に割り振られ,即戦力としての養成が行われていました。
昭和47年の指定規則の改正では基礎科目と専門科目の2大分類となり,心理学,人間発達,物理学,体育実技などの必修科目が組み込まれることにより,問題解決能力を備えた人材の育成を目指しています。臨床実習は1,680時間から1,080時間(40.0%)と600時間の削減により総時間数は2,700時間となりました。
平成元年の指定規則の改正では,基礎科目に外国語が追加され,専門科目も専門基礎科目と専門科目に明確に区分されている。専門基礎科目にリハビリテーション概論やリハビリテーション医学が登場し,地域保健学,地域福祉学,精神科リハビリテーションの内容も追加されています。専門科目については,生活環境論が追加され高齢化社会に向けた対応が時代背景として求められていたことが推測されます。特筆すべきは,200時間の自由裁量時間が設けられ,養成施設独自のカリキュラム編成が可能になったことです。この自由裁量時間の多くは臨床実習に割り振られていたと理解しています。総時間数は2,990時間となり,臨床実習は810時間(27.1%,自由裁量時間200時間を加えると33.8%)に減少しています。
ここまでの指定規則の改正では,臨床実習の時間数は総時間数の約1/3で,即戦力としての養成を目指していたと考えられます。
平成11年の指定規則の改正は,科目の大枠のみを提示し,内容等についてはそれぞれの養成施設の裁量に任されることになり,いわゆるカリキュラムの大綱化が行われている。さらに規制緩和の推進,教育内容の弾力化,学生の履修負担の軽減化(単位制を含む),適正な専任教員の確保などの観点から見直しが行われている。93単位中臨床実習が18単位(19.4%)となり,平成元年の改正に比べ10ポイント少なくなっている。内容としては地域理学療法学が加わり,地域医療を推進する国の意向が伺える。
平成11年の改正により,即戦力としての養成ではなく,卒後研修を含めた理学療法士の育成が急務となり,本会としても生涯学習システムを整備した経緯があります。
【理学療法学教育の今後】
先日,半田協会長のメッセージに「予防理学療法実施に当たっては,診療の補助に該当しない範囲であれば,『理学療法士』の名称を用いて活動することは,何ら問題ないとの見解を厚生労働省医政局から得た」との報告がありました。このことは会員の多くが養成施設で学んだ「理学療法とは身体に障害のある者に対し,…」の法律の解釈を大きく変更することを意味しています。毎年理学療法士が年間1万人以上増加することを考えると,予防理学療法に足を踏み出すことが出来たことは大きな飛躍に繋がります。
今後,「予防理学療法学」としてどのようなカリキュラムを編成して行くのか,早急な対応が望まれます。
医師の教育では,卒後に2年間の臨床研修制度が義務化され,看護師では平成22年4月から努力義務化されています。このような現状を鑑み,協会としても早急に臨床研修制度の創設に踏み切るべきであると考えています。法律上の問題,教育上の課題,研修施設の問題,認定理学療法士の数の問題等多岐にわたります。筆者は,卒業後1年間の研修を義務化し,呼吸・循環,運動器,神経系,地域を3カ月ごとにローテーションすれば,理学療法士の免許を有しての研修となり,効率的な研修が可能ではないかと考えています。また,受け入れ側にとっても診療報酬の請求が可能となるのでメリットは十分あります。
クリニカルクラークシップの導入により,臨床実習の形態も変わりつつあります。理学療法教育ガイドライン第1版によると,臨床実習教育における到達目標のミニマムを「ある程度の助言・指導のもとに,基本的理学療法を遂行できる」としていますが,筆者は「自律して基本的理学療法が実施できる」を目指すべきだと考えています。
【おわりに】
卒前教育については,いろいろな考え方があると思います。参加者の皆さんとディスカッションできることを期待しています。