第50回日本理学療法学術大会

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口述

口述2

変形性股関節症

Fri. Jun 5, 2015 10:10 AM - 11:10 AM 第8会場 (ガラス棟 G402)

座長:永井聡(広瀬整形外科リウマチ科 リハビリテーション)

[O-0028] 人工股関節全置換術後患者での「歩行アシスト」有用性の検討

装着アンケート調査と三次元加速度センサを用いた歩行解析

西村幸子1, 梅津美奈子1, 菊池佑至1, 喜古勇1, 堀井亮太1, 佃岳1, 下村里子1, 横尾健人1, 和田義明1, 松原正明2, 三宅美博3, 河野大器3 (1.日産厚生会玉川病院リハビリテーション科, 2.日産厚生会玉川病院整形外科, 3.東京工業大学大学院総合理工学研究科)

Keywords:ロボット, 人工股関節全置換術, 三次元加速度センサ

【はじめに,目的】
近年,リハビリテーションにおいてロボット技術の導入が進んでいる。Hondaが開発した装着型歩行補助装置「歩行アシスト」(以下,「歩行アシスト」)は,腰部から大腿部に装着し,歩行リズムの相互適応現象を利用して,股関節屈曲伸展運動をアシストするトルクを発生し,歩行運動を支援する装置である。
当院の先行研究では脳卒中片麻痺患者での歩容変化を検討し,改善効果が示唆されるが,セラピストや機器を使用した歩行評価・観察が不可欠であると報告した。中枢神経系が障害されていない,整形外科疾患患者では即時効果の期待が大きいと考えられる。そこで,変形性股関節症により人工股関節全置換術(以下,THA)を施行した患者に対し「歩行アシスト」の有用性を,装着者へのアンケートと三次元加速度センサを用いた歩行解析により検討した。
【方法】
①対象は2014年7月~10月に変形性股関節症によりTHAを施行し,術後8日目以降の歩行自立(当院基準400m自立歩行可)している80名(男性:女性=4:76,年齢63.7±8.6)。測定は平地を連続5分間,自由歩行速度にて1回実施した。歩行アシストは左右股関節屈曲伸展とそれぞれのアシスト量を設定可能であるが,歩行の全体的なアシストを目的とし,左右股関節屈曲伸展,それぞれ1.0の設定で歩行し,使用前後の通常歩行と比較した。装着者にはアンケート形式で「歩行アシスト」の重量感,運動制限感,使用中,使用後の自覚的な歩行のしやすさを調査した。可能な患者では下記のように歩行計測をした。
②杖歩行自立日(400m歩行可能となった日)から調査日はランダムに装着を実施し,アンケート結果を比較した。
③対象患者のうち可能な患者では,フットセンサと三次元加速度センサを用いて歩行中の空間的な変位と左右の立脚期・遊脚期の区別を行なう腰軌道計測システムを使用し,歩容変化を評価した。測定は直線約30mの歩行路を自由歩行速度にて実施した。腰軌道は前額面後方より観察した場合を示し,上下左右に各方向において腰軌道パターンの特異性を定量的に示す為の特微量を次のように定義した。踵接地~立脚中期の腰の上方移動の左右非対称性をVUsym,左右方向での振幅をHA(cm)とし比較した。解析対象は歩き始めの3歩行周期と終わりの4歩行周期を過度期とし,それらを除外した範囲内で連続した10歩行周期分の変動係数が最小となる範囲とした。統計学的解析はMann-WhitneyのU検定を用い有意水準を5%未満とした。
【結果】
①5分間連続歩行した時の「歩行アシスト」の重量感は71.2%が「重い」と回答し,「運動制限感がある」との回答は62.5%であった。使用中は「歩きやすい」61.2%,「歩きにくい」16.2%であり,使用後の通常歩行では53.8%が「歩きやすくなった」と回答し,「歩きにくくなった」15%であった。
②歩行自立日から調査日までの日数で感想を比較した結果,歩行自立日から早期に装着した例では,歩行の改善を感じる患者が多かった。一方,日数が経過するにつれ「歩きにくい」との回答が増加する傾向があった。
③腰軌道の検討においては,腰の上方移動の左右非対称性UVsymや左右方向の振幅HAは有意に数値が減少し,左右対称に近づき改善を認める例もあった。しかし,今回の客観的評価結果は一定ではなかった。
【考察】
THA患者への歩行アシストの適応において,本装置の重量は2.6kgであり,装着では時に重量を感じたり,運動制限感を感じる患者は多かったが,使用中はアシストの効果が認められた。THA患者は術後,疼痛逃避や筋出力低下により,非術側への重心偏倚や股関節伸展モーメントの不足が歩行時に観察される。代償パターンは様々であるが,装置装着とアシストにより代償歩行が制限され,このような結果が得られたと考える。それらは日数の経過とともに軽減され,術後早期からの適応がより効果的である傾向であった。短時間での装着でも使用後に「歩行のしやすさ」を感じる患者も多く,大畑らは「歩行アシスト」の使用により歩幅や歩行対称性が改善し,効果は使用後の歩行にも継続すると報告しており,THA後のリハとしての歩行の導入には有用性があると思われた。
客観的検証ではやはりばらつきがあり,有用性は全例では示せておらず,今後,他覚的検証に基づいた適応症例の検討も必要である。
【理学療法学研究としての意義】
理学療法の一手段としてリハビリテーションロボットは,リハ効果が得られるかどうかが今後の発展に重要である。検証によりTHA患者への「歩行アシスト」使用の有用性が示唆された。