第50回日本理学療法学術大会

講演情報

分科学会・部門 教育講演

日本予防理学療法学会 分科学会・部門 教育講演17

2015年6月7日(日) 14:20 〜 15:10 第1会場 (ホールA)

司会:柴喜崇(北里大学 医療衛生学部リハビリテーション学科理学療法学専攻)

[K-17-1] 身体活動推進に関する近年の研究の動向―地域環境と身体活動・運動習慣

井上茂 (東京医科大学公衆衛生学分野)

身体活動の様々な効果は既に多くの研究で明らかにされている。世界保健機関(WHO)は,身体不活動を死亡原因の第4位に位置づけており,毎年320万人が身体活動の不足のために死亡していると試算している。身体活動の推進は,個人の健康増進のみならず,予防医学・公衆衛生学上も重要な課題である。
身体活動を推進するためには,その決定要因を明らかにして介入を行う必要がある。従来から,身体活動の決定要因に関する研究は,個人の属性や行動心理学的要因に注目して行われてきた。しかし,行動心理学を用いた個別,あるいは小規模な介入の限界が指摘されるようになり,近年では地域の環境要因に注目が集まっている。これは,居住する地域の特徴が住民の身体活動に影響するという考え方であり,地域環境の整備によって身体活動の推進を図ろうというものである。地域環境は全ての住民に長期にわたって影響するので,集団の身体活動レベルを考える上で重要である。
一般に,身体活動が高まる地域環境の特徴としては,住居密度が高こと,商店街等の目的地が近いこと,道路ネットワークがよいこと,歩道等が整備されていること,交通安全,治安,景観がよいこと,運動できる場所が近くにあること,などが指摘されている。本講演ではこれらの研究成果を整理する。
さらに,予防医学,理学療法の立場から,これらの知見をどのように生かせるのかを,①地域環境を踏まえた身体活動・運動指導,②身体活動・運動習慣に配慮した地域環境の整備,の2つの視点から考える。
WHOはHealth in All Policiesという方針を示しているが,身体活動・健康を規定する要因は多様であり,保健・医療分野のみで十分な対策を実施することは難しいという認識に至っている。医療機関外での活動の重要性,他分野(本テーマでは例えば都市計画分野,都市交通分野など)と連携する重要性を強調し,予防医学の今後の方向性を考えたい。