第50回日本理学療法学術大会

Presentation information

口述

口述1

管理運営1

Fri. Jun 5, 2015 9:00 AM - 10:00 AM 第6会場 (ホールD7)

座長:本田知久(総合南東北病院 リハビリテーション科)

[O-0008] 理学療法士によるインシデントの分析

―公益財団法人日本医療機能評価機構医療事故情報収集等事業の報告から―

内藤幾愛1,2, 斉藤秀之3, 稲田晴彦1, 柳久子1 (1.筑波大学大学院人間総合科学研究科ヒューマン・ケア科学専攻, 2.筑波大学大学院人間総合科学研究科疾患制御医学専攻, 3.医療法人社団筑波記念会)

Keywords:理学療法士, インシデント, 骨折

【はじめに,目的】
わが国では,2004年からは医療事故事例等の収集事業が開始され,現在は公益財団法人日本医療機能評価機構が医療事故情報収集等事業として運営している。理学療法士によるインシデントに関する全国調査は皆無であり,研究報告も非常に少ない。本研究の目的は,医療事故情報収集等事業に報告されている理学療法士によるインシデントを分析し,影響レベルや内容項目を明らかにするとともに,理学療法士によるインシデントの最多とされている「転倒・転落・打撲・その他の外傷」項目について,受傷内容や発生状況を明らかにすること,また,経験年数との関連性を検討することとした。
【方法】
医療事故情報収集等事業における公開データ検索を使用した。2013年3月31日時点での参加登録機関数は1,339施設であった。検索は「事故事例報告」と「ヒヤリ・ハット事例報告」の両者で行い,発生年月は2009年3月から2013年3月とした。検索キーワードは,「リハビリ」と「理学療法」とした。除外基準を,当事者が理学療法士以外の事例,重複事例,理学療法士が直接関与していない事例,外来区分事例とした結果,80事例が対象となった。内容分類には,日本リハビリテーション医学診療ガイドライン委員会の定める「リハビリテーション中に起こりうるアクシデント」11項目に“その他”を追加した全12項目を用い,インシデントのレベル分類には,国立大学病院医療安全管理協議会の定める影響レベルを用いた。疾患名については,国際疾病分類第10版を用いた。そして,総報告における影響レベル別件数を算出した。その後,レベル2以上の事例の当事者経験年数,内容分類,発生時間帯,発生場所,患者の性別,患者の年代,事故に直接関連する疾患名について,件数と割合を算出した。また,「転倒・転落・打撲・その他の外傷」項目の事例については,影響レベルと受傷内容,発生状況の詳細を分析し,当事者の経験年数と件数の関連性をスピアマンの順位相関係数(以下,rs)を用いて検討した。統計処理にはSPSS Statistics 22.0 for Macを使用して,有意水準は5%とした。
【結果】
影響レベル別では,レベル0が2件,1が9件,2が18件,3aが9件,3bが33件,4aが2件,4bが1件,5が1件,その他が5件であった。内容は,「転倒・転落・打撲・その他の外傷」が45件(70.3%)で最多であり,次いで,「バイタルサインの急激な変化や自覚症状の出現」が5件(7.8%)であった。発生時間帯は,「10:00~11:59」が28件(43.8%)と最多であった。発生場所は,機能訓練室が39件(60.9%),病室が13件(20.3%)であった。患者の性別は,男性が54.7%,女性が45.3%であり,年代は,60歳代以上が全体73.4%を占めた。事故に直接関連する疾患名は,最多が「損傷,中毒およびその他の外因の影響」で18件,次いで,「筋骨格系および結合組織の疾患」が12件であった。「転倒・転落・打撲・その他の外傷」において,経験年数とインシデント件数の相関係数はrs=-0.50であり,有意な負の相関を認めた(p<0.01)。また,レベル2は9件,3aは8件,3bは28件であり,3bは全て骨折事例であった。骨折事例の発生状況は,関節可動域練習中が10件(35.7%),歩行練習中が9件(32.1%)であった。
【考察】
医療事故情報収集等事業の公開データは,登録施設のみの報告であることや,「ヒヤリ・ハット事例報告」の全例が公開されていないなどの限界はあるが,影響レベルの高い事例内容を把握するためには有用な情報と考える。本研究より,「転倒・転落・打撲・その他の外傷」事例のうち,影響レベルが高く,発生件数も多い受傷内容は,骨折であることが明らかとなった。そして,発生状況として,歩行練習中が多いことは,過去の報告からも推察されたが,それと同等の割合で関節可動域練習中に骨折事例が生じていたことは,新たな知見であり,改めて注意喚起が必要であると考える。また,竹内(2011)は経験年数とインシデント件数に,内藤ら(2014)は経験年数と「転倒・転落・打撲・その他の外傷」件数に有意な負の相関を認めたと報告しており,本研究もこれらを支持する結果であった。理学療法士の技術向上によって防げる可能性がある「転倒・転落・打撲・その他の外傷」事例の減少や,影響レベルの重度化を予防するためにも,まずは各々の理学療法士が実態を知ることや,各組織において関節可動域練習や歩行練習の技術向上を図る取り組みが必要と考える。
【理学療法学研究としての意義】
本研究の結果は,各養成校や職場にて,理学療法士による患者安全への取り組みを強化していく際に,有用な資料と成り得るのではないかと考える。