[O-0030] 人工股関節全置換術適用患者における退院時の階段昇降能力の予測因子の検証
Keywords:変形性股関節症, 改訂TST, 股関節伸展筋力
【はじめに,目的】
人工股関節全置換術(THA)後,半年以降の日常生活動作は,疼痛なく独歩にて生活している症例が大部分を占めるとされている。一方,THA適用患者は退院後も継続して階段昇降が困難な状況にあることが報告されており,退院にあたっては歩行だけでなく段差を含む階段昇降能力の獲得は重要であると考える。近年の診療報酬改定により,在院日数・理学療法介入期間は制限されており,術後早期の運動機能の改善に影響を与える因子を明確にすることは,周術期の理学療法をより効率的に実践するために必要不可欠である。しかしながら,先行研究では,THA適用患者の退院時の階段昇降能力について縦断的に調査した報告はない。
本研究では,THA適用患者を対象に退院時の階段昇降能力を予測する術前の身体機能的因子を検討することを目的とした。
【方法】
対象は当院整形外科にて変形性股関節症(股OA)と診断され,初回片側THAの適用になった40例(男性8例,女性32例,年齢:66.2±9.4歳,BMI:23.5±3.3kg/m2)とした。取り込み基準は,退院時に階段昇降が可能な者,除外基準は,神経学的疾患を有する者・関節リウマチを有する者・臼蓋側骨移植や大腿骨骨切術を併用した者とした。
研究デザインは前向きコホート研究でベースライン調査として,術前に基本属性である性別・年齢・BMI,医学的属性であるOA側(両側性または片側性)・鎮痛薬剤使用の有無・術中出血量・自己効力感(SER),身体機能である疼痛・術側股関節と膝関節可動域(ROM)・術側股関節と膝関節周囲筋の最大等尺性筋力の調査・測定を行い,追跡調査として,退院時に改訂Timed stair test(TST)の測定を行った。改訂TSTは,階段昇降にかかる時間を測定するTSTを基に我々が考案し,第49回日本理学療法学術大会において,その信頼性・妥当性を報告した尺度である。統計解析は,改訂TSTをアウトカムとした重回帰分析を行った。身体機能を説明変数とし,事前に単変量解析にて変数選択を行い,有意水準が0.20を下回る説明変数を投入した。また,医学的属性についても,単変量解析にて有意水準が0.20を下回る変数を基本属性と併せて交絡因子として強制投入した。なお,本研究の改訂TSTは退院直前に測定しており,対象者毎に術後から測定までの日数が異なる。そのため,改訂TST測定までの術後日数を交絡因子として強制投入した。統計ソフトはSPSS ver.19を用い,有意水準は両側5%とした。
【結果】
単変量解析の結果,抽出された変数は説明変数では股関節屈曲筋力・股関節伸展筋力・膝関節屈曲筋力・膝関節伸展筋力・股関節伸展ROM・股関節外転ROM・膝関節伸展ROMであり,基本属性以外の交絡因子では改訂TST測定までの術後日数であった。重回帰分析の結果(p=0.001,R2=0.334),退院時の改訂TSTを予測する術前因子は,股関節伸展筋力(p=0.004,β=-0.421)と膝関節伸展ROM(p=0.038,β=-0.300)であった。交絡因子投入後の重回帰分析の結果(p<0.001,R2=0.616),股関節伸展筋力(p=0.013,β=-0.309),年齢(p=0.014,β=0.317),改訂TST測定までの術後日数(p<0.001,β=0.478)が抽出され,膝関節伸展ROMはモデルから除外された。股関節伸展筋力は,年齢と改訂TST測定までの術後日数などの要因からも独立して退院時の改訂TSTを予測する因子として抽出された。なお,本研究で抽出されたモデルの検定力は,事後検証の結果,1-β=0.999であった。
【考察】
本研究の結果より,術前股関節伸展筋力は年齢や改訂TST測定までの術後日数などの要因からも独立して,退院時の改訂TSTを予測する因子であることが示唆された。すなわち,退院時の改訂TSTが遅延する患者は,術前の股関節伸展筋力が有意に低かった。Puaらは股OA患者において階段昇降の遂行時間と股関節伸展筋力が関連すると報告している。本研究では,股OA患者はTHA術後から退院時までの縦断的な検討においても,先行研究を支持する結果となった。また,改訂TST測定までの術後日数が長い患者は退院時の改訂TSTが遅い結果となった。本研究では,改訂TSTは退院直前に測定しており,術後入院期間に影響を受けると考えられる。したがって,術後入院期間を遅らせる何らかの要因が,退院時の改訂TSTに影響を与えたものと推察された。
【理学療法学研究としての意義】
本研究は,退院時の階段昇降能力の向上を目的とした周術期の理学療法を検討するための一助になると考える。
人工股関節全置換術(THA)後,半年以降の日常生活動作は,疼痛なく独歩にて生活している症例が大部分を占めるとされている。一方,THA適用患者は退院後も継続して階段昇降が困難な状況にあることが報告されており,退院にあたっては歩行だけでなく段差を含む階段昇降能力の獲得は重要であると考える。近年の診療報酬改定により,在院日数・理学療法介入期間は制限されており,術後早期の運動機能の改善に影響を与える因子を明確にすることは,周術期の理学療法をより効率的に実践するために必要不可欠である。しかしながら,先行研究では,THA適用患者の退院時の階段昇降能力について縦断的に調査した報告はない。
本研究では,THA適用患者を対象に退院時の階段昇降能力を予測する術前の身体機能的因子を検討することを目的とした。
【方法】
対象は当院整形外科にて変形性股関節症(股OA)と診断され,初回片側THAの適用になった40例(男性8例,女性32例,年齢:66.2±9.4歳,BMI:23.5±3.3kg/m2)とした。取り込み基準は,退院時に階段昇降が可能な者,除外基準は,神経学的疾患を有する者・関節リウマチを有する者・臼蓋側骨移植や大腿骨骨切術を併用した者とした。
研究デザインは前向きコホート研究でベースライン調査として,術前に基本属性である性別・年齢・BMI,医学的属性であるOA側(両側性または片側性)・鎮痛薬剤使用の有無・術中出血量・自己効力感(SER),身体機能である疼痛・術側股関節と膝関節可動域(ROM)・術側股関節と膝関節周囲筋の最大等尺性筋力の調査・測定を行い,追跡調査として,退院時に改訂Timed stair test(TST)の測定を行った。改訂TSTは,階段昇降にかかる時間を測定するTSTを基に我々が考案し,第49回日本理学療法学術大会において,その信頼性・妥当性を報告した尺度である。統計解析は,改訂TSTをアウトカムとした重回帰分析を行った。身体機能を説明変数とし,事前に単変量解析にて変数選択を行い,有意水準が0.20を下回る説明変数を投入した。また,医学的属性についても,単変量解析にて有意水準が0.20を下回る変数を基本属性と併せて交絡因子として強制投入した。なお,本研究の改訂TSTは退院直前に測定しており,対象者毎に術後から測定までの日数が異なる。そのため,改訂TST測定までの術後日数を交絡因子として強制投入した。統計ソフトはSPSS ver.19を用い,有意水準は両側5%とした。
【結果】
単変量解析の結果,抽出された変数は説明変数では股関節屈曲筋力・股関節伸展筋力・膝関節屈曲筋力・膝関節伸展筋力・股関節伸展ROM・股関節外転ROM・膝関節伸展ROMであり,基本属性以外の交絡因子では改訂TST測定までの術後日数であった。重回帰分析の結果(p=0.001,R2=0.334),退院時の改訂TSTを予測する術前因子は,股関節伸展筋力(p=0.004,β=-0.421)と膝関節伸展ROM(p=0.038,β=-0.300)であった。交絡因子投入後の重回帰分析の結果(p<0.001,R2=0.616),股関節伸展筋力(p=0.013,β=-0.309),年齢(p=0.014,β=0.317),改訂TST測定までの術後日数(p<0.001,β=0.478)が抽出され,膝関節伸展ROMはモデルから除外された。股関節伸展筋力は,年齢と改訂TST測定までの術後日数などの要因からも独立して退院時の改訂TSTを予測する因子として抽出された。なお,本研究で抽出されたモデルの検定力は,事後検証の結果,1-β=0.999であった。
【考察】
本研究の結果より,術前股関節伸展筋力は年齢や改訂TST測定までの術後日数などの要因からも独立して,退院時の改訂TSTを予測する因子であることが示唆された。すなわち,退院時の改訂TSTが遅延する患者は,術前の股関節伸展筋力が有意に低かった。Puaらは股OA患者において階段昇降の遂行時間と股関節伸展筋力が関連すると報告している。本研究では,股OA患者はTHA術後から退院時までの縦断的な検討においても,先行研究を支持する結果となった。また,改訂TST測定までの術後日数が長い患者は退院時の改訂TSTが遅い結果となった。本研究では,改訂TSTは退院直前に測定しており,術後入院期間に影響を受けると考えられる。したがって,術後入院期間を遅らせる何らかの要因が,退院時の改訂TSTに影響を与えたものと推察された。
【理学療法学研究としての意義】
本研究は,退院時の階段昇降能力の向上を目的とした周術期の理学療法を検討するための一助になると考える。