第50回日本理学療法学術大会

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モーニングセミナー

モーニングセミナー4

Sun. Jun 7, 2015 8:30 AM - 9:20 AM 第1会場 (ホールA)

司会:板場英行

[M-04-1] 筋膜マニピュレーション

理論的背景と評価および治療方法

竹井仁 (首都大学東京健康福祉学部理学療法学科)

人は成長に従い,筋・筋膜のインバランスが生じ,さらに障害や外傷の既往からそのインバランスが複雑化する。右肩前方亜脱臼の痛みが,左足部の治療から開始して治る。このことは筋・筋膜のインバランスに着目すれば理解可能となる。その謎解きの1つとして,筋膜マニピュレーション(fascial manipulation®)がある。この技術は,イタリアのPTのLuigi Stecco氏が発展させてきた治療手技で,筋・筋膜痛の緩和,筋出力の向上,筋の柔軟性の改善などを目的とした筋膜に対する直接的治療手技である。治療部位は,筋力のベクトルが収束する筋外膜上の点であり,一方向性の分節運動の協調性に関与している協調中心(centre of coordination:CC)である。また,1つの平面ではない対角線上の複合運動方式における,いくつかの筋膜単位の力が収束するより幅広い領域または点として,深筋膜と関節周囲へ延びる組織に融合中心(centre of fusion:CF)が存在する。過用や不良姿勢,間違った運動パターンなどによって,筋外膜が高密度化(基質のゲル化とヒアルロン酸の凝集化)すると,筋外膜の収縮が腱を牽引し,その牽引が関節受容器を刺激して関節周囲に痛みを発生させる。この痛みが認知中心(centre of perception:CP)である。深筋膜には筋外膜から筋線維の一部が挿入するので,深筋膜の連結が関節を越えて他のCCやCFへも波及する。変性したCCとCFは,運動検証と正確な触診検証によって特定できる。治療は,高密度化した筋外膜に対して,摩擦によって温度の局所上昇を引き起こし,ゲル化された基質を流動化させることでゾル状に戻し,筋膜の順応性を活用することによってコラーゲン線維間の癒着を除去することにある。CCの治療に関しては前額面・矢状面・水平面の筋膜配列が重要となり,CFの治療には筋膜対角線と筋膜螺旋による筋膜連結が重要となる。今回は,理学療法の治療の考え方と技術を大いに広げる本手技に関して概説する。