第50回日本理学療法学術大会

講演情報

口述

口述1

管理運営1

2015年6月5日(金) 09:00 〜 10:00 第6会場 (ホールD7)

座長:本田知久(総合南東北病院 リハビリテーション科)

[O-0007] 回復期リハビリテーション病院における転倒記録の調査からわかった転倒発生時の特徴
と統一事項の変更が転倒に及ぼす影響

足立睦未 (社会福祉法人こうほうえん錦海リハビリテーション病院)

キーワード:転倒記録, 転倒予防, 統一事項

【はじめに,目的】
厚生労働省の調査によると,全国的に転倒骨折が原因で介護が必要になった割合は11.8%であった。島田は,高齢者の転倒危険因子として,内的要因,外的要因,活動要因の3種類に分類しており,転倒は多くの要因が複雑に絡み合うことで発生し,多角的な介入が重要である。村田らは,転倒は高所での活動のように危険度の高い活動より,歩行を中心とした日常生活における動作中によく発生すると報告している。日常生活活動(以下,ADL)の向上を目指している回復期リハビリテーション病院では,転倒事故が多く,転倒予防は重要な課題となっている。当院で転倒を経験した患者の記録から,転倒発生時の状況や患者の状態を明らかにして,転倒を防止する一助とすることを目的に調査した。
【方法】
対象は,平成25年2月~平成26年2月の期間内に転倒を経験した105件であった。転倒は「自らの意思によらず,足底以外の部位が床,地面に着いた場合」と定義されており,本研究においても同様の定義で転倒と判定した。電子カルテ上の各職種の記録とインシデント,アクシデントレポート,「転倒,転落対策チームまくれん隊」が中心となって行っている転倒,転落カンファレンスの記録を用いて調査を行った。調査項目は,転倒発生場所,転倒発生時の行動目的,複数回転倒を経験した人数(以下,複数回転倒者),入院から初回転倒までの期間,患者の病棟における統一事項の変更(以下,統一事項の変更)の有無と,統一事項を変更した内容(以下,統一事項の変更内容)について確認した。統一事項の変更の有無と変更内容は,電子カルテの各職種の記録から転倒が発生する1週間前に遡り転倒が発生した日までの1週間の記録を用いた。統一事項の変更は,患者の身体能力,認知面,体調の変化に伴い多職種で話し合いを行い,病棟における患者の活動をどの程度のレベルで遂行していくか,居室内の環境をどのように変更するか決定をしている。統一事の変更内容は,患者のADL動作時の介助量の変更,居室環境の変更,患者のADL動作時の介助量と居室環境の変更,その他の4つに分類した。
【結果】
転倒発生場所は,ベッドサイド69件,洗面台前10件,トイレ内6件,出入り口4件となり,居室内で発生した転倒件数は転倒件数全体の84.7%を占めた。転倒発生時の行動目的は,排泄39件,物をとる17件,移動12件,移乗10件であった。転倒を経験した者57名に対して複数回転倒者の割合は49.1%を占めた。入院から初回転倒までの期間は平均33.8日で,入院して約1ヶ月で転倒している事例が多かった。統一事項を変更していた件数は79件,変更していなかった件数は26件で,統一事項を変更していた件数は,転倒発生件数の83.0%を占めた。また,統一事項の変更内容は,統一事項を変更した79件に対して,患者のADL動作時の介助量の変更が40.5%,居室環境の変更が7.6%,患者のADL動作時の介助量と居室環境の変更が44.3%,その他が7.6%であった。
【考察】
入院から初回転倒までの期間が約1ヶ月であったことや統一事項の変更後に転倒が発生した割合が83.0%を占めたこと,統一事項の変更内容として患者のADL動作時の介助量と居室環境の変更が44.3%を占めた。この結果から,患者のADL動作に対する介助量の変更や居室環境の変更が転倒の一要因となると考えた。東らによると高齢者は環境への適応能力は低下していると報告し,杉原らによる報告では,環境に対する身体機能の不適切が転倒要因になるとしている。今回の結果から複数回転倒者の割合が49.1%と半数近くを占めていることから,患者のADL動作時の介助量と居室環境の変更だけでは,転倒予防として不十分である。変更後にそれぞれの専門的な視点から再評価を行い,情報共有をしていく必要があると考える。また,転倒発生場所の84.7%が居室であった。当院は個室であり,患者の身体機能や運動能力に合わせて自由に居室環境を調整出来る利点があるが,人の目が少ないことから,患者の異変や単独行動に気づきにくい可能性がある。複数回転倒者の割合も半数近くを占める事から,事前に転倒予防に視点を向けた統一事項の変更が転倒予防へつながると推察された。
【理学療法学研究としての意義】
患者の転倒予防対策を行うためには,多角的な介入が重要である。転倒予防対策後に理学療法士の専門である身体機能と環境の適否において再評価が重要となる。また,患者と1対1で接する機会の多いリハビリ職として患者の変化にいち早く気づく必要がある。これらを他職種へ積極的な情報発信することで,転倒予防へ繋がる。