第50回日本理学療法学術大会

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2015年6月5日(金) 09:00 〜 10:00 第6会場 (ホールD7)

座長:本田知久(総合南東北病院 リハビリテーション科)

[O-0010] 当院理学療法訓練室における急変時対応のシミュレーション訓練の試行

西川正一郎, 西廼健, 今井智弘, 松田洋平, 朽木友佳子, 南口真, 藤井隆文 (医療法人大植会葛城病院リハビリテーション部理学療法課)

キーワード:リスク管理, 医療安全, 急性期リハ

【はじめに,目的】近年の急性期病床における入院日数の短縮やそれに伴う早期リハビリテーションが実施される場面では,リスクを伴う訓練を実施する機会が多い。その反面,そういった経験値が必要な治療内容であっても,新人セラピストがこのような場面に遭遇する機会も年々増加している現状である。そこで,患者が急変した状況やこれに対する不安要素をアンケート調査し,このような状況下で対応できるようシミュレーション訓練を試行したので,ここに報告する。

【方法】当院理学療法士54名に対しリスク管理・意識に関わる事前アンケート調査を実施。調査内容のうち,急変時の対応・連絡手順において79%が「理解しているが不安である」と回答した。この調査結果を元に,シミュレーション訓練の実施を考案した。原案を消防訓練と同様の手順として医療現場に置き換えて行った。シミュレーション訓練実施前に事前学習として,「意識障害の対応」,「バイタルサインが示す徴候」,「転倒時の対応方法」,「消防訓練手順を元とした応援要請」を当院理学療法士全員に教育した。シミュレーション内容は参加者を患者役,セラピスト役に振り分け,無作為で患者役の内3名にアクシデントのシナリオ(病名,ADL能力,発生する急変内容等を記載)を渡し,そのアクシデント患者を担当したセラピストはシナリオに応じた急変対応手順を行った。訓練の記録はアクシデント発生に遭遇したセラピストが周辺スタッフに応援を呼ぶまでの時間,Drハート(救急対応依頼の全館放送の隠語)要請までの時間,搬送用意までの時間を計測した。

【結果】訓練には理学療法士36名が参加,参加者は1~3年目が15名,4~6年目が9名,7年目以上が12名であった。1回目のアクシデント(患者役経験年数2年目,PT経験年数7年目)では,応援を呼ぶまでに33秒かかり,Drハート要請までの時間1分,搬送用意までの時間1分10秒であった。2回目のアクシデント(患者役経験年数14年目,PT経験年数9年目)では,応援を呼ぶまでに3秒,Drハート要請までの時間1分8秒,搬送用意までの時間1分30秒であった。3回目のアクシデント(患者役経験年数4年目,PT経験年数2年目)では,応援を呼ぶまでに3秒かかり,Drハート要請までの時間34秒,搬送用意までの時間1分17秒であった。

【考察】シナリオ回数が増すにつれて,応援要請までの時間は短縮され,要請後の役割依頼を他のスタッフへ的確に行うことが出来ており訓練成果が見られた。医療事故発生時のパニック対応や他のスタッフへの依頼といった基本的な行動は実地訓練でなければ訓練の成果が把握できないことが認識できた。急変の可能性がある患者を対象とするリハビリテーションの現場においては,安全に治療できるためのスタッフ教育が必要である。また,搬送におけるストレッチャー,車椅子の場所の確認や搬送ルートの確認を再確認することが出来る訓練となった。今回のリスク管理教育において,事前学習とシミュレーション訓練の両方が重要であると認識できる結果であった。

【理学療法学研究としての意義】理学療法教育における救急医療や急変対応技術は,机上レベルの学習が現状であり,臨床現場における対応は施設による卒後教育の訓練が重要であると思われる。また理学療法士が勤める施設としても重要な管理内容であると考えられる。

【参考引用文献】
1)阿部勉,他:生活期リハ・訪問リハで役立つフィジカルアセスメントリスク管理ハンドブック,2014.4.28初版第1刷
2)碓井孝治,他:当院総合リハビリテーションセンターにおける急変時対応の取り組み,2014.5.31,第49回日本理学療法学術大会