[O-0036] スポーツ実施者における膝前十字靭帯再建術後6ヶ月での膝伸展筋力回復に関連する因子およびカットオフ値の検討
キーワード:ACL再建術, 筋力, 関連因子
【はじめに,目的】
膝前十字靭帯(以下,ACL)再建術後では再建側の筋力低下が問題となる。術後の膝伸展筋力の回復はスポーツ復帰おける重要な因子の一つであり,先行研究ではスポーツ復帰に向けては等速性膝伸展運動において健患比で85%以上の値が必要であると報告されている。しかしACL再建術後の膝伸展筋力回復に関係する因子についての報告は散見しており,多くの因子を包括的に検討した報告は少ない。また近年では術後のスポーツ復帰時期は短縮傾向にあり,術後6ヶ月頃にスポーツ復帰を果たす例も報告されている。一方で,この時期に良好な筋力回復を得る上での関連因子を検討した報告はない。そこで本研究ではスポーツ実施者においてACL再建術後6ヶ月時点での膝伸展筋力の回復に関連する因子について男女別に検討すると共に,関連因子のカットオフ値について提示することを目的とした。
【方法】
本研究では2003年から2014年の間に当院または当科関連病院にてHamstrings腱を用いたACL単独再建術を施行し,術前および術後6ヶ月に当院にて膝機能測定を実施した531名の内,反対側の受傷が無く,受傷前のTegner scoreが6点以上の者で,退院後,当院または他院にて外来リハビリテーションを6ヶ月間実施した254名(男性:126名,女性:128名,平均年齢:23.0±8.7歳)を対象とした。個人特性として性別,年齢,BMI,術前Tegner score,受傷から手術までの期間(以下,待機期間),術式(解剖学的一重側再建法または二重束再建法)について問診およびカルテから情報を収集した。膝機能測定では術前および術後6ヶ月においてKT-2000による脛骨前方移動量の健患差と,MYORET RZ-450による角速度60°/secにおける膝伸展筋力の健患比(以下,%膝伸展筋力)を測定した。群分けに関しては,%膝伸展筋力が85%以上の者(以下,High群)と85%未満の者(以下,Low群)の2群に分類した。統計解析として,High群とLow群において各測定項目について単変量解析を用いて群間比較を実施した。次に群間比較にて有意な傾向(p<0.20)を示した変数を独立変数とし,High群であることを従属変数とした多変量ロジスティック回帰分析を実施した。さらに多変量ロジスティック回帰分析にて有意な関連(p<0.05)を示した連続変数についてはReceiver Operating Characteristic(以下,ROC)曲線による分析を行い,カットオフ値を算出した。統計ソフトとしてJMP ver 11.0を用いた。
【結果】
男性においてHigh群60名,Low群66名。女性においてHigh群38名,Low群90名であった。群間比較において,男性では年齢(p<0.01),術前Tegner score(p<0.05),術前の%膝伸展筋力(p<0.01)が,女性では年齢(p<0.01),待機期間(p<0.01),術前Tegner score(p<0.01),術前の%膝伸展筋力(p<0.05)がそれぞれ選択された。多変量ロジスティック回帰分析においては,男女共に年齢(男性:オッズ比0.89,95%信頼区間0.82-0.96,女性:0.91,0.83-0.98)と術前%膝伸展筋力(男性:1.02,1.00-1.04,女性:1.02,1.00-1.04)が因子として抽出された。High群であることを従属変数としたROC曲線から得られたカットオフ値は,男性は年齢22歳(曲線下面積0.71,感度73.3%,特異度60.4%),%膝伸展筋力70.2%(曲線下面積0.68,感度70.0%,特異度60.4%)であり,女性は年齢17歳(曲線下面積0.72,感度73.7%,特異度64.4%),%膝伸展筋力56.1%(曲線下面積0.63,感度84.2%,特異度43.3%)であった
【考察】
男女共にACL再建術前の膝伸展筋力が,術後6ヶ月での膝伸展筋力の回復に関連しており,カットオフ値から男性では術前の膝伸展筋力の健患比が約70%以上,女性では約56%以上の場合で術後6ヶ月における膝伸展筋力の回復が良好であることが示された。また年齢についても,男女共にACL再建術後6ヶ月での膝伸展筋力に関連する因子であったことから,ACL再建術後の膝伸展筋力の回復に向けては,術前の膝伸展筋力の増強を図るだけではなく,術後においても年齢という対象者の特性も考慮したリハビリテーションプログラムを作成する必要があることが示唆される。
【理学療法学研究としての意義】
スポーツ実施者におけるACL再建術後6ヶ月での膝伸展筋力の回復に関連する因子を抽出した。本研究の結果は,ACL再建術後の膝伸展筋力の回復および術後早期でのスポーツ復帰に向けた理学療法介入の一助となり得る。
膝前十字靭帯(以下,ACL)再建術後では再建側の筋力低下が問題となる。術後の膝伸展筋力の回復はスポーツ復帰おける重要な因子の一つであり,先行研究ではスポーツ復帰に向けては等速性膝伸展運動において健患比で85%以上の値が必要であると報告されている。しかしACL再建術後の膝伸展筋力回復に関係する因子についての報告は散見しており,多くの因子を包括的に検討した報告は少ない。また近年では術後のスポーツ復帰時期は短縮傾向にあり,術後6ヶ月頃にスポーツ復帰を果たす例も報告されている。一方で,この時期に良好な筋力回復を得る上での関連因子を検討した報告はない。そこで本研究ではスポーツ実施者においてACL再建術後6ヶ月時点での膝伸展筋力の回復に関連する因子について男女別に検討すると共に,関連因子のカットオフ値について提示することを目的とした。
【方法】
本研究では2003年から2014年の間に当院または当科関連病院にてHamstrings腱を用いたACL単独再建術を施行し,術前および術後6ヶ月に当院にて膝機能測定を実施した531名の内,反対側の受傷が無く,受傷前のTegner scoreが6点以上の者で,退院後,当院または他院にて外来リハビリテーションを6ヶ月間実施した254名(男性:126名,女性:128名,平均年齢:23.0±8.7歳)を対象とした。個人特性として性別,年齢,BMI,術前Tegner score,受傷から手術までの期間(以下,待機期間),術式(解剖学的一重側再建法または二重束再建法)について問診およびカルテから情報を収集した。膝機能測定では術前および術後6ヶ月においてKT-2000による脛骨前方移動量の健患差と,MYORET RZ-450による角速度60°/secにおける膝伸展筋力の健患比(以下,%膝伸展筋力)を測定した。群分けに関しては,%膝伸展筋力が85%以上の者(以下,High群)と85%未満の者(以下,Low群)の2群に分類した。統計解析として,High群とLow群において各測定項目について単変量解析を用いて群間比較を実施した。次に群間比較にて有意な傾向(p<0.20)を示した変数を独立変数とし,High群であることを従属変数とした多変量ロジスティック回帰分析を実施した。さらに多変量ロジスティック回帰分析にて有意な関連(p<0.05)を示した連続変数についてはReceiver Operating Characteristic(以下,ROC)曲線による分析を行い,カットオフ値を算出した。統計ソフトとしてJMP ver 11.0を用いた。
【結果】
男性においてHigh群60名,Low群66名。女性においてHigh群38名,Low群90名であった。群間比較において,男性では年齢(p<0.01),術前Tegner score(p<0.05),術前の%膝伸展筋力(p<0.01)が,女性では年齢(p<0.01),待機期間(p<0.01),術前Tegner score(p<0.01),術前の%膝伸展筋力(p<0.05)がそれぞれ選択された。多変量ロジスティック回帰分析においては,男女共に年齢(男性:オッズ比0.89,95%信頼区間0.82-0.96,女性:0.91,0.83-0.98)と術前%膝伸展筋力(男性:1.02,1.00-1.04,女性:1.02,1.00-1.04)が因子として抽出された。High群であることを従属変数としたROC曲線から得られたカットオフ値は,男性は年齢22歳(曲線下面積0.71,感度73.3%,特異度60.4%),%膝伸展筋力70.2%(曲線下面積0.68,感度70.0%,特異度60.4%)であり,女性は年齢17歳(曲線下面積0.72,感度73.7%,特異度64.4%),%膝伸展筋力56.1%(曲線下面積0.63,感度84.2%,特異度43.3%)であった
【考察】
男女共にACL再建術前の膝伸展筋力が,術後6ヶ月での膝伸展筋力の回復に関連しており,カットオフ値から男性では術前の膝伸展筋力の健患比が約70%以上,女性では約56%以上の場合で術後6ヶ月における膝伸展筋力の回復が良好であることが示された。また年齢についても,男女共にACL再建術後6ヶ月での膝伸展筋力に関連する因子であったことから,ACL再建術後の膝伸展筋力の回復に向けては,術前の膝伸展筋力の増強を図るだけではなく,術後においても年齢という対象者の特性も考慮したリハビリテーションプログラムを作成する必要があることが示唆される。
【理学療法学研究としての意義】
スポーツ実施者におけるACL再建術後6ヶ月での膝伸展筋力の回復に関連する因子を抽出した。本研究の結果は,ACL再建術後の膝伸展筋力の回復および術後早期でのスポーツ復帰に向けた理学療法介入の一助となり得る。