第50回日本理学療法学術大会

講演情報

分科学会・部門 教育講演

日本神経理学療法学会 分科学会・部門 教育講演7

2015年6月5日(金) 19:10 〜 20:00 第1会場 (ホールA)

司会:吉尾雅春(千里リハビリテーション病院 セラピー部)

[K-07-1] 小脳による運動学習メカニズム

永雄総一1,2,3 (1.理化学研究所・脳科学総合研究センター, 2.希望病院・高次機能研究所, 3.東京都長寿医療研究センター・記憶学習研究チーム)

我々が日常行う運動の大部分は,経験により脳が学習して獲得した運動記憶を用いて実行されている。運動には大脳,小脳や基底核がそれぞれ関与するが,小脳は学習により獲得した運動記憶を用いて運動が正確に行なわれるように働く。本講演では,演者らの実験研究の結果をもとに,小脳がいかにして運動を学習し記憶しているかについて解説するとともに,小脳が運動を制御するために何を学習しているかについて考察する。
小脳は小脳皮質と小脳核からなる。小脳皮質の主要な神経細胞であるプルキンエ細胞には平行線維と登上線維が入力し,それぞれプルキンエ細胞とシナプスを形成する。小脳の平行線維―プルキンエ細胞間シナプスの信号伝達には長期抑圧・増強という可塑的変化があり,同じプルキンエ細胞に入力する登上線維の信号により調節されている。ところで,動物に15分~1時間の眼球運動の訓練を行うと,小脳の平行線維―プルキンエ細胞間シナプスに可塑的変化が生じ,眼球運動の効率に運動学習が生じる。この学習の効果は24時間で消失するが,同じ訓練を適当な休憩期間をはさんで繰り返すと,今度はプルキンエ細胞の出力先の小脳核の神経細胞に新たな可塑性変化が生じ,そこに1週間以上持続する眼球運動の効率に関する長期の運動記憶が形成される。すなわち,小脳では短期と長期の運動記憶がそれぞれ別の神経細胞に形成されるのである。このように,小脳はこの2種類の運動記憶を巧みに使い分けることで,運動を正確に行うように働いていることが分かった。それでは運動を正確に行うために,小脳は一体何を学習し記憶しているか?この問いに対する答えについて,演者らが最近開発したヒトの手の運動学習の実験パラダイムを用いて得た実験の結果をもとに説明する。さらに,小脳が運動だけでなく認知機能にも関係するという最近の考え方を紹介し,小脳研究の将来を展望する。