第50回日本理学療法学術大会

講演情報

口述

セレクション 口述1

身体運動学

2015年6月5日(金) 09:00 〜 10:00 第5会場 (ホールB5)

座長:百瀬公人(信州大学 医学部保健学科)

[O-0004] 低負荷等尺性トレーニングにおける関節角度別の筋力増強効果

~筋線維長に着目したランダム化比較試験による検討~

田中浩基1, 池添冬芽1, 梅原潤1, 中村雅俊2, 梅垣雄心1, 小林拓也1, 西下智1, 藤田康介1, 荒木浩二郎1, 市橋則明1 (1.京都大学大学院医学研究科人間健康科学系専攻, 2.同志社大学スポーツ健康科学部)

キーワード:筋力トレーニング, 筋線維長, 足関節底屈筋

【はじめに,目的】
筋力トレーニング効果には特異性があることが知られており,たとえば等尺性トレーニング(Isometric Training:IT)を行った関節角度での筋力が特に向上するという関節角度特異性が報告されている。これら関節角度特異的に筋力が向上するという報告はすべて最大筋力の80%以上の高負荷でトレーニングを実施している。先行研究では関節角度と発揮筋力によって筋線維長が変化するとされており,高負荷IT時の筋線維長は同じ関節角度での最大筋力発揮時と同程度となる。つまり高負荷ITの関節角度特異的な筋力向上は,トレーニング時と同じ筋線維長での筋力が向上するという筋線維長特異性とも考えられる。一方で先行研究によると,筋短縮位での低負荷筋力発揮時の筋線維長は筋伸張位・最大筋力発揮時の筋線維長と同程度になると報告されている。このことから本研究においては,筋短縮位での低負荷ITによって筋伸張位での最大筋力が向上するという仮説をたてた。
そこで本研究の目的は,筋短縮位での低負荷ITの筋力増強効果を関節角度別に分析し,IT時と同じ筋線維長となる関節角度での最大筋力が向上するのかどうかを検証することとした。
【方法】
対象者は整形外科的疾患を有さない健常女性16名(年齢21.8±1.5歳)とし,介入群8名,対照群8名に対象を分類した。
介入前後に足関節底屈の最大等尺性筋力(MVC)および腓腹筋の筋束長の測定を行った。MVCはBiodex System4(BIODEX社製)を用いて足関節背屈20°から底屈30°までの10°ごと(6肢位)の足関節底屈MVCを測定した。腓腹筋の筋束長は超音波診断装置(LOGIQ e:GEメディカルシステム社製)を用いて,足関節背屈20°から底屈30°までの10°ごとにそれぞれ安静時,MVC時および30%MVC時の3条件で測定した。筋束長の測定部位は膝窩と外果を結ぶ直線の1/3の高さで腓腹筋内側頭とした。筋束長はAndoらが推奨している方法を用いて,Image J(NIH製)にて超音波画像上の筋束起始部からの走行延長線と腱膜延長線との交点を仮想の筋束付着部としてその距離を測定した。超音波画像は各条件3枚ずつ撮像し,その平均値をデータとして用いた。
介入群には利き足の足関節底屈筋のITを週3回,4週間実施した。ITは足関節底屈20°位で3秒間の足関節底屈の等尺性収縮を20回3セット行った。負荷強度は足関節底屈20°位での30%MVCとした。なお,対照群に介入は実施しなかった。
統計処理は介入群と対照群における介入前後のMVCについてシャピロ-ウィルク検定にて正規性を確認後,足関節角度ごとに分割プロットデザインによる分散分析を行った。事後検定として交互作用が認められた足関節角度でのMVCについて介入前後の比較を対応のあるt検定を用いて行った。なお,有意水準は5%とした。
【結果】
介入群における介入前のMVC時の筋束長は足関節背屈20°,10°,底屈0°,10°,20°,30°それぞれにおいて,4.4±1.3cm,3.5±0.9cm,3.3±1.2cm,2.8±0.7cm,2.5±0.4cm,2.3±0.3cmであった。一方,トレーニングを行った足関節底屈20°・30%MVCでの筋束長は3.1±0.5cmであった。
統計学的分析の結果,足関節底屈0°,10°のMVCにおいて交互作用が認められ,底屈20°の低負荷ITにより底屈0°と10°の筋力が有意に増加した。介入群の介入前後の変化量は足関節底屈0°,10°において23.8±15.7 Nm,18.3±17.2 Nmであった。
【考察】
低負荷ITを行った結果,トレーニングを行った角度(足関節底屈20°)ではなく足関節底屈0°と10°でMVCの向上がみられた。トレーニングを実施した足関節底屈20°・30%MVCにおける筋束長は3.1cmであり,これはMVC時でみると足関節底屈0°(3.3cm)と10°(2.8cm)のときの筋束長に近い。このことは関節角度特異的ではなく筋線維長特異的に筋力が向上したことを示唆している。関節角度特異性を報告している先行研究では80% MVC以上の高負荷でトレーニングを行っており,この場合,MVC時の筋線維長はトレーニングをしている角度の筋線維長と同程度になる。しかし,今回は低負荷・筋短縮位でトレーニングを実施したため,MVC時では筋伸張位の筋線維長と同程度になったと考えられる。
【理学療法学研究としての意義】
本研究の結果,低負荷ITにおいて筋線維長特異性が存在することが示唆された。すなわち低負荷でITを実施する場合は筋短縮位でトレーニングを行うことで,筋伸張位での最大筋力を改善できる可能性が示された。