第49回日本理学療法学術大会

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専門領域研究部会 教育・管理理学療法 » 教育・管理理学療法 教育セミナー

理学療法教育の連携~現状から変革へ~

Sun. Jun 1, 2014 9:30 AM - 12:10 PM 第8会場 (4F 411+412)

司会:酒井桂太(大阪河﨑リハビリテーション大学理学療法学専攻)

専門領域 教育・管理

[2073] I 卒前教育 2 専門教育の水準

髙橋精一郎 (九州栄養福祉大学リハビリテーション学部理学療法学科)

水準とはその国あるいはその分野の知識や業務遂行能力の標準的な高さを示すものであり,教育の水準を判断するには「提供する教育内容のレベル」と「教育を受ける者が到達すべき能力レベル」がある。教育制度は3年制の専門学校からスタートして,短期大学部,4年制専門学校,4年制学部と,複数の形態を作り出しながら教育内容を充実させてきた。それは自らが理学療法士として求めるものと社会から理学療法士に求められるものの修得を目指した変遷であり,教育水準はカリキュラムに反映される。厚生労働省による最初の理学療法士作業療法士学校要請施設指定規則(以下,指定規則)は1966年に制定された(当時は厚生省)。卒業までの3年間で3,300時間を設定し,基礎科目120時間,基礎医学・臨床医学960時間,理学療法540時間,臨床実習1,680時間が実施された。これは現在の大学の基準に照らすと141単位に相当する1)とされ,教養科目が少なく,臨床で即戦力となる技術者を育成する意図が明確に出されたカリキュラムであった。その中で,指定規則の対象となった養成校のほとんどで4,000時間を超える授業が行われており2),より多くの知識と技術を求めようとした姿勢がみられる。
1972年の指定規則の改正では,前指定規則に比べて教養科目の時間が約3倍に増え,基礎・臨床医学が20%,理学療法が10%の減,臨床実習に至っては35%も時間数が減少した。これは専門知識一辺倒から教養を重視したカリキュラムへの修正と捉えられるが,教養科目でも人間発達や物理学などを含めた専門科目への基礎づくりといった意味合いがみられた。一方で臨床家育成に必要な臨床実習が減少したことは即戦力への期待も減少したことの表れであろう。
1989年の第2回指定規則の改正では,教養科目や基礎・臨床科目の時間が微増,理学療法は自由裁量時間200時間を含めて2.1倍に増加した。専門基礎科目に地域保健学や地域福祉学などが含まれ,教育内容の幅が広がった改正であった。一方,臨床実習は25%も減少したことで,卒前における臨床経験の機会が失われ,臨床家の育成さえも危うい状況となった。
1999年の第3回改定はカリキュラムの大綱化と科目の時間数から単位数への表示変更が主であり,現在もこの規定の下で実施されている。
理学療法士教育の50年を振り返れば,「提供する教育内容」は範囲が広がり,質も高くなったことで知識レベルは向上したものの,臨床実習時間が半減したことで経験レベルは低下したことは多くの認めるところである。知識に関する教育レベルは上昇したと思われるものの,大綱化後の自由裁量化により教育内容の偏りや不足が生じたことも事実である。そこで日本理学療法士協会は教育レベルを一定に保つために,2010年に「教育ガイドライン0版」,2011年に同1版(以下,1版)を作成して,基本的・標準的なカリキュラムを提示すると同時に教員の資格についても基準を設け,質の維持・向上を図ろうとしている。
もう一方の「卒前の学生の到達すべき能力」においては,知識では90%の学生が国の求める水準に達していることは国家試験合格率から確認できる。臨床能力については,2000から2010年の卒業時では,教員が「独立して基本的業務ができる」と捉えている比率が上昇している。それに対して,教員以外では独立して業務ができず「多くの助言を要する」が上昇している3)。学内と学外との認識は逆であるが,卒業時の臨床能力は以前と比べて低下しているとの判断が妥当であろう。
1版では臨床実習教育の到達目標を「ある程度の助言・指導のもとに,基本的理学療法を遂行できる」とし,理学療法卒前教育の到達目標を「理学療法の基本的な知識と技能を修得するとともに自ら学ぶ力を育てる」4)として,詰め込みの「覚える教育」から「自らが学び考える教育」への変換を示した。
教育水準は,学生が「知識がある」や「技術を持っている」だけではなく,課題に直面した時の解決能力の高さであり,それを育成する力を養成校がどれだけ保有し,発揮しているかではないかと考える。
参考文献
1)森永敏博:理学療法教育の歴史的変遷.四条畷学園大学リハビリテーション学部紀要4,四条畷学園大学,2008, p.12.
2)乾 公美:日本における理学療法士教育の歴史的変遷.理学療法ジャーナル,2007:41, p.8.
3)日本理学療法士協会:卒業直後における理学療法士としてのレベル.理学療法白書,2010.
4)日本理学療法士協会:理学療法教育ガイドライン第1版,2010