[O-0032] 末期変形性股関節症患者の転倒発生原因の検討
Keywords:変形性股関節症, 転倒, 筋力
【はじめに,目的】
末期変形性股関節症(股OA)患者は同年代の健常者に比べて転倒発生率が高く,転倒予防対策が必要である。しかし,その転倒発生の原因については解明されていない。そこで本研究では,末期股OA患者の股関節機能や運動能力を横断的に調査し,転倒発生に関連する因子を検討した。
【方法】
2013年1月から2014年9月までに人工股関節全置換術(THA)を目的に入院した末期股OA患者210名を調査対象とした。男性患者,慢性関節リウマチ,中枢神経障害,心臓疾患,めまいを有する患者,骨切り術後,大腿骨頚部骨折術後,再THA,THA後1年以内の患者は対象から除外した。
調査内容は,過去1年間での転倒経験の有無,罹患期間,罹患側,併存疾患の有無,服薬の有無,歩行補助具の使用,連続歩行可能時間,脚長差,骨盤傾斜の有無,疼痛(VAS:Visual Analog Scale),身体活動量(IPAQ:国際標準化身体活動質問票),股関節臨床評価(HHS:Harris Hip Score),股関節外転筋力,膝関節伸展筋力,10m歩行時間,跛行の有無とした。脚長差と骨盤傾斜は術前のX線画像より測定し,脚長差は両涙痕を結んだ線と小転子を通る平行線との距離の患健差とし,骨盤傾斜の有無は両涙痕を結んだ線と水平線のなす角である骨盤側方傾斜角が±2°以上を骨盤傾斜ありとした。身体活動量はIPAQを用いて各活動強度と活動時間から1週間の身体活動量(Mets.mins)を算出した。筋力の測定にはHand-Held Dynamometer(アニマ社製μTas F-1)を使用して,手術予定側の股関節外転と膝関節伸展の最大等尺性筋力を測定し,トルク体重比(Nm/kg)を算出した。跛行の有無は跛行なし,軽度,中等度,重度の4段階にて判定し,中等度か重度の場合を跛行ありとした。
統計学的分析としては,転倒経験の有無により転倒群と非転倒群に分け,各調査項目の2群間の比較をMann-Whitney U検定とχ2検定を用いて検討した。転倒発生に関連のある因子を検討するために,従属変数を転倒発生の有無,独立変数を2群間の比較にてp値が0.25未満であった項目とし,年齢,BMIを強制投入したステップワイズ法によるロジスティック回帰分析を実施した。また,抽出された因子に対してROC曲線を作成し,カットオフ値を算出した。有意水準は5%とした。
【結果】
対象者のうち除外基準に該当せず,欠損データのない153名(年齢:64.0±9.1歳)を解析対象とした。過去1年間で転倒経験がある人は46名であり,転倒発生率は30.1%であった。
各調査項目の転倒群と非転倒群の比較の結果,HHS(p<0.05),股関節外転筋力(p<0.01),膝関節伸展筋力(p<0.01)は転倒群のほうが有意に低下していた。10m歩行時間は転倒群のほうが有意に長かった(p<0.01)。外出時に歩行補助具を使用する割合は転倒群のほうが有意に高かった(p<0.05)。中等度以上の跛行を有する割合は転倒群のほうが有意に高かった(p<0.01)。ロジスティック回帰分析の結果,転倒発生に有意な関連要因として抽出された因子は,跛行の有無(オッズ比:3.3,95%信頼区間:1.49-7.14)と膝関節伸展筋力(オッズ比:0.22,95%信頼区間:0.05-0.85)であった。得られた回帰モデルはHosmerとLemeshowの検定の有意確率p=0.30と適合は良好であり,判別的中率は74.5%であった。転倒の危険性を判断する膝関節伸展筋力のカットオフ値は0.93Nm/kgであった。中等度以上の跛行かつ膝関節伸展筋力が0.93Nm/kg未満の人の転倒発生率は68.8%であり,相対危険度は4.7であった。
【考察】
本研究の結果,末期股OA患者の転倒発生に跛行と膝関節伸展筋力が関連していることが明らかになった。さらに中等度以上の跛行を呈し,膝関節伸展筋力が0.93Nm/kg未満である患者は転倒の危険性が非常に高いことがわかった。転倒発生時の状況として末期股OA患者はつまずくこと,バランスを崩すことで転倒する場合が多い(生友,2014)。中等度以上の跛行を呈する場合,歩行周期変動が増大している可能性があり,歩行時遊脚期のつま先の床クリアランスが低下した際につまずき,転倒する危険性が高いと考えられる。また,下肢筋力の低下は高齢者においても重要な転倒原因とされており,股OA患者も同様に膝関節伸展筋力の低下により転倒の危険性が高くなることが明らかになった。
【理学療法学研究としての意義】
本研究の結果より,末期股OA患者において中等度以上の跛行の有無と膝関節伸展筋力は転倒リスクアセスメントとして有用であることが明らかになり,転倒予防対策を講じる上でも重要な情報となると考える。
末期変形性股関節症(股OA)患者は同年代の健常者に比べて転倒発生率が高く,転倒予防対策が必要である。しかし,その転倒発生の原因については解明されていない。そこで本研究では,末期股OA患者の股関節機能や運動能力を横断的に調査し,転倒発生に関連する因子を検討した。
【方法】
2013年1月から2014年9月までに人工股関節全置換術(THA)を目的に入院した末期股OA患者210名を調査対象とした。男性患者,慢性関節リウマチ,中枢神経障害,心臓疾患,めまいを有する患者,骨切り術後,大腿骨頚部骨折術後,再THA,THA後1年以内の患者は対象から除外した。
調査内容は,過去1年間での転倒経験の有無,罹患期間,罹患側,併存疾患の有無,服薬の有無,歩行補助具の使用,連続歩行可能時間,脚長差,骨盤傾斜の有無,疼痛(VAS:Visual Analog Scale),身体活動量(IPAQ:国際標準化身体活動質問票),股関節臨床評価(HHS:Harris Hip Score),股関節外転筋力,膝関節伸展筋力,10m歩行時間,跛行の有無とした。脚長差と骨盤傾斜は術前のX線画像より測定し,脚長差は両涙痕を結んだ線と小転子を通る平行線との距離の患健差とし,骨盤傾斜の有無は両涙痕を結んだ線と水平線のなす角である骨盤側方傾斜角が±2°以上を骨盤傾斜ありとした。身体活動量はIPAQを用いて各活動強度と活動時間から1週間の身体活動量(Mets.mins)を算出した。筋力の測定にはHand-Held Dynamometer(アニマ社製μTas F-1)を使用して,手術予定側の股関節外転と膝関節伸展の最大等尺性筋力を測定し,トルク体重比(Nm/kg)を算出した。跛行の有無は跛行なし,軽度,中等度,重度の4段階にて判定し,中等度か重度の場合を跛行ありとした。
統計学的分析としては,転倒経験の有無により転倒群と非転倒群に分け,各調査項目の2群間の比較をMann-Whitney U検定とχ2検定を用いて検討した。転倒発生に関連のある因子を検討するために,従属変数を転倒発生の有無,独立変数を2群間の比較にてp値が0.25未満であった項目とし,年齢,BMIを強制投入したステップワイズ法によるロジスティック回帰分析を実施した。また,抽出された因子に対してROC曲線を作成し,カットオフ値を算出した。有意水準は5%とした。
【結果】
対象者のうち除外基準に該当せず,欠損データのない153名(年齢:64.0±9.1歳)を解析対象とした。過去1年間で転倒経験がある人は46名であり,転倒発生率は30.1%であった。
各調査項目の転倒群と非転倒群の比較の結果,HHS(p<0.05),股関節外転筋力(p<0.01),膝関節伸展筋力(p<0.01)は転倒群のほうが有意に低下していた。10m歩行時間は転倒群のほうが有意に長かった(p<0.01)。外出時に歩行補助具を使用する割合は転倒群のほうが有意に高かった(p<0.05)。中等度以上の跛行を有する割合は転倒群のほうが有意に高かった(p<0.01)。ロジスティック回帰分析の結果,転倒発生に有意な関連要因として抽出された因子は,跛行の有無(オッズ比:3.3,95%信頼区間:1.49-7.14)と膝関節伸展筋力(オッズ比:0.22,95%信頼区間:0.05-0.85)であった。得られた回帰モデルはHosmerとLemeshowの検定の有意確率p=0.30と適合は良好であり,判別的中率は74.5%であった。転倒の危険性を判断する膝関節伸展筋力のカットオフ値は0.93Nm/kgであった。中等度以上の跛行かつ膝関節伸展筋力が0.93Nm/kg未満の人の転倒発生率は68.8%であり,相対危険度は4.7であった。
【考察】
本研究の結果,末期股OA患者の転倒発生に跛行と膝関節伸展筋力が関連していることが明らかになった。さらに中等度以上の跛行を呈し,膝関節伸展筋力が0.93Nm/kg未満である患者は転倒の危険性が非常に高いことがわかった。転倒発生時の状況として末期股OA患者はつまずくこと,バランスを崩すことで転倒する場合が多い(生友,2014)。中等度以上の跛行を呈する場合,歩行周期変動が増大している可能性があり,歩行時遊脚期のつま先の床クリアランスが低下した際につまずき,転倒する危険性が高いと考えられる。また,下肢筋力の低下は高齢者においても重要な転倒原因とされており,股OA患者も同様に膝関節伸展筋力の低下により転倒の危険性が高くなることが明らかになった。
【理学療法学研究としての意義】
本研究の結果より,末期股OA患者において中等度以上の跛行の有無と膝関節伸展筋力は転倒リスクアセスメントとして有用であることが明らかになり,転倒予防対策を講じる上でも重要な情報となると考える。