第50回日本理学療法学術大会

講演情報

口述

セレクション 口述1

身体運動学

2015年6月5日(金) 09:00 〜 10:00 第5会場 (ホールB5)

座長:百瀬公人(信州大学 医学部保健学科)

[O-0001] 末期変形性膝関節症患者の足踏み運動中のラテラルスラストにおいて膝内転運動は小さい:3D-to-2D registration法

星賢治1, 渡邉五郎1, 藤平知佳音2, 田中隆二3, 黒瀬靖郎3, 藤井二郎3, 蒲田和芳1 (1.広島国際大学大学院, 2.広島国際大学リハビリテーション学部, 3.広島県立障害者リハビリテーションセンター)

キーワード:変形性膝関節症, キネマティクス, ラテラルスラスト

【はじめに,目的】
ラテラルスラスト(以下,スラスト)は立脚初期に生じる膝の横ぶれを指す。変形性膝関節症(以下,膝OA)において,スラストは痛み(Lo, H. et al.2012),膝OA進行のリスク(Chang, A. et al. 2004),マルアライメント(Kuroyanagi, Y. et al. 2012),ピーク膝内反膝角度の増加(Chang, A. et al 2013)との関連性が指摘された。しかし,先行研究の結論は視覚的観察や体表マーカーによるモーションキャプチャーを用いた計測に基づいており,膝関節の微細なキネマティクスは未報告である。本研究の目的は,3D-to-2D registration法を用いて,末期膝OA患者のスラスト中の微細な膝関節キネマティクスを明らかにすることであった。

【方法】
1.対象:リクルート対象は人工関節置換術施行予定の末期膝OA患者であった。肉眼的に著明なスラストが認められた17名21膝(男性4名,女性13名,平均年齢72.6±6.8歳)が研究参加に同意した。

2.X線透視撮影:本研究は横断研究である。膝キネマティクスは3D-to-2D registration法により算出した。その場での足踏み動作を前額面のX線透視撮影の動作課題とした。対象者の転倒リスクを考慮し,足踏み動作中に非対象肢側に設置したバーの把持を許可した。

3.3Dモデル:対象者の患肢のCT撮影により得られた画像に,3D-Doctor(Able Software Corp., Lexington, MA)を用いて骨皮質の輪郭をセグメンテーションし,大腿骨と脛骨の多角形サーフェスモデルを作成した。それぞれの骨モデルに対しKneeFitter(University of Colorado)を用いて局所座標系を埋設した。大腿骨の局所座標系は,Eckhoffら(Eckhoff, G. et al. 2007)の方法に準じ,大腿骨の両後顆に仮想円柱をフィットさせた。脛骨の局所座標系は,腓骨頭レベルに仮想長方形をフィットさせた後,関節面のレベルに移動させた。座標系は前後方向をX軸,上下方向をY軸,内外側方向をZ軸とした。

4.分析:足踏み動作の遊脚後期から接地後の膝の側方移動が終了するまでを解析対象とした。大腿骨と脛骨の6自由度位置・方向は,JointTrack(University of Florida, USA)を用い,3D骨モデルをX線透視画像に投影し,その形状を重ねることにより取得した。次に3D-JointManager(GLAB Corp., Japan)により,投影角を用いて膝関節の6自由度キネマティクスおよび大腿骨と脛骨の近接距離を算出した。測定位置は脛骨の3次元骨モデルの幅を100%としてZ軸上かつXY面にて原点から±25mmの位置で統一し,大腿骨との近接距離をマッピング分析にて算出した。

5.統計:統計解析は対応のあるt検定を用い,α=0.05とした。

【結果】
1.キネマティクス
遊脚後期から側方移動終了時まで膝内反(p=0.218),および脛骨外旋角度(p=0.300)に変化は見られなかった。大腿骨に対し,脛骨は2.5±2.0 mm有意に外側に偏移した(p<0.001)。

2.近接距離
脛骨高原から内外側大腿骨顆の距離は,内側が0.7±1.2 mm(p=0.016),外側が1.5±1.6 mm(p<0.001)増加した。増加量は大腿骨外側顆の方が内側顆に比べ1.2±2.1 mmと有意に大きかった(p=0.016)。

【考察】
本研究の結果からは,ラテラルスラストは膝の内転よりも脛骨の外側偏移と大腿骨外側顆のリフトオフにより生じていることが明らかになった。脛骨外方変位はSaari(2005)らの報告と一致していた。ラテラルスラストの主体は脛骨大腿関節の内転運動ではなく,股関節を中心とした下肢全体の外旋と側方移動である可能性も考えられる。また末期膝OAにおいて外側脛骨隆起の摩耗が観察されることが多く,こうした外側偏移が顆間隆起の摩耗を惹起している可能性も考えられる。今後は脛骨顆間隆起と大腿骨顆の位置関係や,一連のスラスト動作中のキネマティクスを明らかにしていく必要がある。

【理学療法学研究としての意義】
膝OAに特徴的なラテラルスラストの微細なキネマティクスにおいて,膝内転運動の貢献はごく小さいことが判明した。空間における大腿骨と脛骨の運動をさらに詳細に分析することにより,スラストの構成要素がより具体的に解明される可能性がある。この結果は将来の膝OAの保存療法の発展に寄与することが期待される。